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記者が「狩猟免許」をとったのは…市街地に出没するヒグマとの関係

市街地に出没するヒグマの取材をきっかけに、狩猟免許をとった記者が感じたことは――
市街地に出没するヒグマの取材をきっかけに、狩猟免許をとった記者が感じたことは――

取材の合間を見つけ、1年あまりをかけて、記者は「狩猟免許」をとりました。きっかけは、福岡から北海道・札幌に異動し、「ヒグマが出たみたいだから取材を」と言われたことでした。都市部で出没するヒグマ、それを駆除する民間のハンター――。その関係や、現場の課題を深く知りたいと思い、決めた受験でした。(朝日新聞・古畑航希)

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札幌駅から7キロ地点で出没したヒグマ

上司から「ヒグマが出たみたいだから取材してくれないか」と指示されたのは、2年前の異動して間もないころでした。

クマがいない九州から異動してきた記者は、内心で「クマってニュースになるものなの!?」と感じました。

しかし取材をすると、札幌駅から約7キロの地域でヒグマ3頭の目撃情報があったとのこと。住宅街と山林の間にある畑で、付近からはヒグマの毛やふんも見つかりました。近隣の小学校では登校が見合わせとなりました。

札幌市内ではヒグマの出没があった地域で注意喚起されています=2023年7月、札幌市南区、古畑航希撮影
札幌市内ではヒグマの出没があった地域で注意喚起されています=2023年7月、札幌市南区、古畑航希撮影

散歩コースで出没情報 広がるクマの生息域

ヒグマに気をつければいいのでは……とも感じていましたが、市街地に出没するたびに取材を重ねていると、見え方が変わってきました。

ある時は、自宅から500メートルの山林でも出没したとの情報がありました。

休日の散歩コースでの出現に、夜に帰宅するときはイヤホンを外して周囲の様子に目を配りました。暗闇からのそっと出てきて偶然、出会ってしまうかもしれません。

海岸沿いを食べ物を探して歩くヒグマ=2023年9月、北海道羅臼町、角野貴之撮影
海岸沿いを食べ物を探して歩くヒグマ=2023年9月、北海道羅臼町、角野貴之撮影

さらに取材を経て、少子化や高齢化により、中山間地域で人間の活動が減り、全国的にもクマが生息域を広げていたことを知りました。

クマの出没は、実は人間たちの日本社会の変化に強く影響を受けていることもわかりました。

環境省によると、1980~2020年度で全国のツキノワグマによる死傷者は2277人で、このうち40人が亡くなっています。

ヒグマは死傷者の数こそ73人と比較的少ないですが、うち20人が亡くなっています。

2023年度は全国的にクマが大量出没し、死傷者は過去最多の219人となってしまいました。クマの被害は命に関わる――という思いを強めました。

「死んだシカの目を見てぎょっとした」

動物駆除は民間のハンターに依存せざるをえません。「人間と野生動物の関係は、将来の日本社会において一筋縄では解決しない重要なテーマかもしれない」と感じました。

クマの被害を防ぐ現場はどうなっているのか、どう向き合ったらいいのか――。そう考え、私は狩猟免許を取得しました。そして、銃を所持し、ハンターにもなりました。

2023年度の道内の狩猟免許試験には、1276人が応募しました=2024年3月、札幌市中央区、古畑航希撮影
2023年度の道内の狩猟免許試験には、1276人が応募しました=2024年3月、札幌市中央区、古畑航希撮影

クマやシカなど野生動物による人身被害や農林業被害で苦しむ人に話を聞き、山へ狩りにも出ました。

初めてシカを仕留めたときは、死んだシカの目を見てぎょっとしました。まっすぐに私を見つめてきた瞳は、生気を失い、近づいてもそっぽを向いたまま――。シカの命を奪った罪悪感と、初めて仕留めた興奮が入り交じっていました。

狩猟歴40年のハンターとともに雪の積もった山中を歩きました=2025年2月9日、北海道、古畑航希撮影
狩猟歴40年のハンターとともに雪の積もった山中を歩きました=2025年2月9日、北海道、古畑航希撮影
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駆除の是非など、野生動物の命とどう向き合えばいいのか、現場を知って、さらに答えが見えなくなる気もしました。

今後も人口減少などが加速し、クマの生息域が広がるなかで、より多くの人にとって野生動物との関係は自分事になるでしょう。

2023年7月には、札幌市で住宅の庭先にヒグマが出没した80代男性に話を聞きました。男性は「約60年住むなかで初めての経験」と語っていました。

みなさんの身近には、どんな野生動物がいますか?自宅周辺や通勤・通学路の近くまで、実は多くの野生動物が来ているかもしれません。

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