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日本で唯一泊まれる自然史博物館 恐竜が出迎えるナイトミュージアム

看護師兼漫画家が描く「推し博物館」

©明/集英社
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目次

「日本で唯一の泊まれる博物館に泊まってきたお話です」。恐竜の化石に囲まれた「ナイトミュージアム」体験をまとめたルポ漫画がX(旧ツイッター)に投稿されると、2万7千件以上の「いいね」が集まりました。看護師であり、漫画家であり、日本中の博物館を巡っている明さん(@rikukamehameha)に泊まれる博物館のことや、博物館の魅力を聞きました。(朝日新聞withnews編集部・川村さくら)

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東京から寝台列車で出発

「『泊まれる本屋』とか期間限定のナイトミュージアムがあると聞いてインターネットで探していたんです。するといつでも泊まれる博物館があるというのを見つけて、これは行かなきゃと思いました」

明さんは東京在住。東京駅から寝台列車「サンライズ出雲」に揺られて到着したのは、列車の名前通り島根県。

「日本で唯一の泊まれる博物館」とは島根県奥出雲町にある奥出雲多根自然博物館。国内の自然史博物館としてはただ1館だけ、宿泊ができます。

明さんは2024年10月に電車とバスを乗り継いで17時間をかけて訪れました。

©明/集英社
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「メガネの三城」創業者の夢

入り口で出迎えるのはアロサウルス。展示室に足を踏み入れればエウオプロケファルスの全身骨格標本やティラノサウルスの頭骨標本が待っています。岩石、鉱物もあるし、日本最大級の展示数を誇る魚類化石も!

奥出雲多根自然博物館は1987年に開館。現在は公益財団法人奥出雲多根自然博物館が運営しています。

©明/集英社
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奥出雲町はメガネの三城(現在は「パリミキ」)の創業者多根良尾氏の出身地です。

多根さんは過疎化した地元に貢献するため宿泊施設をつくることを目指していましたが、夢半ばで亡くなりました。

息子の裕詞氏は世界中の化石を収集しており、その展示と宿泊との両方が可能な施設としてオープンしました。

明さんが撮影した館の入り口。「入るとすぐに恐竜がお出迎え。博物館に来たんだと実感できます。ここにこれから宿泊まで出来るのかと思うとワクワクしました」と明さん
明さんが撮影した館の入り口。「入るとすぐに恐竜がお出迎え。博物館に来たんだと実感できます。ここにこれから宿泊まで出来るのかと思うとワクワクしました」と明さん

ただ、客室はメガネの三城の社員研修に使われることがほとんどで、一般客は「0ではないが非常に少ない」程度。

2011年のリニューアル後、夜中に展示された恐竜などが動き出す映画「ナイトミュージアム」にあやかって夜の館内を楽しんでもらえるようしたところ、人気を博しました。

現在は年間5~6千人が宿泊し、全体の3割は小学生以下の子どもが占めているそうです。

奥出雲多根自然博物館=2022年、島根県奥出雲町佐白
奥出雲多根自然博物館=2022年、島根県奥出雲町佐白 出典: 朝日新聞

ドキドキ・ナイトミュージアム

1、2階の展示エリアと3~5階にある客室の間を午後9時までは自由に行き来できます。

19の客室がありますが、平日だったからか明さんが訪れた日の宿泊客は明さん1人のみ。貸し切り状態で満喫できました。

「ガオー」と恐竜の鳴き声が響く展示エリアはあえて照明が落とされ、薄暗くなっています。そこを懐中電灯を持って探索する「ドキドキ・ナイトミュージアム」を存分に楽しみました。

明さんが撮影した写真。「静かな夜の展示室は、美しく、少し恐ろしく、それでいて楽しい素敵な場所。宿泊するので時間を気にせずこの静かな空間を堪能しました」と明さん
明さんが撮影した写真。「静かな夜の展示室は、美しく、少し恐ろしく、それでいて楽しい素敵な場所。宿泊するので時間を気にせずこの静かな空間を堪能しました」と明さん

「怖さより楽しさが勝りました。あやしい赤いライトがともされていて洞窟を体験しているような気持ちでわくわくしてしまいました。童心に返っちゃいましたね」

エレベーターや客室にも恐竜があしらわれていて、見る度に「そうだ、私いま博物館にいるんだ」と感じられたそうです。

翌日朝食をとった6階のレストランからは朝霧につつまれた奥出雲が一望できました。「何もかもがぜいたくな体験でした」

博物館を推すわけは

明さんは沖縄出身で、幼少期を過ごしたのは沖縄本島の中央部、東側の海岸に面する金武町。大学時代は那覇市で過ごし、卒業後東京で看護師として就職しました。

近年は修学旅行のような学校行事に同行する「ツアーナース」をしていましたが、コロナ禍で仕事の機会は減りました。

現在は看護師の教科書のイラストを描くなどの仕事をしていて、締め切りさえ迫っていなければ自由に旅行に行けます。

ツアーナースの体験についてつづったコミックエッセイ「漫画家しながらツアーナースしています。」を集英社のサイト「よみタイ」で連載して単行本化していた明さん。今度は博物館をめぐる連載がやりたいと編集部に掛け合い、3年ほどの交渉をへてようやく実現しました。

Xでバズった奥出雲多根自然博物館でのエピソードも、連載「推し博物館 ひとり旅」のうちの1つです。

「推し博物館 ひとり旅」©明/集英社
「推し博物館 ひとり旅」©明/集英社

地理も時間も越えて

沖縄から東京へ移った明さんにとって、「陸路でどこへでも行ける」ことはとてもうれしいことでした。

幼少期から特に図録が好きな本の虫で、かつ、森で遊ぶことも好きだった明さん。

東京を拠点にあちこちの博物館を訪れて展示を見ることで「自分の世界がひろがっていく」感覚にやみつきになりました。

「地球ができる前のことも、古い地球のことも、歴史も、未来の科学のことも知ることができるんです」。

旅行によって地理的に越境するだけでなく、時間を越境することもおもしろさ。

©明/集英社
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博物館に通うようになったあとには、看護師として出会うひとりひとりの「歴史」にも関心が強くなったそうです。

「高齢者の方が戦争体験を話してくれたり、働き盛りの方が仕事のことを教えてくれたり。子どもも1人1人の中にも大きな世界がある。そんな感覚をふくめて、私のいろんなものを博物館が育ててくれました」

「自分のルーツや住んでいる場所についても知らないことがたくさんありますよね。ぜひみなさんに地元の博物館に足を運んでいただきたいです。とってもおもしろいので」

明さんのコミックエッセイ「推し博物館 ひとり旅」(集英社)は税込み1540円で発売中です。

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