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連載

#89 「きょうも回してる?」

会社員もラーメンも…現実を飛び越えて「発射っ!」 ガチャの狂気

60歳で定年退職後に起業

「ランドセルで発射っ!」
「ランドセルで発射っ!」

目次

広告業界のクリエイティブディレクターとして活躍していた人が定年退職後、ガチャガチャのクリエイティブに携わるようになりました。「発射っ!」シリーズでは「何かから逃げたい、現実を飛び越えたい」という気持ちが表現されています。「発射」しているのは――。ガチャガチャ評論家のおまつさんが取材しました。

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ガチャガチャ評論家おまつの「きょうも回してる?」

60歳で定年退職後に起業

2024年も、もうすぐ終わり。今年もガチャガチャ人気は衰え知らずでした。そんな中、私が今年注目したガチャガチャのオリジナルブランドがあります。スタンド・ストーンズが6月に誕生した、大人世代に特化したオリジナルブランド「灰色メロン」(@HaiiroMeron_)です。

この新ブランドを手掛けたのは、広告業界とガチャガチャ業界の枠を越えて挑戦を続ける飯田マサミさんです。

広告分野のクリエイティブディレクターとして、長年活躍してきた飯田さんは、自分のアイデアを自由に形にしたいという思いに突き動かされ、60歳で定年退職。セカンドキャリアとしてgray parkという会社を立ち上げ、ガチャガチャ業界へと足を踏み入れました。飯田さんは広告代理店時代にタカラトミーアーツで展開する、オリジナルのガチャブランド「パンダの穴」を10年間担当しました。その経験も生かしつつ、独立後、スタンド・ストーンズの佐藤涼子さんとタッグを組み、「灰色メロン」を立ち上げたのです。
飯田マサミさん=gray park提供
飯田マサミさん=gray park提供

自分の姿を見て「まだいけるな」と思って

飯田さんがこのプロジェクトを始めたきっかけには、「 クリエイターとして、自分1人で企画を考え、自分でデザインし、一人で完結できる仕組みをやってみたい」という思いがありました。
広告業界では、クライアントの依頼を受けて初めて仕事が始まり ますが、そこには制約も多く、自由度が限られていました。

長年にわたる仕事で培った企画力とマーケティングの知識を、ガチャガチャで活用したいという願いが、灰色メロンという新しいブランドの形になったのです。

さらに、「灰色メロン」の立ち上げにはクリエイターへの想いがあったといいます。

「クリエイターは40代になると、プロデューサーや管理職になり、クリエイターを辞めていく人が多いです。しかし、60歳 、70歳、80歳と年を重ねても、クリエイティブ活動をしている人もいる。60歳の私がクリエイターとして、真剣かつ、真面目にヘンなことをやっていたら、なんだか滑稽じゃないですか。その滑稽さが個性になると思います」

「もし30代後半のクリエイターがクリエイティブで苦しくなったら、そんな私の姿を見て、『あの人がまだやっているなら、まだいけるな』と思ってもらえるかもしれない。そんな、モデルケースになりたいですね」(飯田さん)。

「灰色メロン」の「部分イクラ」
「灰色メロン」の「部分イクラ」

「本格的にヘン」なものを本気で

「灰色メロン」のコンセプトは、「本格的にヘン!」。その名前には、正解か不正解かを決めつけるのではなく、グレーゾーンの中にある無限の可能性を探求する姿勢が込められています。
飯田さんは、「現代社会は、白黒つけたがるけれど、クリエイティブの世界では、その間にある曖昧さこそが面白い」と語ります。グレーは一見すると地味でネガティブなイメージを持つ色ですが、そこにこそ無限の可能性が広がっていると考えたのです。

