両ほほが赤くなるのが特徴で「リンゴ病」と呼ばれる「伝染性紅斑(こうはん)」。子どもがかかる病気というイメージがありますが、妊婦が感染すると、赤ちゃんの流産・死産の原因になることがあります。以前の流行の時期、妊娠中にリンゴ病に感染し、赤ちゃんが命にかかわる状態に陥ったという女性は「赤ちゃんがどうなるのか、不安ばかりだった」と当時を振り返ります。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
リンゴ病の流行が拡大しています。国立感染症研究所の発表によると、リンゴ病の患者数は11月以降に急増。全国の約3000の医療機関から報告された患者数は、12月1日までの1週間で、この10年で最多の水準になりました。
東京都は11月21日、同月17日までの1週間の患者報告数が6年ぶりに都の警報基準に達したとして注意喚起をしました。12月5日の発表では、1日までの1週間で、1999年に統計を始めて以来、過去最多になったことがわかりました。
この1週間では、神奈川、千葉、埼玉の3県でも国が定める基準を超え、確認できる範囲で過去最大の感染者数を記録したとして、流行警報が出ました。26日に発表された22日までの1週間の最新の数値では、東京都で過去最多の感染者数をさらに更新するなど、首都圏では過去最大の流行が続いています。
リンゴ病は大人がかかった場合、約半数は症状が出ませんが、子どもと同様の発疹や、手や腕、膝の関節の腫れ・痛みが出る場合もあります。多くは自然に症状がよくなり軽快しますが、妊婦が感染すると、おなかの赤ちゃんの流産・死産の原因になることがあります。
同月10日、日本産科婦人科学会は「パルボウイルスB19によるリンゴ病(伝染性紅斑)はおなかの赤ちゃんに影響することがあります」として注意喚起。
「日本人妊婦の抗体保有率は、20~50%とされ、妊婦が初めて感染した場合は約2割でウイルスが胎盤を通過し胎児感染を起こし、そのうち約2割が流死産、胎児貧血や胎児水腫(※)を起こします」
※胸や腹に水がたまったり、全身にむくみが出たりする状態。
そして、「2025年は全国的な流行が危惧されますので注意が必要です」として、来年に向けて警戒を呼びかけました。
4~5年周期で流行することがわかっているリンゴ病は、前回は2019年前後に流行しました。2019年春、リンゴ病に感染し、おなかの赤ちゃんが危険な状態になって入院した30代女性は、第2子を妊娠中にリンゴ病に感染したといいます。
4月、女性はくしゃみや鼻水、からだのだるさが続き、出産予定だった産院の妊婦健診で医師に相談しました。春先だったこともあり、担当医には「花粉症でしょう」「妊娠中で薬が飲めないから悪化しているのでは」と言われたそうです。
しかし、腕にもやもやとした発疹が出ていて「それは違うと思った」と振り返ります。妊娠がわかった時の自治体からの配布物で見かけた「妊娠中はリンゴ病に気をつけて」という一文が、記憶によみがえり、「検査してほしい」と伝えました。
女性は一人っ子で、きょうだいからリンゴ病に感染する機会はありませんでした。子どものころに感染していれば、免疫があってリンゴ病にかかりにくいことが期待できますが、感染した記憶はありませんでした。遠方の実家に連絡して確認すると、医療従事者でもある母親から、感染していないと告げられました。
かかりつけの産院にはリンゴ病の検査をするキットがなく、次の健診のタイミングで取り寄せて検査をしました。結果を聞いたのはさらにその次の健診で、リンゴ病の原因ウイルス「パルボウイルスB19」への感染が判明しました。
すでに5月に入り、感染から数週間が経過していました。女性の症状はよくなったものの、赤ちゃんへのリスクが考えられるため、すぐに、都内で小児科の高度専門医療が受けられる国立成育医療研究センターを受診することに。
ウイルスはおなかの赤ちゃんにも感染していて、重度の貧血を起こしていました。胎児水腫が起きるおそれもありました。
医師からは「胎児の命にかかわる状態」と言われ、何度か通院した後、入院して胎児にへその緒などを介して輸血する治療をすることになりました。
保育園に通う上の子の世話をしなくてはならない中、家庭の事情でワンオペ育児になることが多かったという女性。治療や移動の費用もかさみます。高額療養費の制度があるとはいえ、その申請をするのも自分です。
「誰も助けてくれない」「自分ががんばらなくては」そう自分を奮い立たせて、家事・育児と治療を両立させたそうですが、「通院や入院の時間的、経済的な負担は大きかった」と振り返ります。
「当時の記憶は断片的にしかありません。赤ちゃんはどうなるのか、こんな生活や妊娠自体も続けられるのか、不安を抱えながら、いつも病院に向かっていました」
1回の胎児輸血では改善せず、2回目の胎児輸血をしました。輸血の度に気分が悪くなり、強い吐き気が出るなど、治療の母体への影響もあったそうです。
その後、幸いにも胎児の貧血は改善し、病院では定期的な経過観察をすることになりました。「医師にもこれ以上は無理だと伝えていたのでホッとしました」と当時の心境を明かします。
女性はその後、健診を受けていた産院に戻って、無事に出産しました。産まれた子どもは、今では感染の影響もなく、元気に過ごしているといいます。
もし、あのとき「検査して」と医師に強く訴えなかったら、原因がわからないまま、流産、死産になっていたかもしれない――。女性はそう危惧しています。
この女性は過去に事務所に所属し、モデル業をしていました。そのため、読者の多い自身のブログに一連の出来事をつづって話題になりました。
それから5年、「今は元気に生活していることを知ってほしい」と、SNSには積極的に2人の子どもの写真を投稿しています。
女性によると「今でも時々、治療のことについて質問するメッセージをもらいます」。
「自分の時はとにかく情報が少なすぎました。ちょっとでも同じ境遇の女性の助けになればうれしいです」