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「透明人間になったみたい」外国人親が泣いた 日本の保育園の経験

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新年度が始まり、保育園や幼稚園では新たな仲間を迎えて、慣らし保育が進んでいます。その中には日本語が苦手な子どもを受け入れている園もあります。保育士や保護者向けの「研修」を進める団体に、受け入れがうまくいくヒントを聞きました。
コロナ禍が落ち着いて以降、外国人数が2割増えた神奈川県。その中心は働きざかりの若者で、子育て世代でもあります。日本で生まれたり、親が呼び寄せたりした子どもたちを、保育園などが受け入れるなか、県内では保育士や外国人保護者向けの研修が好評です。
主催する「かながわ国際交流財団」は24年1月、外国人保護者の経験を元に「保育園・幼稚園での外国につながる園児・保護者受け入れガイドブック」を発行しており、研修はこのガイドブックをもとに進めます。
研修では、知らず知らずのうちに「当たり前」として明言しなかった情報の伝え方について、見直すコツを教えています。
たとえば「上履き」。日本で育った保護者にとっては〝当たり前〟ですが、これは日本特有の文化。〝上履き〟の実物を見せたり、売っているところを教えたりすると伝わりやすいそうです。
さらに「上履きは金曜に持って帰って、月曜に持ってくる」と伝えても、週明けに上履きが汚れたまま持ってくる子も。「週末に家で洗って、月曜に持ってきてください」と持ち帰る理由を添えることで、誰にとっても分かりやすくなります。
〝暗黙の了解〟で明言しなかったことが、意外と多かったことに気づきます。
かながわ国際交流財団の福田久美子さんによると、「外国人の対応は〝英語でなければ〟と思っていた」という保育士は多いそう。一生懸命に英単語を混ぜながら話しかけるものの、当の子どもは母国語が英語ではなくて分からない、ということも。さらに「NO」などきつめに聞こえる表現になってしまいがちです。
バイリンガル教育の専門家の話を紹介し、「保育士さんの母語である日本語できちんと伝えることが大事」と伝えています。
「保育士さんはもともと褒め上手なので、日本語で『こうやってみようね』などと丁寧に、わかりやすく、愛情のこもった言葉で話してくださると、子どもたちにとっても良いと思います」
子どもたちも最初は話せないかもしれませんが、日本語を聞いているうちに、発話ができない「サイレントピリオド」を乗り越え、コミュニケーションが取れるようになると言います。
※関連記事では、言葉が分からない子どもが経験する「サイレントピリオド」についてバイリンガル教育の専門家の話を紹介しています。
保育園で子どもがけがをしたーー。迎えに来た保護者が日本語が分からないときは、どう伝えるのでしょうか。
よく聞くのは「後から日本語が分かるパートナー(もしくは知人)に電話などで伝える」。でも、実際にそう対応された外国人保護者は「透明人間になったみたいだった」と振り返ったそうです。研修では「そのとき迎えに来た人にも、ちゃんと伝えてほしい」と強調します。
「頭を、ぶつけた」など、ジェスチャーを交えながらでも「伝えよう」とする姿勢を見せることが、信頼関係を築くことにつながります。
研修では外国人の母親のこんな保育園経験談を動画で伝えています。
子どものけがについて説明をしてもらえなかったという母親が「とにかくつらかった」と振り返るのは、我が子が「どうせXX君のママは日本語が分からないから」という大人たちの会話を聞いてしまったこと。
子どもながらに「自分の母親がきちんとした情報を伝えられていない」と理不尽に感じていたそうで、母親は「子どもにかわいそうな思いをさせてしまった」と振り返ります。
今も、当時のことを思い出すと涙が出るという母親は、日本語を勉強して、今は外国人たちの通訳支援をしています。
「今は自動翻訳などもあるので、(先生も保護者も)お互いがんばってコミュニケーションをとろうとしてほしい」と語り、伝わらないと決めつけたり、諦めたりしてほしくないと訴えました。
福田さんによると、外国人の保護者に対して「日本語が分からなくて迷惑だろうから」と〝遠慮して〟保護者会に呼ばないといった事例もあるそうです。「迷惑だとは思わないので伝えてほしい。『透明人間』のようには、扱わないでほしいです」
保育現場などでは、まだ紙の「おたより」も多く、保育者から「多言語に翻訳することが難しい」と聞きます。でも福田さんは「簡単に日本語で伝えたいことをまとめてくれたら、みなさん、自分で翻訳できますよ」と答えているそうです。
最近はスマホの自動翻訳アプリが外国人保護者の強い味方。まだ誤訳もありますが、精度は上がってきており、カメラをかざせば、簡単なおたよりなら〝解読〟できます。
一方で、自動翻訳でも外国人保護者を悩ませているのが、日本にありがちな〝時候のあいさつ〟。「立春の空のもと、毎日のお散歩の日差しにも……」という文章は、日本語に慣れていれば読み飛ばしますが、「外国人のみなさんは、もらったものは一生懸命、すべて解読しようとしてしまう。そして大事な情報にたどり着く前に、疲れ果ててしまいます」と福田さん。
主語をはっきり入れること。大事な情報は囲んだり、マーカーをしたりしておくことで、格段に伝わりやすくなると言います。
しかし、自動翻訳は万能ではありません。トラブルや病気、お金など大切なことは、「『多言語支援センターかながわ』など自治体が提供する通訳支援を使って、きちんと保護者に伝えてほしい」と話しています。
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