連載
#1 #アラサークライシス
29歳、順風満帆と思っていた…失恋・転職、大きくなる「心の隙間」
「アラサー」「独身」「不安」「幸せになるには」検索してみたら…
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#1 #アラサークライシス
「アラサー」「独身」「不安」「幸せになるには」検索してみたら…
20代後半から30代にかけ、人生に漠然とした不安を抱く――。そんな状態を指す「クオーターライフクライシス」という言葉が、広まってきています。有名大学を卒業し、都内で暮らす女性(29)もその一人。一見すると順調そのものの生活でも、胸の中の「モヤモヤ」が、少しずつ膨らんでいると言います。
都心から近く、人気のスポットもたくさんある東京都目黒区。女性(29)はいま、そこに一人で暮らしています。
有名私立大を卒業し、正社員として収入は安定。都内で学生時代を送ったため、気が向けば、友人たちとすぐに会うことも。特に不自由のない生活です。
「でも……」
昨年まで、女性は広告会社で働いていました。
社内チャットへの返信は、遅くとも5分以内。会議が続き、ランチが夕方近くになることはしばしば。多忙な毎日でしたが、やりがいが勝っていました。
自分のチームが手がけた広告が「良い事例」として競合他社にも紹介された時には、忘れられない快感があったと振り返ります。
休みの日はJ-POP、K-POPアイドルの「推し活」に打ち込みました。さらに恋人もできて、20代は順風満帆に過ぎていきそうでした。
「このままで良いのかな」
昨年の春先、ふとそんな感覚がよぎりました。
仕事は楽しいけれど、忙しさに終わりがあるようには思えませんでした。ちょうど同じころ、ささいなきっかけで恋人とも別れることに。
環境を変えようと、昨夏、別のマーケティング会社に転職しました。
激務から解放され、プライベートも充実……。のはずでしたが、むしろ心の隙間は大きくなりました。
現在の仕事は、上司の指示通りに動くことがほとんど。
前の職場では忙しいことを愚痴りはしても、「自分には好きな仕事があるから」と、大きな心のよりどころになっていたことを痛感しました。
気が付けば、同級生の何割かは結婚し、子どもがいる友人も増えてきました。
ひと月に一度は会っていた大学時代の親友は、パートナーの仕事の関係で北海道へ行き、新しい生活に励むように。アイドルの応援にも、以前のような熱量はなくなりました。
「自分には『役割』がない」。次第に、そんな焦りが募っていきます。
「最近なにをしても満たされないんだよね」。自分と同じような、都内にいる独身の同級生にも、少しだけ悩みを打ち明けてみました。
「それ、やばいよねー」。共感はしてくれても、話は深まることはありませんでした。
「アラサー」「独身」「不安」「幸せになるには」……。
何となくインターネットで検索していると、「クオーターライフクライシス」という言葉が目に入りました。
検索エンジンに表示されたAIの要約には「社会人生活に慣れてきたころ、理想と現実のギャップに不安を感じる」「ほかの人がよく見えて、劣等感を抱いてしまう」といった説明が書かれています。
20代前半までは「クライシス」とは無縁だったという女性。同級生たちも仕事に一生懸命で、周囲との「差」を意識することはありませんでした。
そこから数年。人によって徐々にライフステージが分かれていく中で、「遊べるお金が増えただけの学生のような状態」に居心地の悪さを感じ始めました。
「自分はどこに所属すれば良いんだろう」。どんどん重くなっていく、そんな問い。
親世代にこの不安を打ち明けても、理解はされないかも知れない。女性は、そんな風に思います。「スマホの向こうの無数の『if(もしも)』と、自分を比べなくちゃいけない時代になったからです」
これまではテレビで芸能人のきらびやかな生活を見ても、「別の世界」の話で片付けられた。でもSNSは違う。他人との「境界」があいまいな分、「私と同じくらいの人がセレブな生活をしたり、大企業でバリバリ管理職で働いたりしている」と、つい暗い感情を持ってしまう。女性はそう口にします。
私は私が選んだ道を歩んでいる……。分かってはいても、「自分だってそうなれたかも」という思いに、自信は揺らいでいます。「40代、50代までは、今のままでもやり過ごせるかも知れない。さらにその先となると、あまりに長いし、見通せないですね」
特効薬のない悩み。女性はひとまず、今年の目標を立てることにしました。
「イキイキと仕事をする」「友人を大事にする」「パートナーに出会う」……。
ささいなことを一つ一つ積み重ねることで、見えてくるものがあれば。女性はそう願っています。
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