連載
#83 イーハトーブの空を見上げて
箸を休ませない「わんこ牡蠣」採れたて蒸し上げ…一番おいしい季節は

連載
#83 イーハトーブの空を見上げて
Hideyuki Miura 朝日新聞記者、ルポライター
共同編集記者ステンレス製のフタを開けると、「ボワッ」と蒸気が立ち昇り、周囲が一瞬で真っ白に煙る。
目の前に出現したのは、約1メートル四方の鉄板の上に高々と積まれた牡蠣殻の山。
その数なんと66個。
岩手県山田町の漁港のすぐそばにある「三陸山田かき小屋」。
採れたてのカキをそのまま鉄板で蒸し上げ、豪快に味わえると評判だ。
新鮮なカキは、見た目も食感もプリプリだ。
青森県から来た男性は「大迫力で、見た目も味も、想像以上。もう最高です!」と興奮しながら箸を持つ。
鉄板の上に次から次へと牡蠣が盛られる、岩手名物「わんこそば」ならぬ「わんこ牡蠣」。
蒸し上げを担当する佐々木まき子さん(72)は「お客さんのハシが休まないよう、タイミングよくカキを蒸し上げ、殻をむいてお出しするのがコツなんです」。
1人平均25個は食べると言い、「最高は120個。40代の女性でした」。
山田湾は周囲をぐるりと半島に囲まれ、「海の十和田湖」とも呼ばれる。
湾内には豊富な植物性プランクトンを含んだ3本の川が流れ込み、湾口からは親潮と黒潮が混じった海水が入り込む。
そんな豊かで澄んだ水の循環が、大ぶりでうまみがギュッと凝縮した極上のカキを育てる。
海の味がするカキをそのまま楽しんだ後は、レモン汁や唐辛子、青のりをかけて食べる。
スコップで忙しそうに牡蠣を運びながら店員の一人が客に呼びかける。
「牡蠣は産卵を終えた11月ごろから美味しくなり始め、産卵の準備に入る春先に最も美味しくなるんです。次はぜひ、花見の時期に食べに来て下さい。あまりにうまくて飛び上がりますよ!」
(2024年1月取材)
1/9枚