MENU CLOSE

連載

#36 大河ドラマ「光る君へ」たらればさんに聞く

SNS時代の大河ドラマ「光る君へ」…和歌・シーンの解釈もさまざま

紫式部の邸宅跡でもある廬山寺=水野梓撮影
紫式部の邸宅跡でもある廬山寺=水野梓撮影

大河ドラマ「光る君へ」がついに最終回を迎えました。放送の1年を通じて、要所要所に「和歌」が登場したのも特長でした。平安文学を愛する編集者のたらればさんは、「これだけ和歌が重要な役割を果たした大河はこれまでなかった」と語ります。(withnews編集部・水野梓)

【PR】聞こえない人たちが導いてくれた手話の世界~フリーで活躍する手話通訳士

節目節目に登場した和歌

withnews編集長・水野梓:最終回、特に印象に残ったシーンはありましたか?

たらればさん:万寿四年十二月四日(西暦1028年)、藤原道長と藤原行成が同じ日に亡くなって、それを日記(『小右記』)に書きとめる藤原実資が、ほろりと涙を流す……。あれはすばらしい演出でしたね。

これまでドラマでは「個性的な観察者・記録者」として描かれてきた実資が、「この時代の重要な表現者」として立ち現れる。思わず「おおお、す、すごい」と声が出ました。

水野:あれはいいシーンでしたよね。わたしもボロボロ泣いてしまいました。ロバートの秋山竜次さんのキャスティングをした方、本当にすばらしかったですね。
水野:リスナーさんからは、藤原公任と藤原斉信が詠んだ歌について知りたい、という質問がありました。

たらればさん:『栄花物語』に残っている贈答歌です。

公任「見し人の亡くなりゆくを聞くままに いとど深山ぞさびしかりける」
斉信「消え残るかしらの雪を払いつつ さびしき山を思いやるかな」
たらればさん:知っている人が次々と亡くなっていくのを聞く度に、人生というのは切ないものだとかみしめますね、と問い掛けます。返答として、雪が降って頭にふりかかるのを払って、これは「それでもおれたちは生きていく」という、生きる意志と解釈できるのですが、それでも寂しさは募るよね……、という歌です。

水野:実際に残っている和歌なんですね。

たらればさん:これだけ和歌が重要な役割を果たした大河ドラマはこれまでなかったので、1年を振り返るとそれもよかったですね。

当時の平安貴族は、愛しい・悲しい・切ないといった、強い気持ちや真心というものは和歌じゃないと表せないという感覚だったと言われています。だからこそ、誰かを看取るときや、辞世の歌など、節目節目で和歌がたくさん出てきてうれしかったです。

推しの清少納言が「受肉化」された感情

水野:ここで、リスナーのみなさんに「光る君へ」で印象に残ったシーンを尋ねたアンケート結果を発表します。

1000件を超える投票をいただき、堂々の第1位は、<定子さまが「春はあけぼの」と枕草子を朗読したシーン>でした!投票してくださった方の半数が投票しています。

ファーストサマーウイカさん演じる清少納言(ききょう)が、御簾の下から『枕草子』の春夏秋冬を差し入れ、高畑充希さん演じる定子さまがそれを読み上げる、その声の透明感……たしかに素敵なシーンでした……。

たらればさん:いや~、すばらしかったですよね。第21回『旅立ち』のシーン、私も間違いなくこれです。

『枕草子』の解釈って、これまでも時代時代で変わってきましたが、今回の「光る君へ」で〝大きなしおり〟が入ったというか、大きな転換点だと思います。

令和の時代にこういう解釈がなされたことが、次の千年も残っていくと信じています。そんな解釈が生まれた瞬間に立ち会えたのが幸せなことですよね。泣けたなぁ。
水野:そして第2位は<鳥辺野で直秀の遺体を埋めた道長・まひろのシーン>、第3位は<彰子さま「お慕いしております!」火の玉ストレートの告白のシーン>でした。

たらればさん:2位と3位の落差がすごい!(笑)

定子さまと彰子さまで言うと、「光る君へ」は本当にすばらしいドラマでたぶんこの先一生覚えているんですけど、やっぱり「女房サロン」を描いてほしかったなあという思いはあります。

水野:たしかに、定子さまが率いるサロンと、彰子さまが率いるサロンは、雰囲気も女房たちもきっと全く違っていたんでしょうね。

たらればさん:わたくしは、定子さまって「平安のドS姫君」だと思っていて(笑)。美しかったし頭もよかっただろうけど、どちらかというとリーダーシップを意識していたと思うんです。

ダメ出しをしたり試練を与えたり、はた目にはちょっと意地悪に見えるけれど、清少納言やまわりの女房を鍛えようとしていたんだと受け取れます。それは「自分のため」、「道隆一族のため」というよりも、「内裏の中宮に仕える女房とはこうあらねばならない」、「文化的基盤を築けば将来にわたってすばらしいものを残していける」という高い目標があったんだと考えています。

道長は、おそらくその姿を見て学んだんじゃないかと思うんですよね。それで「ああ、なるほどこれならおれとおれの娘にもできる」と考えたのではないか。ある程度仕組み化されているサロンを、自分の娘である彰子にも運営させようとしたわけですね。より大規模なサロンをつくって「文化」を継承して、そこから『源氏物語』も生まれたんだと思いますし。

水野:たしかにそうですね。彰子さまのサロンには、和歌の天才の和泉式部や、『栄花物語』の執筆者と言われる赤染衛門たちもいたんですもんね。精鋭揃いですね。

たられば:これはマンガ『ちはやふる』(末次由紀著)にも描かれている話なのですが、偉大な才能も偉大な組織も、「ひとつ」ではダメなんですよね。競い合ったり相互参照できる「もうひとつ」があることで、大きく飛躍することができる、と。
 
