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ネットの話題

「海藻からこんな色が出るとは」気仙沼の海で染めた毛糸が話題

気仙沼の牡蠣養殖でできる「青草」から染めた毛糸
気仙沼の牡蠣養殖でできる「青草」から染めた毛糸 出典: 気仙沼ニッティング (@KesennumaKnit)のX

目次

宮城県気仙沼市にある手編みのニット会社が、使う毛糸を「地元のもので染めよう」と試みました。すると、海藻から予想外の美しい色の毛糸が生まれてーー。SNSで話題になった毛糸について、話を聞きました。

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海の気配を感じる美しい色

話題になったのは、気仙沼市で手編みのニットを作る「気仙沼ニッティング」(@KesennumaKnit)がXに投稿した画像です。

《海藻からこんな色が出るとは。私たちも、漁師さんも、びっくりしました》

画像には、セーターの袖が写っています。養殖した牡蠣のまわりにつく海藻から染めたという毛糸で編んだもの。

《もえぎ色のようでもあり、海の気配を感じる美しい色です。》

この投稿には「めちゃくちゃ綺麗な色でるんですね」「自然ってすごい」「やわらかい素敵な緑」と目を見張る人が多く、1.7万いいねがつきました。

豊かな海に恵まれた町

気仙沼ニッティングの御手洗瑞子さんに話を聞きました。

海藻で毛糸を染めたきっかけは、仙台市に進出した「鎌倉シャツ」(神奈川県鎌倉市)から、「宮城のもので染めた商品をつくってみよう」と声をかけられたことだったそうです。

「ぜひやってみたい」と思い、染料になる素材を探し始めました。

これまでも気仙沼ニッティングで使う毛糸は、通常の染料を組み合わせてオリジナルの色に染めており、「冬の海」「春の海」などの人気色を生み出していました。また、草木染めの手法で、気仙沼の桜の枝で染めたこともありました。

今回は「気仙沼は、豊かな海に恵まれた町。できることならば、海で採れるもので染めてみたい」と考えました。海の物で染めるのは初めて。貝殻や、昆布など、気仙沼の海にあるものをいろいろ試したそうです。

昆布ではうまく色は出ませんでした。そんなとき、地元の水産会社の社長から、牡蠣の周りにつく「青草」のことを教えてもらいました。

牡蠣いかだでロープを引き上げると、海藻がたくさん。この中に牡蠣がいるそうです。上の方についている、みどり色の海藻が「青草」
牡蠣いかだでロープを引き上げると、海藻がたくさん。この中に牡蠣がいるそうです。上の方についている、みどり色の海藻が「青草」 出典:気仙沼ニッティングのウェブサイト

色の名は「海の青草」

青草は、葉が薄く、鮮やかなみどり色の海藻です。

染める前は「もう少し茶色っぽい、くすんだ色になるか、それとも薄くて色がうまく出ないか」と考えていました。しかし、少し分けてもらって乾燥させ、抽出すると、きれいな色に染まりました。

「一見、萌葱(もえぎ)色や若草色に見えますが、やっぱり、あの海藻の面影があると感じました」と御手洗さん。

この色は「海の青草」と名付けられ、昨年1月から同社のロングセラーの定番セーター「エチュード」の1色として販売されました。「大変なご好評につき、現在在庫切れとなっており、受注生産に切り替わっています」とのこと。注文してから1~2カ月後の納品になります。

染料の素材となる青草は、春に茂ります。夏に海水温が上がり消えてしまう前に、多めに採取して、冷凍保存しているそうです。

ロングセラーの定番セーター「エチュード」の新色になった「海の青草」
ロングセラーの定番セーター「エチュード」の新色になった「海の青草」 出典:気仙沼ニッティングのウェブサイト

気仙沼に〝編み物をする人〟が多い理由

気仙沼ニッティングは、2012年6月に「ほぼ日刊イトイ新聞」の震災支援プロジェクトとして始まり、2013年6月に株式会社として独立しました。

なぜニットなのでしょうか。気仙沼は漁師町で、もともと遠洋漁業が盛んな地域です。

御手洗さんによると、「遠洋漁業は漁場に着くまで時間がかかるので、かつてはその時間に漁師さんたちが船の上でよくセーターを編んでいたそうです。編み物の技術は、魚網を直したりする技術と近しいので、器用な漁師さんたちは編み物もできたのでしょう」と言います。漁師たちは遠洋漁業で、ニットが盛んなイギリスやアイルランド、ノルウェー沖まで行ったため、「そうした地域から編み物が伝来したのかもしれません」とも推測します。

実際に気仙沼には編み物をする人が多く、気仙沼ニッティングの編み手になった人の中には「漁師だったお父さんに編み物を習った」と言う人や、「いつも家に毛糸があったからなんとなく編み物を覚えた」と言う人もいるそうです。

海を見晴らせる高台にある気仙沼ニッティングのお店「メモリーズ」では〝編み手〟に会えることも。編んでいるのはミントのカシミヤマフラー
海を見晴らせる高台にある気仙沼ニッティングのお店「メモリーズ」では〝編み手〟に会えることも。編んでいるのはミントのカシミヤマフラー 出典: 気仙沼ニッティング (@KesennumaKnit)のX

一過性の支援に終わらないために、《被災地の品物だからではなく、「ほんとうにほしいと思う一流のセーター」を作ること》を目指して立ち上げられた「気仙沼ニッティング」。事業として軌道に乗り、今は、多くの編み手が、介護や育児・家事などをしながら編み手の仕事を専業的にできているそうです。

「人と人としてつながる」ことも目指しており、編み手については、気仙沼ニッティングのウェブサイトで、ひとりひとり似顔絵とともに紹介しています。心を込めて編んだニットには、編み手の「タグ」がつきます。

編み手の似顔絵付きのタグ
編み手の似顔絵付きのタグ 出典:気仙沼ニッティングのウェブサイト

実際に、商品に同封されたメッセージカードと返信用封筒を利用して「たくさんのお客様が編み手さん宛てのあたたかなメッセージを書いてくださいます」と御手洗さん。「それは編み手にとってなによりの励みです」と言います。

住所を書いてくれた人に編み手が返信して、やりとりが生まれることもあるそうです。「編み手さんに会いに気仙沼の本店までお越しくださる方もいらっしゃるんですよ」

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