連載
#12 はたらく年末年始
渋谷「109」〝正月の風物詩〟だった初売りの列 福袋ニーズの変化
毎年、開店前から数百人待ちです
2024年に開業45周年を迎えた渋谷のランドマーク「SHIBUYA109渋谷店」。毎年、初売りには開店前から何百人もの人が並びます。お客さんの安全安心や館内の秩序を守るため、運営スタッフも朝から大忙し。年末年始の様子を聞きました。
2024年1月2日、初売りの日。SHIBUYA109渋谷店(以下109)には、午前10時の開店を前に630人(公式発表)が並びました。
毎年、初日はオープンとともに運営会社であるSHIBUYA109エンタテインメントの代表取締役社長と総支配人が入口に立って客を迎え入れます。
スタッフもほぼ全員が出勤し、並ぶ列の案内をしたり、館内の巡回をしたりするそうです。警備会社にも通常の倍ほど増員を依頼します。
「お客様は朝早くから期待して待ってくださっているので、楽しんでいただけるように準備しています」。SHIBUYA109エンタテインメント運営事業部の青木美映里さん(29)はそう話します。「年末年始は、我々スタッフが一番盛り上がっている時期です」
12月1日から25日までのクリスマスキャンペーンが終わると、館内はすべて1週間で初売り仕様に切り替わります。
「シリンダー」と呼ばれる円柱型の建物部分の広告や1階にあるデジタルサイネージの動画、館内のポスターを入れ替えたり。風船などセールのためのグッズを、100店舗ほどあるショップに配布することもあるそうです。
109では、ウィンターセール(初売り)とサマーセール、クリスマスの年3回大型キャンペーンがありますが、短期間でがらりと様相が変わるのは年末の時期だけだといいます。
1979年のオープン以降、トレンドの発信地として親しまれてきた109。1990年代には「ギャル」の流行に合わせて10~20代の女性をメインターゲットに全館をリニューアルし、「カリスマショップ店員」の火付け役にもなりました。
現在は「around20(15~24歳)」をメインターゲットに、コスメやアイドルなどファッションにとどまらない文化の発信の場になっています。
2000年代は初売りの福袋が人気を集めた時代でした。ギャル系のファッションブランド「CECIL Mc BEE(セシルマクビー)」など、人気ブランドの福袋を買い求める人が大勢訪れたといいます。
約30年、109のPRに携わっている喜多将造さんは、「JRの駅のほうまで並んでいて、入場制限をしながらご案内していたこともありました」と振り返ります。
「お正月の風物詩」として、109内のショップで店員が福袋を売る様子が報道されたこともあり、「109に行きたい」「109で福袋を買いたい」というニーズがあったそうです。
インターネットでの通販が主流ではない時代、初売りの盛り上がりを味わいたい人や地方から訪れる人もいたといいます。館内で福袋を開けて、中身を交換する姿も見られたそうです。
一方、現代の若者は買い物で「失敗したくない」という心理が強く、中身が見えない福袋は以前ほどの人気はないといいます。初売りでは、セール商品ではないものを買いたいというニーズが高まっているそうです。
2024年のクリスマスシーズンは前年に続き〝全米No.1ボーイズグループ〟「Stray Kids(ストレイキッズ)」、2025年のウィンターセールは大人気グローバルグループ「aespa(エスパ)」をキャンペーンモデルに起用するなど、アーティストとのタイアップにも力を入れています。
「109ブランドは唯一無二。時代の先駆けになるようなことをやっていくビルであることは、昔も今も変わらないと思います」と青木さん。
「『109にあるものは流行っている』というお客様の期待に応えるトレンドの聖地であり続けたいです」
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【連載「はたらく年末年始」】
そば屋、神社、清掃工場、銭湯、介護現場……多くの人がお休みをとる年末年始も、変わらず働く人たちがいます。どんな思いで働き、どんなストーリーがあるのでしょうか。
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