スタンド・ストーンズの佐藤さんは、灰色メロンの魅力について、「『本格的にヘン』なものを『本気で作る』ことだと思っています。ふざけていると感じるような商品が、手に取ると妙な説得力がある…ということを目指し、造形のディティールなど、細かな部分も妥協せず仕上げています」と教えてくれました。ブランドの根幹にあるのは、アイデアの面白さと、それを形にする際の圧倒的なこだわりです。

第1弾は6月に発売された「部分イクラ」。イクラの粒をあえて部分的に表現するというユニークな発想が話題を呼びました。続く第2弾「ナゾパゴス島」は7月に発売され、架空の世界観と不思議なキャラクターを前面に押し出し、多くのファンを惹きつけました。 

「灰色メロン」の「ナゾパゴス島」
「灰色メロン」の「ナゾパゴス島」

「1番バカバカしくて、いい」企画

今回は8月に発売せれた第3弾「発射っ!」を紹介します。「発射っ!」は、トイレ、ランドセル、ラーメンといった日常的なアイテムがロケットのように空へ飛び出す、ヘンなガチャガチャ。

「発射っ!」の誕生の背景には、飯田さんのアイデアがあります。
 
「発射っ!」では、「何かから逃げたい、現実を飛び越えたい」という気持ちがユーモアに表現されています。そして、未来の世界で小型の発射装置が普及し、日常のアイテムが空へ飛び出していくという架空のストーリーを背景に、商品としての驚きと面白さを追求しました。「サラリーマンはトイレで悩みを抱え、小学生も何か悩みがありそうで、今っぽいなと感じました。そしたら、ラーメンにも悩みがあるんじゃないか(笑)。セレブの外国人も佐藤さんのアイデアで、たくさんお金があるけど、なんだか楽しくない。そこから発射したい。どんどん考えが浮かんできました」と飯田さんは振り返ります。

この「発射っ!!」について佐藤さんは、「たくさんの企画の中で1番バカバカしくて、いいなと思いました」と言い、「フィギュアにしてみたらおもしろそう、作ってみたい!と思ったのが『発射っ!』でした。ディスプレイポップに書いてある『最近、発射してますか?』と問いかけてくる感覚も好きです」。

「発射っ!」の5種類
「発射っ!」の5種類

広告業界で培ったスキルを

さらに、「昨今はコスト削減のために、流用パーツや色のバリエーションで構成される商品が多い中、発射のクリア部分や煙の造形は5種も作っている狂気っぷり。『本格的にヘン』なコンセプトと『本気で作る』カプセルクオリティを感じていただけたら嬉しいです」と、情熱を注いだ作品への思いを語ります。

ガチャガチャは飯田さんにとって「人生を変えた恩人」だと言います。広告業界で培った知識やスキルを生かしながら、もっと自由に、もっとクリエイティブに表現できる場所を与えてくれたからです。灰色メロンが注力するのは、大人世代の感性に刺さるユーモアと驚き。飯田さんは「どれだけ本気で変わったものを作れるかが勝負だと思っています」と語ります。

今後も「灰色メロン」は、新しい驚きと楽しさを届け続けるでしょう。その取り組みは、単なるガチャガチャの枠にとどまらず、クリエイティブ業界全体にも新しい風を吹き込むものとなるはずです。次にどんな「ヘン」が生まれるのか、期待は高まるばかりです。

「発射っ!」は、「ランドセルで発射っ!」「トイレで発射っ!」「浮き輪で発射っ!」「アラモードも発射っ!」「ラーメンも発射っ!」の5種類。1回400円。

ガチャガチャ評論家おまつの「きょうも回してる?」
この連載は、20年以上業界を取材しトレンドをチェックしているおまつさんが注目するガチャガチャを紹介していきます。

     ◇
ガチャガチャ評論家・おまつ(@gashaponmani
ガチャガチャ業界や商品などをSNSで発信中。著書に「ガチャポンのアイディアノートーなんでこれつくったの?ー」(オークラ出版)。テレビやラジオなどのメディアへの出演や素材提供も多数ある。

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