連載
#91 「きょうも回してる?」
ガチャガチャ自販機、来日して60年 初輸入の会社社長が描く未来
ブーム続く一方「淘汰の時代に入る可能性」

ガチャガチャの専門店をショッピングセンターなどの一角でみかける機会が増えて久しい昨今ですが、ガチャガチャの始まりはいつか、ご存じですか? 実は今年は、ガチャガチャの自販機がアメリカから輸入されて60年目の節目となる年です。当時、自販機を輸入した「ペニイ商会」(現在はペニイ)は、これまでの歴史と今後についてどう総括するのでしょうか。ガチャガチャ評論家のおまつさんが取材しました。
ガチャガチャが日本に上陸して2025年で60年を迎えます。
遡ること、1965年(昭和40年)。国内はいざなぎ景気が始まるなか、米国のペニイ・キングカンパニー代表 のハードマン氏の協力を得て、国内でペニイ商会(現:ペニイ)が1965年2月17日に立ち上がります。そこから、ガチャガチャ自販機を米国から輸入しガチャガチャの日本でのビジネスがスタート。
ここがガチャガチャの歴史が始まったきっかけとなりました。
ガチャガチャ業界は日本国内での発展とともに、世界的な市場に成長し、2010年代では300億円規模の市場だったものが、今や800億円以上(日本玩具協会「玩具市場規模調査」をもとにトイジャーナルが独自に算出)に成長しました。
その先駆けとなったペニイは大きく業界に貢献したと言えます。もしペニイが日本にガチャガチャ自販機を導入していなければ、現在のガチャガチャ文化は存在しなかったかもしれません。まさに、ペニイはその草創期から業界を牽引してきた企業の一つです。
この60年を振り返ると4つの転機があったとペニイの代表・佐藤正臣さんは語ります。
一つ目が、1966年に初めてガチャガチャが「アサヒグラフ」の1月28日号で取り上げられたことです。これがきっかけでガチャガチャが注目を浴びるようになりました。そこに取り上げられていたのがペニイでした。これがひとつのきっかけとなり、東京を中心に展開していたガチャガチャが関西地区にも進出し、そこから全国へと広がっていきました。
次に、玩具メーカーがガチャガチャ業界に参入したことです。1970年代にバンダイが参入します。そこでキャラクタービジネスが一気に加速し、市場が拡大していきます。また1980年代に入ると、ユージン(現タカラトミーアーツ)が業界に加わり、バンダイとユージンで業界に大きく貢献していくようになりました。
そして3つ目として、1995年にペニイとユージンが協力して開発したガチャ自販機「SLIMBOY」(以下、「スリムボーイ」)の誕生を挙げました。
スリムボーイは上下2面が一体化した自販機で場所を取らないスリムでコンパクトなサイズです。これは、業界にとって、大きな転機となりました。
「スリムボーイが生まれたからこそ、今当たり前に見ているガチャガチャ自販機のように、高く陳列できるようになりました。その礎を作ったのがスリムボーイです」と佐藤さん。スリムボーイが登場したことで、設置する場所や売り方が大きく変わったと言います。
ガチャガチャ自販機の大きな特徴として、複数のメーカーの商品を扱えていることがあります。
飲料水の自販機だと、コカ・コーラの自販機にはコカ・コーラの関連した商品で並べられており、サントリーが発売するペプシは販売しておらず、サントリーが作った飲料水の自販機で売られています。
一方、ガチャガチャ自販機はそうではありません。現在流通しているガチャガチャ自販機の多くは、タカラトミーアーツとバンダイの2社が製造していますが、ガチャガチャの売り場を見てみると、タカラトミーアーツが作ったガチャの自販機でも、タカラトミーアーツの商品だけではなく、他社の商品が数多く売られています。これが、ガチャガチャの自販機の特徴であり、業界の活性化や商品の多様化が進んだ背景です。
そして、最後に挙げた4つ目の転機。
それは、1996年にユージン(現タカラトミーアーツの前身)がディズニーキャラクターのガチャ(ガチャはタカラトミーアーツの登録商標)を販売したことで、子ども のみならず大人もガチャに興味を持つようになったことです。
