連載
#2 #アラサークライシス
「もうすぐ30歳」で陥った漠然とした不安〝ゆとたわ〟で語ったこと
身近な友達には相談できないからこそ…
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#2 #アラサークライシス
身近な友達には相談できないからこそ…
社会に出て数年、ふと「このままでいいの?」と感じてしまう――。結婚や転職など、20代半ばから30代にかけて陥りがちな漠然とした不安や悩みは「クオーターライフクライシス」と呼ばれます。ポッドキャスト番組「ゆとりっ娘たちのたわごと」でこのテーマを取り上げると、リスナーから共感の声が多く届いたそうです。パーソナリティの2人に、20代後半の「漠然とした不安」について聞きました。
「『同級生が家を買ったり、昇進したり、立派に過ごしているように見えてきて、自分はこのままで大丈夫なのだろうか』とモヤモヤに直面したという同世代のコラムを読んだ。私もこれかも。明確に何がつらいというわけじゃないんだけど」
「20代前半はまだ『未来が見えないことへのワクワク感』があったけど、ある程度社会経験を積んで、このまま進んだらこうなるんだろうなっていう自分の未来をなんとなく予想できるようになった。その予想通りに進むことはできるけど、予定調和なのがつまらなく感じるし、なんかしっくりこない。そんなタイミングなんだと思う」
2021年7月、ポッドキャスト番組「ゆとりっ娘たちのたわごと(ゆとたわ)」でパーソナリティをしているほのかさん(32)とかりんさん(31)が、20代後半にさしかかって感じたモヤモヤについて語り合いました。
会社員として働きながらポッドキャストで「他愛もない雑談」を発信している2人は、当時28歳。コロナ禍で自分と向き合う時間も増え、「どう生きていきたいんだろう」と考えていたといいます。
こうした不安が生まれたのは、結婚して家を買ったり、転職したり、周りの友人たちが「着実に人生を進めているように感じる」機会が増えていたこともきっかけでした。
そんななかコラムを読んで、20代半ばから30代にかけて漠然とした不安を抱く状況に「クオーターライフクライシス(QLC)」と名前がついていることを知ったのだそうです。
2人の番組では、結婚や転職、留学といった具体的なテーマを話すのではなく、「漠然とした不安」について語られました。
かりんさんは当時を振り返り、「テスト勉強で例えると、『何が分からないのかも分からない』という感じでした。自分が1年後どうなっているのか、人生をどうしたいのかすら分からなかったと思います」と話します。
「仕事も生活もやりたいことも、これら様々な要素が全部絡み合っているのが一番のモヤモヤポイントだと思います。何を優先したらいいのか。『人それぞれ違っていいんだよ』という世の中の価値観がありますが、じゃあ私はどうしたいんだっけ?という感覚だったのかもしれません」
その不安はどこからやってきたのか。振り返って感じるのは、InstagramなどSNSの影響です。
学生時代までは同じ道を歩いていた友人たちも、20代半ばを過ぎると結婚、出産、転職、独立、移住など、様々な人生を歩むようになりました。その様子は、日々SNSで流れてきます。
楽しい日常の一コマを共有していたはずのSNSが、気づけば「何かを報告するツール」になっていました。
ほのかさんは次のように振り返ります。
「社会人になって数年は『無敵期』。仕事では新しい出会いやつながりができて、25歳でポッドキャストも始めて、すべてが楽しくがむしゃらに進んでいました」
しかし、28歳を過ぎたくらいから気持ちに変化があったそうです。
「急に『もうすぐ30歳』『人生を決めるタイミング』という自覚が芽生えてきました。『仕事はどうする? プライベートは?』と、目の前に現実が差し迫ってきたような感じです。実際、周りでもいろんな決断をする友達が増えてきていました」
2人が就職活動をしていた頃は、「やりたいことを仕事にするように」という考え方が主流だった時代。2010年代中盤には「好きなことで、生きていく」というキャッチフレーズのCMも流れていました。
ほのかさんは、「就活のとき自己分析をしていたら、親に『今はそういうことをするの?』と驚かれました。私たちは、好きなことや興味あることを仕事にするように言われていて、自分で選ぶのが当たり前だと思っていました」と話します。
女性が働く選択肢も多い一方で、「自分で決めていかないと変化は起きづらい。だからこそ『自分は実際はどうしたいんだっけ』という葛藤が生まれるのかもしれません」。
QLCをテーマにした放送回には、同世代を中心に多くの感想が届きました。特に多かったのが「共感の声」です。
かりんさんは、「私たちも当時まさに悩んでいる真っ最中だったので、番組内では解決策を明示できませんでした。それもあって、『分かります』という共感を伝えてくれる感想が多かったです」。
ほのかさんは「『悩みながら人生を進めてみて、今は納得して生きています』と報告してくれる人もいました。『QLC』という名前が付けられていると分かり、自分だけじゃないんだとほっとした人も多かったようです」と話します。
多くの感想が寄せられた背景には、「漠然とした不安は友達に相談しにくい」という事情もありそうです。
「30歳前後になると、歳の近い友達であっても人それぞれ向き合っていることが違って、悩みもバラバラ。漠然とした不安を話しても共感してもらえない気がして、むしろ身近な友達には話しにくいかもしれません」とかりんさん。
ほのかさんは、「個人的な選択や将来設計の話題については、相談すること自体が相手の見えない悩みに触れてしまうかもしれないって、ちょっと気になることがある」と話します。「こうしたポッドキャストで話すことで自分の中で整理されることもあるんです」
放送内で2人は「同年代で同じ感覚の人がいると感じてもらえたらといいな」と話していました。
身近な友達とは共有できない「モヤモヤ」だったからこそ、2人の悩みが多くの人の共感を呼んだのかもしれません。
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