車折神社にある、清少納言をまつった清少納言社=京都市
車折神社にある、清少納言をまつった清少納言社=京都市 出典: 水野梓撮影

シーンや歌のいろんな読み解き、作品が豊か

水野:2位のシーンにも登場する、「散楽」のメンバーでオリジナルキャラの直秀は、ずっと視聴者の心に残っていたように思いました。最終回でも、まひろが道長に語る物語に散楽が登場して、直秀を思い出しましたねぇ。

たらればさん:全話のあらすじを読み返したら、直秀って9話で亡くなってるんですよ。全体の5分の1しか出ていないのに、こんなに視聴者の心に爪痕を残すの、すごくないですか。

水野:彰子さまの一世一代の「お慕いしております!」という告白に、一条帝が「また来る」と言った時も、みんなSNSで直秀の「帰るのかよ」というセリフで突っ込んでましたもんね。

たらればさん:あの世では、直秀から道長に「おまえなぁ」、「まあかなりがんばったみたいだけど、結局最後まで下の下だったな」とか説教してほしいって思っちゃいますよね。
水野:アンケートの自由回答で多かったのが、道長とまひろの逢瀬のシーンです。廃屋や石山寺などいろんなところであったので、まとめて「逢瀬」とすれば3位以内に食い込んでいたかなと思います。

たらればさん:ふたりの逢瀬では、まひろの「人は嬉しくても泣くし、悲しくても泣くのよ」という台詞がありましたねぇ。

水野:その台詞はわたしも覚えています。道長の「望月の歌」の解釈のときも、嬉しくも悲しくも見える俳優さんの表情のお話をしましたもんね。

たらればさん:「この世をば」の歌の解釈も広がったドラマでしたよね。「清少納言=パリピギャル」と同じぐらい、「傲慢な道長が有頂天で詠んだ歌」と思い込まれていたわけですが、ドラマではそんなに幸せな状況ではないなかで詠まれた、という描かれ方でしたから。

【関連記事】こんな雰囲気で「望月の歌」!? 光る君へ視聴者の解釈もさまざま

シーンや歌の読み解きについては、どれが正解というわけではなく、いろんな解釈があるほうが作品が豊かだということだと思います。それを持ち寄って、なるほど、そういう見方もあるのね、と、たくさんの人が語り合えるのが「作品の力」、「作品世界が豊かになること」だと思います。

「光る君絵」やハッシュタグ、盛り上がるSNS

水野:ドラマの最終回の放送日が、満月に重なったのが、「光る君へ」ってすごくタイミングを重ねてくるドラマだなって思いました。

リスナーのノラさんからは、印象に残ったシーンを「まひろと道長が月を見上げるシーンです」とコメントいただきました。
 
月を見るとき、お互いを思い合うふたり。電気もサブスクもない平安時代に、月を見て大事な人を思ったり、時の移ろいを感じたりしていた感覚は、とても豊かだなと感じました。切ないときも多かったですが、この大河を思い出すとききっと思い出します
たらればさん:作品が始まる前につぶやいたんですが、創作で「月」を描くのって実は難しいんですよ。月齢で日時が分かっちゃうから。

水野:日付のウソがつけないんですもんね。

たらればさん:この角度でこの欠け方はおかしい、とかが分かっちゃうんですよね。それを今回、逆手にとって、たくさん月を映してますよね。月の満ち欠けは判明してるんだから、バチバチに調べてバチバチに当てていってやろうという意気込みが感じ取れました(笑)。

水野:最終回も印象的に月が出てきましたね。

たらればさん:国文学者の谷知子先生と対談したときに、なるほどなと思ったのは、当時は月の存在感が今よりずっと大きかったわけですよ。ひとつは街灯がないから、今より夜がずっと暗かったわけですよね。夜空に大きな月が出ていると、安心するわけです。

さらに貴族にとって大きいのが、女性に忍んで会いに行くときに、月が出ていると夜道が見える、それが大事だったということでした。なるほど夜這いの道具か~と思いました(笑)。だから月の和歌はたくさん出てくるわけですね。

そんな使われ方をしつつも、ドラマでは、最後に月が出てくる紫式部の歌「めぐりあひて」で締めくくったのがよかったですね。

【関連記事】最終回に登場した歌「めぐりあひて」
水野:わたし実は、これまで大河ドラマを最後まで観られたことがなくって。初の「大河ドラマ完走」なんですよ。

油断していると大切なオリジナルキャラが亡くなったりするので、中だるみもしませんでした。そもそも、最終回の直前で「刀伊の入寇」に巻き込まれた周明の死って、まだみんな消化しきれてないんじゃないでしょうか…!

たらればさん:SNSにあった「周明の生存ルートを考える」のハッシュタグ、そのタフさがすごいなって思いましたねぇ(笑)。

中関白家派のわれわれには、このハートの強さが足りないな、と思いました。定子さまが亡くなった時も、生存ルートを考えるぐらいじゃないと(笑)。

「生存ルートハッシュタグ」もそうですが、みなさんがそれぞれドラマの解釈を語り合ったり、「光る君絵」を発信したり、「SNS時代の大河ドラマ」だったなぁと思います。かえすがえすも、また平安大河をやってほしいけどなぁ……。

水野:ぜひまた見たいですよね。

たらればさん:同じキャストで、清少納言版が見たいです。
◆これまでのたらればさんの「光る君へ」スペース採録記事は、こちら(https://withnews.jp/articles/keyword/10926)から。

連載 大河ドラマ「光る君へ」たらればさんに聞く

その他の連載コンテンツ その他の連載コンテンツ

全連載一覧から探す。 全連載一覧から探す。

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます