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IT・科学

医者もメディアも「嫌われている」現状で…医療情報をどう届けるのか

AIの利用も広がるなか、医療情報の届け方や向き合い方はどのように変わっていくでしょうか?
AIの利用も広がるなか、医療情報の届け方や向き合い方はどのように変わっていくでしょうか? 出典: Getty Images ※画像はイメージです

根拠のある医療情報がなかなか届かない難しさを感じている医師やメディアの発信者たち。編集者のたらればさんは、SNSごとに「配信の方法や順序、キャラクター性の強さも違うことの難しさに、やっとこの6年で気づいた」と指摘します。AIの利用も広がるなか、届け方の試行錯誤を語り合いました。(構成=withnews編集部・水野梓)

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withnewsでは、SNSなどで発信している医師たちを招き、「知って、届けて、思い合う~やさしい医療がひらく未来2025~」を開催しました。6年ほど前に、医療のデマや見極め方について対話したイベント以来、再び集まった登壇者たち。医療情報を取り巻く環境の変化や、医療者とのコミュニケーションについて語り合いました。イベントの内容を抜粋してお送りします
【今回のトーク前編はこちら】病気の予防の情報、TikTokに上げるのは…届けるための試行錯誤

【イベントのトーク①はこちら】医療情報、どう変化した?コロナ禍での医師の「強い言葉」への危機感
【イベントのトーク②はこちら】外来に「マスクをしたくない」患者が来たら…医療不信との向き合い方

〝信者〟を集めてビジネスする医師も…

たらればさん:このテーマの根本的な話でもありますが、「人は聞きたい人からの、聞きたい話しか聞かない」という現状がありますよね。

これってつまり、情報の手前に、その伝える人の人間性というかキャラクターがあるわけですよ。

そっちは実は改造可能で、「話を届けたいからいい人になる」というアプローチがあります。僕はかわいい犬の写真をプロフィールに使っていますから、まずここで油断させるわけですよね(笑)。

 

たられば  @tarareba722
編集者(出版社勤務)。関心領域はSNS、平安朝文学、働き方、書籍・雑誌、書店、犬。朝日新聞、講談社、新潮社、集英社、KADOKAWA、サイボウズ式、ほぼ日の學校などに各種書評やエッセイ執筆、講演など。だいたいニコニコしています
たらればさん:ただ、これは危険な話でもあって、いまYouTubeで〝信者〟を集めている人はこのやり方なんですよ。かわいいアニメアイコンで怪しげなことを言うケースもありますよね。

一方で、僕はXになってからTwitterがあんまり好きじゃないんですけど、「まだマシ」感はあると思います。リプライや引用投稿って、発言主とリプライ者が、相対的にまだ「対等」なんですよね。

YouTubeとかTikTokって、出ている人のキャラクター性が圧倒的に強いから、視聴者がより従順になってしまうというか……「一方通行性」の高いメディアなんですよね。

かように、メディアやSNSごとの配信の方法も、順序も、キャラクター性の強さも主従も違うことの難しさにやっとこの6年で気づいた…っていうのはありますね。

大須賀覚先生:ここにいる医師たちはそうじゃないと思いますが、「自分がインフルエンサーになるために医療情報を発信する」という医師もいますよね。

インフルエンサー医師になって、さらに根拠のないことを発信して、〝信者〟のような人を集めてビジネスをしてしまっているケースもあるんですよね。

 

がん研究者・大須賀覚(おおすか・さとる)
米国在住がん研究者。米国で悪性脳腫瘍に対しての新薬開発を行う研究室を運営しながら、がんについて情報発信活動も行なっている。共著書「世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療」。X、Facebook、毎日新聞医療プレミア、Yahooエキスパートなどで発信中
ヤンデル先生:キャラに全振りして「届く力」を手に入れた医療従事者が情報を届けている人たちって、われわれの届けたいターゲットよりかなり狭いんですよ。

なぜなら、商売が成り立つところまでしか人を集めなくていいから。noteなどで発信して月数十万円といった額を手に入れたら、それ以上は拡散しなくてもいいわけです。

 

