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過疎化のまちの市議選、なぜ10人が新たに立候補?全員に話を聞くと…
宮城県栗原市の市議選 投開票の結果は

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宮城県栗原市の市議選 投開票の結果は
過疎化が進むまちの市議選で、立候補を決めた新顔が10人も――。さまざまな選挙を取材してきましたが、これまで目にした市議選であれば、新顔はせいぜい数人というのが常でした。何が起きているのか……。そんな驚きから、新たに立候補する10人に理由を聞きました。(朝日新聞記者・福留庸友)
きっかけは、新年度初日。担当となって初めて出席した宮城県栗原市の定例会見で、佐藤智市長が冗談交じりに話したことでした。
「熱い戦いになりそう。市長選より注目されるのではないでしょうか」
これは、市長選と同じ日程(4月20日告示、27日投開票)で行われる市議選のことを指していました。
すぐに調べてみると、確かに熱い。栗原市議会の議員定数は3議席減って21議席に対し、新顔10人が立候補を決断していました。
現職18人、前職2人を合わせると計30人が21議席を争う構図となっていました。
地方議員のなり手不足が全国各地で叫ばれる時代です。直近3回の栗原市議選を見ても、定数よりも2~3人多い候補者数だったことを考えると、明らかに何かが起こっていると感じました。
2005年4月に10町村が合併して誕生した栗原市は、仙台市から北へ約60キロの県北部に位置します。栗駒山を代表とする自然が豊かで農業の盛んな地域です。
ただ、他の地方の例に漏れず、少子高齢化が加速しています。この10年で人口は1万2千人以上減り、この3月末にはついに人口6万人を割り込みました。
高齢化率は42.6%と県内で3番目に高く、昨年度の出生数は174人と10年で半分以下になりました。
そんなまちで、なぜこんなにも熱い戦いが――。新顔10人全員に、立候補する理由を聞きました。
「地元に戻ってきて20年以上になるが、いまだに若手と呼ばれます」
そう危機感を持っていたのは、トップ当選を果たすことになる長谷川敬さん(50)。市内で新聞販売所経営に20年携わっています。
「市議の現職に民間人が少なく、年齢的に今しかない」と出馬を決めたそうです。
異色の経歴を持つのは、宮城県富谷市の市議だった藤原峻さん(43)です。
2期8年務めた後、田舎暮らしを求めて、1年半前に移住してきました。
議員になることは考えていなかったそうですが、仙台市のベッドタウンとして発展する富谷市とは全く逆の状況に、いても立ってもいられなくなったといいます。
新しく立候補を決めた10人の年齢は35~71歳と幅広く、経歴も、元市職員、元教師、元地域おこし協力隊、美容師などと多種多様です。
ただ、共通していたのは「栗原の良さを生かし、なんとか変えたい」という危機感。そして、自ら動き出したことでした。
市とはいえ、過疎のまちに、行動力のある人たちがこれほどいるのかと驚きました。
4月27日の投開票の結果、新顔8人が当選しました。得票数の上位3人は新顔で、トップ10に7人も食い込みました。
市議の平均年齢は60歳と市議選前より約12歳も若返り、全国平均並みとなりました。市民が示した民意も、明らかに変化を望んでいたと考えられます。
「いま動いても、結果が出るのに10年はかかる」と新顔の1人が話した通り、簡単に街の状況が変わるわけではありません。
ただ、定数の4割近くを新顔が占めることになります。政治の世界とこれまで縁のなかった人たちの一歩は、きっと街を変える――。そう感じさせてくれた選挙戦でした。