「ディズニーのガチャを販売したことで、購入層が子供のみならず、大人の層も一気に広まった感じがします」
これを機に、ガチャのみならず、大人向けのファンシー雑貨やキャラクターの流通が拡大していきました。
現在、ガチャガチャ業界は800億円を超える規模に成長。近年の成長の理由として佐藤さんが挙げるのは、10代~20代の若者層の流入とインバウンド需要の拡大、ガチャガチャ専門店の台頭です。
佐藤さんは、10代や20代がガチャガチャに目を向けるようになった理由として、SNSの普及が大きく関わっていると言います。
「以前は子供とマニア層が主なターゲットで、10~20代の層がすっぽり抜けていました。それはガチャガチャをすることに恥じらいがあったためかなと思います。昔は若い方たちに向けては人目がつくところではなく、ちょっと影のところに置いた方が売れやすいなどということも言われていました」(佐藤さん)。
若い世代がSNSを活用し、自己表現の一環としてガチャガチャを購入することになり、その結果、若者層にもガチャガチャが広がっていくようになったと分析します。
インバウンド需要の拡大については、インターネットの普及により、日本のアニメ・キャラクターコンテンツが海外でも人気を集めるようになったことを理由に挙げます。現在、外国人観光客がガチャを楽しむ姿もよく見られるようになり、日本のポップカルチャーが世界中に広がり、海外のファンが日本を訪れた際に、ガチャガチャを回すきっかけになりました。
ガチャガチャ専門店の台頭も大きな流れとしてありますが、 ペニイは2002年、日本初の有人ガチャショップ「ガチャマート」を立ち上げていました。
専門店についても先陣を切っていたペニイは、最近の専門店については「特に近年のコロナ禍では、商業施設の空きスペース増加により、ガチャガチャが新たなビジネスチャンスを得る形となり、しっかりとした売り場作りがお客様に刺さったと思います」(佐藤さん)。
今後のガチャガチャ業界について聞くと、業界の急成長が続く一方で、「ガチャガチャの店舗が増え、どこでも手に入るようになったことで、新鮮さを感じにくくなっています」と、今後は淘汰の時代に入る可能性があると佐藤さんは分析します。
また佐藤さんは単にガチャガチャの自販機を並べるだけでは差別化が難しく、次のステップとして体験価値をどう提供するかが重要になってくると言います。
そのため、ペニイでは、ガチャとアミューズメントを融合した新しい売り場づくりに取り組んでいます。例えば、子供向けのプレイエリアを併設したり、ぬいぐるみの自販機を導入したりと、新しい試みを進めています。
また、海外向けの展開も強化し、佐藤さんは「世界の人々が日本のカルチャーを体感できるような売り場作りを目指し、デジタル技術を取り入れた魅力的な空間を演出することで、新たなガチャの楽しみ方を提供したい」と考えています。
「今後は、いまのような成長率で同じようには伸びていかないと思っています。成長のスピードが鈍化していくのではないでしょうか」
「いまの段階で何をしていくべきか。これが今後の未来を左右していきます。メーカーさんにはどんどん新しいことにチャレンジし、業界を盛り上げてほしいです。ペニイもチャレンジをし続け、進み続けていきます。ペニイは今年で60周年を迎え、業界をリードするのは我々だという自負があります」
最後に、佐藤さん自身が感じるガチャの魅力について尋ねると、「実は元々ガチャが好きではなかった」と意外な答えが返ってきました。
大学卒業後、音楽活動を続けていましたが、就職を考えたときにガチャビジネスを知りました。店頭に並び、子ども たちがその場で楽しんでくれる、そんな商売に魅力を感じたといいます。「歌を歌うことと同じように、ガチャは“目の前で人を楽しませる”ことができます。」だからこそ、こんなにも長く関わってきたのだと語ります。
60年の歴史を持つガチャガチャビジネスは、これからも進化を続けていくでしょう。その未来に、今後も注目していきたいです。
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