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国の観測は21年に撤退、今は民間で 意外と知らない花粉予測の世界

花粉症の人にとって日々の花粉予測は非常に重要だが……。※画像はイメージ
花粉症の人にとって日々の花粉予測は非常に重要だが……。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

春が近づくにつれ、多くの人を悩ませる花粉症。その割合は今や2人に1人とも言われます。対策の参考になるのが花粉の飛散予測ですが、実は現在、国としては花粉の飛散状況の測定をしておらず、気象庁も花粉飛散予測はしていません。重要性を増す花粉飛散予測が民間に委ねられた経緯や、テクノロジーを活用した最近の飛散状況の測定方法などについて、事業者を取材しました。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
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2025年は平年を上回る予想

2025年、スギ花粉が本格的に飛散するのは、九州で2月中旬から、中国・四国、近畿、東海、関東・山梨で2月下旬の予想。花粉の飛散量は、西日本と東日本で平年を上回る予想で、特に西日本では過去10年で最も多いか、それに匹敵する飛散量になる予想です。

環境省の『花粉症環境保健マニュアル2022』には、19年の全国調査の結果として、花粉症の有病率が42.5%で、10年ごとにほぼ10%増加していることが示されています。また、気象情報会社のウェザーニューズが24年1月に発表した1万人以上を対象にしたアンケート調査では、2人に1人以上が花粉症を自覚していました。

政府も「花粉症は国民的な社会問題」と位置づけ、23年5月、30年後に花粉発生量の半減を目指す「花粉症対策の全体像」を閣議決定、10月には初期の段階から集中して実施するべき対応を盛り込んだ「花粉症初期集中対応パッケージ」を取りまとめています。

このように、今や国民病として多くの人を悩ませる花粉症ですが、その対策の参考になる花粉の飛散量の予想・予測は、どのように行われているのでしょうか。実は現在、国としては花粉の飛散状況の測定はしておらず、予報のイメージが強い気象庁も、実は花粉飛散予測はしていません。

民間に委ねられた花粉の飛散予測。それにテクノロジーを駆使して取り組むのが、国内で唯一、花粉の自動観測をする、前述のウェザーニューズです。テレビのニュースなどで花粉の飛散予測の情報提供元として名前を見かけることも多い同社に話を聞きました。
 

21年に環境省が測定“撤退”

もともと、国としては環境省が2002年度から、花粉の飛散データを自動的に収集し表示する「環境省花粉観測システム(愛称:はなこさん)」の運用を開始し、沖縄県を除く全国における花粉の飛散状況の情報を毎年、提供してきました。

しかし、同省は約20年後の2021年、この事業を終了し、観測から撤退します。同省はその理由を報道発表でこう説明しています。

「最近では、民間気象事業者において全国に花粉観測機を設置し、環境省よりも多数の地点における花粉の飛散状況の情報提供が行われており、各地方公共団体(一部県を除く)においても、独自の観測による花粉飛散情報が発信されています」

一方、同省内においては、「事務事業の選択と集中を進め、社会変革に向けた機動的・機能的な環境省としていくため」、重点化・拡充すべき事業と廃止・縮小すべき事業を精査。その結果、花粉自動計測器を用いた花粉観測から撤退した、ということです。

同省や林野庁は現在、花粉を放出する花芽の発育状況に関するデータを民間事業者に提供。民間事業者はさらに、気象庁が提供する気象データなどを活用して、花粉予測に取り組んでいます。

同省の実施していた「花粉自動計測器を用いた花粉観測」を、現在も唯一、行っているのがウェザーニューズ社です。同社は1986年に設立された気象情報会社で、国内最大規模のお天気アプリ・サイト「ウェザーニュース」を運営しています。

同社は独自のIoT花粉観測機「ポールンロボ」を全国に約1000カ所設置。空気中に含まれる花粉をリアルタイムに観測しています。環境省の「はなこさん」は全国120カ所だったため、比較するとかなり大きな規模感であることがわかります。
 

リアルタイムの飛散予測を実現

花粉観測機ポールンロボ
花粉観測機ポールンロボ 出典:ウェザーニュース
ウェザーニューズ社の広報担当者に話を聞きました。まず、「ポールンロボ」は通信機能を内蔵しており「電源さえあればどこでも観測が可能」な花粉自動計測器。