病理医・市原真(いちはら・しん)ヤンデル先生
永遠の厄年 生粋のダジャレ王  SNSに飽きてSNSをはじめることで有名  たぶんそのうち仕事をやめて仕事をはじめる。著書に『Dr.ヤンデルの病院選び ヤムリエの作法』(丸善出版)、『どこからが病気なの?』(ちくまプリマー新書)など
ヤンデル先生:われわれは、あそこも、あそこも、あそこも助けたい……って難しいことをやろうとしている上に、インフルエンサーほどの届ける力がない。どこかは諦めるしかないんだけど、われわれは諦めたくないわけで、正直困っている状態です。

でも何もしないとただ無駄なので、医師や学会は、まずやれることである「情報をストックする」ということを頑張っているわけですね。

水野梓:たしかに……。

 

withnews編集長・水野梓(みずの・あづさ)
2008年、朝日新聞社入社。医療の取材や新サイトの立ち上げなどを経て、2022年から朝日新聞のニュースサイト「withnews」の編集長
ヤンデル先生:最近は、学会が「医療者だけではなく市民向けに情報をまとめましょう」というのをホームページで取り組む傾向が出てきています。

AIが気軽に使われるようになった世界線で、患者が調べたら「学会のホームページからの情報です」と表示されるなんていうのは、今よりちょっと増えるはずだと思います。

一方で、そういうストック情報を見にいかない若い世代がバサッと落ちている危機的な状態なんですよね。

AI時代が到来したら…取材はどうなる?

大須賀先生:医療情報の検索が、GoogleからAIに変わってきていますよね。ChatGPTが不正確な情報をシャットアウトして、正確な情報をAIが拾うように医療情報をちゃんとネット世界に置いているのか……という点は、重要な課題になってきてますよね。

今のところAIで情報を見ていると、まぁまぁ正確性は担保されてるのかなとは思うんですけど、AI時代になってきて情報の伝え方ってどう変わっていくでしょうか?

たらればさん:ビジネスでは「ちょっと考えて送らなきゃいけないメール」ってあるじゃないですか(笑)。向こうがイヤな気分にならない定型文みたいな、それを考えるコストががーんと下がりました。あとは「こんなのが話題になってますよ」という〝コタツ記事〟みたいなものをまとめるコストもがーんと下がりましたよね。

情報量の土台の一番下がごそっと入れ替わった感じが今の状態で、これが加速度的に進むわけですよね。情報量のピラミッドのなかに正しい情報をどれだけ入れられるかっていう「量」の勝負は、悲しい話ですがほぼ負けが決まってる勝負のような気がしています。

逆に言うとそこでの勝負はもう終わっているから、イベントのような「人間主導の情報発信」のような場で戦っていくしかないんじゃないかなという気はしています。
出典: Getty Images ※画像はイメージです
水野:AI時代でわたしが危惧しているところは、医療情報に限らないことではあるんですけれど、AIに学ばせている一次情報を一番最初にとってきて文字化しているのは、実は人間なんですよね。報道機関でいえば記者で、SNSなら現場にいる人です。

これってAIにはできないことじゃないですか。

今後、ニュースを出すメディアはいらないよね、となっていくと、この一次情報を自分で自ら取材して取りにいく人の存在がどんどん細っていくんですよ。

例えば火事が起きてもその現場を取材する人はいないということになり、SNSで「あそこで火事が起きたらしいぞ」という情報を知るだけになってしまいます。

何時に起きて、どんな被害があって、出火元は……といった情報を一次情報にまとめてくれる、最初の情報を取材する人が細っていくことはすごく怖いことだなと思っています。

実際にアメリカではローカルメディアが維持できず「ニュース砂漠」みたいなことが起きていて、地域の議会や事件を取材して発信する人がいないということが起きています。

マスメディアが嫌われている面はあっても、ほとんどの記者は、自分が取材したものをできるだけ多くの人に届けようと努力しているので、この一次情報を取材する人が細ることが社会にとって本当にいいことなのか、みなさんと一緒に考えたいなぁと思います。

