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「たべられません」の小袋、開けて〝トッピング〟に 謎行動の理由は
海外の友人に日本のお菓子をお土産にあげたら、包装の中の「たべられません」の小袋を「トッピング」だと勘違いして、お菓子にパラパラと振りかけていた……。そんな投稿がSNSで話題になりました。なぜそんなことが起きるのか? メーカーに聞きました。「食べられません」を広く海外にも伝える取り組みが動き出しました。
「確かに、オランダではあまり見かけないです。日本では必ず『たべられません』の小袋が入っていそうなマドレーヌの大袋にも入っていませんでした」と言います。
典子さんは、その後、現地のスーパーでケーキやクッキーなどの焼き菓子をいろいろ見てくれましたが、様々なパッケージを裏返して見ても「どれも小袋は入っていませんでした!」。
「たべられません」の小袋は世界の〝常識〟なのかと思っていましたが、もしかして、あの小袋自体が、それほど知られていないという国もあるのでしょうか。
「食べられません」の小袋、「脱酸素剤エージレス®」を作っている三菱ガス化学に話を聞きました。
そもそも「脱酸素剤」とはなんでしょうか。「乾燥剤」とは違うのでしょうか。
脱酸素剤は主成分が「鉄」であるものが主流。エージレスは鉄が密閉容器内の酸素を吸収することで、〝脱酸素状態〟を作り出し、容器内の物が酸素から受ける影響(酸化)を減らしているそうです。
そのため食品に使うとカビの発生や酸化劣化を防ぎ、味や風味、色合いなどを保持して、賞味期限の延長に役立つと言います。
これに対して「乾燥剤」の主成分は「シリカゲル」などで、「容器内の水分を吸収して乾燥状態を高めるもの」。主にせんべいや海苔などの食品に使われているそうです。
では、海外で脱酸素剤は使われていないのでしょうか?
三菱ガス化学の担当者によると、もともと世界に先駆けて脱酸素剤を開発したのが三菱ガス化学。いまでは「海外でも多数ご使用いただいております」と、世界に広がっている技術である一方で、「特に欧州では、日本ほど食品に使用されているケースは多くないため、脱酸素剤をご存じなかった可能性が考えられます」と言います。
日本では、独特な〝お土産文化〟が、脱酸素剤の技術を躍進させたそうです。
仙台銘菓の「萩の月」が「脱酸素剤エージレス®」を菓子に応用し、草分け的な存在になりました。それまでは日持ちがしなかった菓子にも、脱酸素剤を入れることで、保存料を使用しなくても常温で日持ちさせることが可能になり、全国に「お土産」として持ち帰ってもらうことができるようになったと言います。
それ以降、さまざまな食品にも脱酸素剤が使われ始め、今では日本の「お土産文化」になくてはならない存在になりました。
三菱ガス化学の担当者は「お土産文化ももちろんですが、高温多湿の日本ではカビなどがどうしても生えやすい環境のため、脱酸素剤をはじめとする品質保持技術が非常に普及したと考えられます」と分析します。
「たべられません」という情報については、これまでも日本語だけでなく英語でも表記を行っているほか、海外向けの製品では7カ国語で注意喚起をしているとのことでした。
しかし、この取材後の12月19日、三菱ガス化学担当者から「年末押し詰まってのご連絡、失礼いたします」とメールが来ました。
内容は「『食べられません』の9カ国語表記を採用しました」という発表でした。
従来から「海外の皆様が、脱酸素剤エージレスに触れる機会が増えていることから、不慣れな方にも適切に取り扱っていただくにはどうしたらいいか」について検討をしてきたそうです。
今回はパッケージデザインを一新。これまでの7カ国語表記を見直し、主要な販売先となっている国で使用される9カ国を網羅しました。
新製品は英語、中国語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、ベトナム語で「たべられません・電子レンジ不可」と書いたほか、ピクトグラムでも注意喚起をしています。また、日本語も併記されているため、日本国内でも海外でも流通が可能になりました。
これからは日本国内のお菓子でも見る機会が増えそうです。海外の人に日本の味を贈りたい、という方にも、安心です。
ちなみに、万が一間違って「トッピング」にして食べてしまったとしても、問題はないと言います。
「脱酸素剤エージレスは鉄粉、ビタミンCなどから作られており、公的機関による急性毒性試験で安全性が確認されていますので、特に異常がなければ特別な処置は必要ありません」とのこと。
ただし、小袋のまま飲み込んでしまったときは「袋の角で食道・消化器官などを傷つけることがございますので医師の診察を受けるようにお願いします」。
あくまで「たべられません」ので、ご注意を。
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