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会社員から〝独学〟でマンガ家に 日常の「はたらく理由」描いたわけ

「特別じゃない日 はたらく理由」(実業之日本社)より。
「特別じゃない日 はたらく理由」(実業之日本社)より。 出典: 「特別じゃない日 はたらく理由」(実業之日本社)
「特別じゃない日」をテーマに描き続けている漫画家の稲空穂さん。作品をまとめた単行本の第5巻「特別じゃない日 はたらく理由」(実業之日本社)が1月16日に発売されました。マンガ家になる前は会社員をしていたという稲さんに、今回は「仕事」というテーマを選んで作品を描いた意図を取材しました。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
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新作のテーマ「仕事」にした理由

「特別じゃない日 はたらく理由」(実業之日本社)より。
「特別じゃない日 はたらく理由」(実業之日本社)より。 出典:「特別じゃない日 はたらく理由」(実業之日本社)
――第2巻は「猫」、第3巻は「食事」、第4巻は「映画」、そして今回のテーマは「仕事」です。どうして仕事というテーマを選んだのですか?

“仕事”はもともと私がやりたいテーマだったんです。私自身も会社員を経てマンガ家になったという経歴があるので。多くの人にとっての「特別じゃない日」は、仕事との関わりが大きいと思います。

ただ、例えば作中のエピソードにある動物病院でのお仕事などは、私も経験したことがないので、編集者さんと一緒に実際に動物病院を見学して取材させていただくなどして、お話を作っていきました。

他にも今回、介護のお話なども出ていて、そのあたりもしっかり資料に当たるなどして、これまでより取材が多い作品になりました。

――稲さんのお気に入りのお話はありますか?

個人的にはお弁当屋さんのお話(「うちの跡継ぎ」)が気に入っています。実は、私の祖父母がお弁当屋さんをやっていた時期があったんです。


調理師の免許もないので、さすがに手伝わせてはもらえなかったんですけど、「作る人」と「詰める人」の分担が決まっているところなどは、自分が子どもの頃によく見た姿です。

お店のお弁当の残りがそのまま食卓に出てくるところとか、そういったエピソードは、自分自身が体験していたものですね。

――本作では、これまでの登場人物について、誰と誰が親子、きょうだいなのかなど、新しく知ることもあり、より「特別じゃない日」の世界観が広がった気がしました。

私はもともと、登場人物に名前をつける予定もなくて。そこまでキャラクターの設定を掘り下げるつもりはなかったんです。

いつ、どのお話から読んでも大丈夫、というふうにしたかったのと、キャラクターの設定が増えていくことで、読者の方がお話に入り込む邪魔になるんじゃないか、とも思っていて。

だから、実は単行本には、巻数の表示もないんです。もちろん便宜上、1巻2巻と呼んでいただく分には問題ないのですが、新刊が出たときに「途中から読むのもな……」とためらってほしくなくて。

でも、お話を重ねて、キャラクターも増えるに従って、やっぱりそれぞれのキャラクターに思い入れを持ってくださる読者の方も増えました。人物相関図的なことや、それぞれのキャラクターのこれまでの人生や成長、そして変化も、楽しんでもらえたらうれしいですね。
 

紙・スマホ「視線の誘導」を意識

「特別じゃない日 はたらく理由」(実業之日本社)より。
「特別じゃない日 はたらく理由」(実業之日本社)より。 出典:「特別じゃない日 はたらく理由」(実業之日本社)
――冒頭のカラーイラストも雰囲気があって素敵です。これは水彩ですか?

はい、透明水彩で描いたものを、デジタルで調整しています。ただ、これは苦労したところでもあって。

本作に登場機会の多いヨシダを描いたんですが、私、「イケメンが描けない」んです(苦笑)。どうしても幼くなってしまい、編集者さんからも「中学生みたい」と言われて、何度も描き直しました。マンガでも四苦八苦したのですが、カラーになるとそれが大変で……。

色味は秋っぽさを意識しています。書店さんによっては、このイラストがポストカードになって付いてくるそうなので、気になる方はぜひ探してみてください。

動物病院がテーマのお話があるということで、出版社さんが作中に登場する猫の「シャケ」の顔写真つき診察券のデザインのショップカードを作ってくれたので、そちらが付いてくる書店さんもあります。

――単行本は基本的にすべて書き下ろしですが、withnewsの連載では、例えば「ワクワク」「ソワソワ」「ドキドキ」など、新刊収録のエピソードを一部、特別に先行して公開していただいていますよね。

>>「ワクワク」withnews版はこちら<<
>>「ソワソワ」withnews版はこちら<<
>>「ドキドキ」withnews版はこちら<<

書籍のコマ割りで読むと情報が密に感じられて、全く印象が変わります。一方、withnews版の縦読みでは縦スクロールを意識した表現もあって、スマホでもとても読みやすくなっています。

基本的に、マンガを描くときは、まず紙の本で読むときの読者の方の目の動きを意識して描いています。

漫画家デビューをする前に、本などを読んで、独学でマンガの描き方を勉強している時に、やはり「視線の誘導」が大事だとよく言われていました。それぞれの媒体での読みやすさはずっと意識しています。

マンガと共に広がる、自分の世界

――稲さん自身のお仕事についてはいかがですか? 未経験から独学でマンガ家になられて、単行本も5冊目。前作の発売前重版を受け、今作は初版部数がさらに増えたとうかがいました。実感はありますか?

ぜんぜん実感はないですし、単行本が発売される月はいつも情緒が不安定になります……。

私はSNSでエゴサーチもほぼしないので、あんまり考えないようにしているという。一方で、部数とかは、自分ではもう信じられないほどたくさんの方に読んでいただいているので、本当にうれしくてありがたいんですけど、自分の作品がちゃんとそれに応えられているのかどうか、がんばらないとなと思っています。

――マンガ家としてのキャリアを重ねる中で、変化はありますか?

「特別じゃない日」を描き始めたときは、私はSNSやイラストサイトを中心に活動していて、当時はどうしても、私の頭の中に最初からある人物像がメイン、描きやすい人物を描くという形だったんですね。

だから、当時は「高齢のご夫婦の日常」を温かい目線で描きたいという個人的な思いから始まっていたんですけど。

やっぱりここまでキャラクターが増えてくると、どうしてもこれまで自分が関わり合いになったことがないタイプの方々を描くことになります。それで本作では取材が増えたという理由もあるんです。

それが変化なんですけど、そうすると、例えば動物病院さんとか介護とか、私がちょっと思いも及ばないところで努力されていたり、苦労されていたり、あるいは楽しかったりしたエピソードを知ることができて。

こういうことを聞かせてもらって、描けるのはすごく幸せなことだと思いながら、今回の作品を描いていきました。

――人物を描くことが多いと思うのですが、稲さんは「人が好き」ですか?

私、基本的には人見知りなんです。人を観察するのは昔から好きなんですけど。でも、ちょうどマンガを描き始めた時期から、プライベートの変化も重なって、知り合いになって、挨拶をする以上になる関係の方がとても増えました。

今はいろんな方と知り合いになることがとても好きです。今後もそうやって、自分の世界が広がっていくのが楽しみですね。
 
稲空穂さんのツイッターがこちら

書籍「特別じゃない日」の第1集はこちら

書籍「特別じゃない日」の第2集はこちら

書籍「特別じゃない日」の第3集はこちら

書籍「特別じゃない日」の第4集はこちら

書籍「特別じゃない日」の第5集はこちら

withnewsでは毎月の最終土曜日に、稲さんの漫画とともに作品に込めたメッセージについてのコラムを配信しています。
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