大須賀先生:医師が嫌われているというお話もしましたけど、メディアも嫌われているというお話が出ましたね(苦笑)。

あるコミュニティーの中では圧倒的にマスコミを嫌っている人が実際にいる中で、そこにどうリーチするのかはまた難しさがありますよね。
出典: Getty Images ※画像はイメージです
ヤンデル先生:先ほどのトークで、小児科医の堀向健太先生がマスクをしなかった患者さんに対して、診察室での的確な対応で、少しずつコミュニケーションをとることでマスクをしてくれるようになった、というお話があったじゃないですか。

【トーク採録記事はこちら】外来に「マスクをしたくない」患者が来たら…医療不信との向き合い方

これは、「世の多くの人に届かないから私達は無力である」っていう話とは、全然違うんですよね。堀向先生は、診察室の中という極めて狭い場所ではあるけれど、着実に患者さんにリーチしている。それはすばらしいことだと思います。

ところで、ひとつのデマに踊らされてる人って、たぶん人口の1%とかじゃないでしょうか。でも、そのデマが無数にあるから、人口の何割ぐらいかが踊らされることになってしまっている。ひとつひとつのデマが刺さる人たちの割合って、僕はそんなに大きくないんじゃないかなと思っています。

ターゲットを狭くした情報というものをわれわれももっと出すべきなんだけど、今もひと世代前のやり方を続けていて、「マス」に届けてみたいと思ってしまっているんです。

ならばわれわれは、たとえばAIを使って、「このクラスターに対してはこの情報が必要だ」という見極めをするなど、工夫をしなければいけないと思うんですよね。

大須賀先生:アメリカでも、AIを使うとか、サイエンスコミュニケーションでどうやったらリーチできるのかをものすごく研究している人たちがいます。

ヤンデル先生:それは研究機関とかと組まないと、個人で発信している医療従事者自身はなかなかできないと思います。ただ、それで終わるといけないので、自分がちゃんと顔を見たことのある人たちをイメージして、そこに届くようなコミュニケーションをしっかりやる……という原則に立ち返るしかないんですよね。

「もっと多くの人に見てもらえれば解決だ」というのは幻想で、ターゲットを絞っていかなければいけないということですね。

しんどくても「ここ」で発信し続ける

大須賀先生:わたしたちは「やさしい」というのをテーマにしていて、わかりやすい「易しい」もそうですし、冷たい情報じゃない「優しい」という心のこもった情報を届けることが重要じゃないかとずっと思っています。

みなさんがそういった面で気をつけていることはありますか?

たらればさん:今から600年ぐらい前、欧州でルネサンスがあって活版印刷が登場して、プリントメディアが生まれたわけですよね。

最初に刷ったのは「聖書」と言われています。それまで教会に行かないと神様の声が聞こえなかったのが、本のかたちで自分の家に持って帰れるようになった。個人個人が神様と対話できるようになったわけです。「信仰の民主化」が起こった。

そして今は、全員がデバイスを持っていて、インターネットにつながり、SNSで総発信できるようになりました。

メディアも医者も嫌われてるっていうのは、きっと、わたしたちが地獄の釜のフタが開いたのを見ていなかっただけで、もともと嫌われていたんですよ。フタはとっくに開いていた。

詐欺師ってだいだい優しいじゃないですか。じゃあその現状で、われわれがあえて言う「やさしさ」っていうのは何かというと、しんどく「ここ」に居続けて、参加者の顔を見続けて、5年後も10年後も似たような話をし続けることなのかなぁと思います。

ヤンデル先生:詐欺師もそうですが、やっぱり相手の話をちゃんと聞いているように見える人が優しく見えますよね。

発信者が受け手のことをまったく見てないと、どんどんずれてしまう。発信者のやさしさというのは、相手からの反応を受信する「やさしさ」なんだと思います……でもこれって難しいですね。

水野:わたしは記者自身がもっとオープンになって、取材の経緯や思いをもっと発信していくことが必要だなと思っています。裏付けの取材が大変だということ、「この人の取材なら信じてもいいかな」って思ってもらえるんじゃないかなと思います。
 
【今回のトーク前編はこちら】病気の予防の情報、TikTokに上げるのは…届けるための試行錯誤

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