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八甲田山は1メートル低く、富士山は5センチ高く…なぜ?国土地理院
理由について国土地理院を取材しました

出典: 国土地理院提供
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理由について国土地理院を取材しました
八甲田山や羅臼岳、霧島山やくじゅう連山などの標高が、1日からこれまでより1メートル低くなりました。国土地理院が標高の数値を改定したことによるものですが、背景には、明治時代から継続してきた標高を定める仕組みを変える手法の変更があったといいます。
国土地理院によると、日本全国の標高の基準を決めているのは「水準点」という点で、全国の主要な国道などに沿って2キロごとに設置されています。
この水準点の標高は、約150年の間、東京湾平均海面(標高0m)から全国へ水準測量をつないでいくことで定めてきました。国土地理院は今回、この水準点の標高について、衛星測位を基盤とする値に改定しました。
標高が分かっている水準点から2本のものさしを立て、目盛りの差を読み取る作業を繰り返すことで、高さを決めます。
しかし、重労働で、作業員4人で観測できるのは1日に約4キロ。全国の測量を終えるには10年以上かかるといいます。
加えて、日本は地殻変動が激しいことで知られています。
例えば、宮城県の牡鹿半島は、東日本大震災の影響で2011年から2024年にかけて数十センチ隆起しています。能登半島地震による地殻変動もありました。
地殻変動があることで、時間の経過とともにデータ上の標高と実際の標高のズレが大きくなってしまいます。
測定する距離が長くなるにつれて誤差が積み重なり、精度が低下するという問題もありました。
こうした問題点を解消するため、国土地理院は標高の仕組みを「衛星測位」を基盤とするものに移行し、標高を改定しました。
衛星測位は、GPSなどの衛星で観測した高さから、ジオイド(標高の基準となる0mの面)を引き算して標高を求める方法です。
ジオイドは、平均海面を仮想的に陸地へ延長した面のことです。高精度の標高を求めるには、全国でジオイドのデータを整備することが必要でした。
国土地理院はこのために約4年かけて全国を航空機で測量してデータを収集し、「ジオイド2024 日本とその周辺」という新しい標高基準を作りました。
これにより、標高をスムーズに求められることになったので衛星測位を基盤とする標高の改定ができるようになったといいます。
これに伴い、全国の主要な山のうち79座の標高が1日に改定されました。
青森県の八甲田山(大岳)は、これまでの標高は1585メートルでしたが、1メートル低い1584メートルになりました。
同じく青森県の岩木山は、1625メートルから1メートル低くなり1624メートルになりました。
北海道の羅臼岳は1661メートルが1660メートルになりました。
大分県の涌蓋山は、標高が1500メートルちょうどでしたが、1499メートルになりました。
鹿児島県の櫓岳は、1メートル高くなり621メートルになりました。
富士山は、標高が3776メートルであることは変わりませんが、これまでより5センチ高くなりました。具体的には、3775・51メートルから、3775・56メートルになったといいます。
他にも標高が変わった山があります。いくつか例を挙げると以下のような例があります。
1メートル低くなる→霧島山(宮崎)、くじゅう連山(大分)、三方崩山(岐阜)、チトカニウシ山(北海道)、オプタテシケ山(北海道)
1メートル高くなる→古見岳(沖縄)、徳仙丈山(宮城)
改定された標高は、いずれも1メートル高くなるか低くなるかの範囲になっています。
山の標高はメートル単位で公表しており、今回の改定での最大改定量がプラスは57センチ、マイナスは67センチだったことから、「四捨五入の影響を考慮してもマイナス1メートルからプラス1メートルとなります」(国土地理院の担当者)といいます。
衛星による測量は他にどんなメリットがあるのでしょうか。
実態に合った標高を迅速に取得することが可能になるだけではありません。
地震で被害が出たとき、直後の復興工事において標高は必要不可欠なデータですが、正しいデータを速やかに利用できるようになります。
測量や公共工事の効率化にもつながることが期待されます。
ただ、水準測量にもメリットはあり、今後も水準測量が使えなくなるわけではありません。
短距離なら精度もコストも有利だといい、国土地理院は、「利用者の目的に応じ、測量方法が選択できる環境が整ったとご理解ください」と呼びかけています。
今回変更があった標高は、5月に刊行される2万5千分の1地形図から反映されるそうです。
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