話題
ミャンマー地震、被災日本人のメンタルケア 心理士で元駐妻が支援
「つながりを断たないでほしい」

話題
「つながりを断たないでほしい」
3月28日にミャンマーを震源として発生した地震。ミャンマーと、建物被害が多く発生した隣国のタイには、駐在員やその家族など7万人超の日本人が住んでいます。日本とは異なる環境で被災した人びとの不安が少しでも軽くなればと、〝駐妻〟経験者がオンラインの無料相談を始めました。
外務省によると、昨年10月時点で、震源地であるミャンマーには2161人、同じ地震で建物の倒壊被害などがあったタイには7万421人の日本人が住んでいます。
海外で被災すると、公的な窓口や手続きが分からなかったり、不安を打ち明けにくかったり……といった難しい現状があります。
そこで、今回の地震で被災した人を対象とし、無料のオンライン相談「ミャンマー地震被災者こころホッとライン」が1日から開設されました。
開設したのは臨床心理士で、金城学院大学講師の前川由未子さんです。前川さん自身も、昨年2月まで夫の仕事に帯同してタイに居住しました。
コロナ禍を過ごしたのもタイで、「海外での非常事態の心細さ、見通せなさは身をもって感じています」と話します。
今回の相談窓口は、前川さんがタイ在住時に相談ボランティアをしていた時の仲間と立ち上げたものです。
相談にあたるのは、ともに臨床心理士と公認心理師の資格を持つ前川さんと村上早希さん。二人とも今は日本で暮らしているものの、タイには友人も多く、今回の地震に被災した人たちのことが気がかりだったといいます。
「海外で被災することは、日本での被災以上にストレスがかかります。言語の問題などから情報弱者になり、使える医療機関も限られます。さらに、文化の違いから勝手がわからない部分も出てきます」
そんな状況にある日本人のサポートをしたいと、4月1日から4月30日まで、オンラインで1回30分の無料相談を受け付けることにしました。
仕事の傍ら相談を受けるため時間に限りはあるものの、平日の昼間に予約枠を設けています。
地震による被害や町の状況は、友人たちが発信するインスタグラムの投稿や、LINEでのやりとりを通じて知りました。
そこから感じたのは、同じ被災者でも、住んでいる場所によって被害の状況が全く異なることでした。
今回、タイでは長周期地震動の影響で、高層階のビルなどに被害が出たとみられています。
前川さんが今回の地震で危惧していることは、「住んでいた建物や居住階など、人によって被害がかなり違う」ということ。
「住居被害が甚大な人は、いまもホテル暮らし。引っ越しを考えたり、帰国を早めようと計画している人もいます」
一方で、被害が少なかった人は比較的早い段階から日常生活に戻っている様子もあり、「相手によって状況が違うので、同じタイに暮らす日本人でも、共感を得られないかもと考えて相談がしにくいのではないでしょうか」と指摘します。
タイでは、地震が起きるのは珍しいこと。でも、商業施設の多くは翌日には通常営業に戻るなど、「日常に戻るのがとても早かった」ことから、「日常に戻った『世間』と不安を感じ続ける自分とのギャップを感じ、内にこもっていってしまう人が出ることを心配しています」と話します。
「一番大事なのは命を守ること。今回の地震で不安を感じ、リスクに対するアンテナが高くなり、気を張った状態になっているのは正常な反応です」
不安を抱える人も、そうでない人も混在するコミュニティーの中では、前川さんは「ジャッジをしないコミュニケーションがすごく大事だと思っています」と話します。
〝善し悪し〟や〝これが普通〟といったジャッジを挟まず「そういう感じ方もあるよね」「そういう風に思うんだね」と、ありのままを受容することが大切だといいます。
「地震によって建物に壁にヒビが入っている様子も見ますが、それも人によって捉え方が違います。『次があったら崩れるかもしれない』と眠れなくなる人もいるし、『この程度なら住める』と思う人もいます。どっちが正しいという話ではなく、それぞれの感じ方があるということを理解してコミュニケーションをとってほしい」
1/19枚