形は直径約15cmの球体で、人の顔に見立てて目、鼻、口がかたどられています。内部のファンで空気を吸い込み、空気中に含まれる粒子にレーザー光を当てることで、花粉を認識してカウントします。

実は、24年春のシーズンから、前述の政府の花粉症対策に基づき、花粉の表示ランクが変わりました。従来の「非常に多い」の上に「極めて多い」が新設され、花粉のランクが4ランクから5ランクになっています。

「ポールンロボもこの花粉の新ランクに対応し、目の色が「白/青/黄/赤/紫」の5段階で変化し、設置場所の花粉の飛散量を知らせてくれます。観測したデータはウェザーニューズに1分ごとに自動送信されており、リアルタイムの花粉の飛散予測に活用されています」

ポールンロボの誕生以前は「ダーラム法」と呼ばれる方法が主流でした。これは、屋外に24時間スライドガラスを置き、付着した花粉を顕微鏡で見て数えるもの。

「ダーラム法では、情報の更新は最速でも翌日。数日おきにまとめて情報を公開する観測機関もあり、花粉の予報をするには少し難しい面もありました。その後、自動観測機の誕生、そして弊社がポールンロボとしてリアルタイムの自動観測機を開発したことで、予報精度も格段に向上したと考えています」

ポールンロボが吸い込んだ空気に含まれる粒子には、花粉だけでなくホコリも含まれます。花粉とホコリでは粒子の表面のカタチや大きさが異なるため、この違いをレーザーセンサーが見分けて、花粉と判定したものをカウントしているそう。

ただし、ダーラム法のように顕微鏡による目視であれば見分けられる、スギ・ヒノキの花粉の違いは判別できないため、それは時期の違いで判断しているとのこと。ポールンロボは初代からバージョンアップを経て、現在8代目になるといいます。
 

今年の花粉はなぜ多い・早い?

スギ花粉の飛散のシーズンは例年2月ごろから。しかし、東京都によれば、都内ではすでに1月8日から花粉が飛び始めています。SNSでは花粉症患者とみられる利用者から、もう「くしゃみや鼻水といった花粉症の症状が出ている」という声も聞かれます。

前述したように、花粉の飛散が例年より多い予測の地域もあります。年によって花粉が「多い」「早い」などの違いがあるのはなぜなのでしょうか。

「前年の夏に十分な日照があり、気温が上がるほど花粉の発生源となる雄花の成長が促される傾向があります」と同担当者は説明します。これは、よく晴れた暑い夏ほど光合成が盛んになるため。このような場合、翌年の花粉は多くなる傾向があります。

また、花粉の飛散量は周期的に増減し、花粉の飛散が多い年と少ない年が交互に訪れる傾向があります。飛散量が多い年を「表年」、少ない年を「裏年」と呼び、エリアによって増減の周期は異なるそう。さらに、「表年」「裏年」も異なります。夏の天候等の影響で「表年」「裏年」の区別が不明確になる年もあります。

このような「表年」「裏年」の関係と、前年の夏の天候によって、花粉の飛散量の多い・少ないが決まります。

そして、「スギの雄花は冬の寒さを経験することで休眠から目覚め(休眠打破)ます。休眠から目覚めたスギの雄花は花粉の飛散開始に向けて徐々に生長し、冬の後半から春にかけての時期の気温が高いほど生長が早く進みます」。

つまり、飛散が早い場合は、その地域または飛散元の地域において、冬の前半にしっかり冷え込んだこと、その後の気温が高かった影響が考えられます。

現在は花粉症でない人も、いつ発症するかわかりません。日本全体の関心事である花粉予測ですが、ウェザーニューズ社においてビジネスとして成立するようになったのは最近のことだそう。

開発を重ね、観測が上手くいくようになったのは、2009年の4代目あたりから。全国約1000カ所という展開には大規模な設備投資も伴います。それでも花粉予測に取り組む理由を、同担当者はこう説明します。

「毎年、多くの方が、花粉症の症状に悩まされています。弊社はその悩みを少しでも軽減するために、これからも花粉予報の精度向上や花粉情報の充実化に取り組んでまいります」
 

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