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「小学校で使うクジ入れ」相談したら 完成品の〝度胸試し感〟が話題
小学校の行事で使うクジ入れ。「ダンボール箱に穴を開けて」と頼まれた男性が、2時間ほどかけて作ったのが「手を入れるのをためらう」ほどの完成度で、SNSで話題になっています。制作者に話を聞きました。
《民生委員をしている母親から小学校の行事でクジ入れを作るんだけどって相談されてダンボール箱に穴を開けるだけって聞いたけど2時間ほどで悪いクジ入れを作ったので仕事に戻ります》
画像の「クジ入れ」は、虚空を見つめる黒い目が二つ、そしてあんぐりと開いた口からは丸い歯がのぞいています。〝モンスター〟っぽい容姿の割に、全体的に丸みがあるせいか、愛嬌があります。
この投稿は「やだかわいい」「泣いてクジを取れない子が出そう」「(ローマの)真実の口に手を入れるスリルも味わえる」「ドキドキが2倍になる」と反響を集め、4万以上のいいねがつきました。
民生委員をしている母親から小学校の行事でクジ入れを作るんだけどって相談されてダンボール箱に穴を開けるだけって聞いたけど2時間ほどで悪いクジ入れを作ったので仕事に戻ります。
— 井上嘉和 (@inoue_yoshikazu) November 28, 2024
いい気分転換ができた。 pic.twitter.com/ZM9x1uWaBD
作った井上さんに話を聞きました。
大阪府枚方市で父の代から写真館を営み、町の人たちの人生の節目を記録してきました。その傍ら、井上さんは舞台芸術やライブパフォーマンスの撮影をするカメラマンでもあります。
ある日、母がミカン箱を持ってきて井上さんに「穴を開けて」と頼みました。「クジ入れ」だと聞いた段階で、井上さんの頭にはある〝イメージ〟が沸きました。
それは《怖い物には触りたくないけど、ご褒美を手に入れるためには、怖い物に手を入れなければいけない》という葛藤を子どもに生み出すクジ入れ。
イメージを形にすべく、短冊状に切ったダンボールをどんどんミカン箱に貼っていきます。接着に使うのは熱で樹脂を溶かして接着する「グルーガン」。口や目の周りは紙をこよりにして詰めて立体感を出し、表情を作りました。
完成した「悪いクジ入れ」を見た母は驚きつつも、「わーこれはいいわ!」「子どもらの反応が楽しみ!」と喜び、小学校の行事でも誇らしげに披露してくれたそうです。
「悪いクジ入れ」を見た子どもたちは、おそるおそる手を入れたり、「めちゃくちゃウケ」ながら手を突っ込んだりと、様々な反応を見せたと言います。
行事の後、子どもが写真館に来て「あれ、おっちゃんが作ったんか? 僕もほしい!」とねだられるほど、好評だったそうです。
実は、井上さんがダンボールで、子どもたちの〝度胸試し〟をするのはこれが初めてではありませんでした。
最初は15年ほど前の節分でした。家で豆まきをしようと考え、仕事場にあったダンボールで鬼のお面を作ったのです。
小さい頃から工作が好きだったという井上さんは、箱に穴をあけて頭に被るタイプのお面を作りました。赤い紙を貼って角をつけたものでしたが、かぶって帰宅すると、息子たちは悲鳴をあげて、予想以上の反応を示したそうです。
手作りのお面は家の「恒例行事」になりました。
成長した息子たちから「もうお父さんのお面、あんま怖くない」と言われると、井上さんは負けじとさらに凝った細工をほどこしてパワーアップさせていきました。
仕事とは違い「何の制限もなく自由にやりたい表現ができる」のが楽しくなり、最初の数年は鬼がメインでしたが、邪神など「怖いだけでなく不思議なもの」にもテーマを広げました。
作るのは一貫して、かぶるフルフェイス型のお面がメインです。「没入感が強い」と言います。
頭にあるのは、小さいころ、祖父に連れられて通った民族博物館で見た、世界中のさまざまなお面の光景。
そして仮面ライダーに出てくる「怪人」たち。「怪人はヒーローよりも多種多様な姿をしていて、怪人の方に憧れがありました」
かぶるだけで自分を変えることができるーー。そんなダンボールのお面に魅了されていきました。
SNSでお面について投稿すると「ワークショップをやりませんか」と依頼がきたり、展覧会への出展の誘いがきたり、アーティストからライブでかぶるお面の制作依頼がきたりするまでになりました。
年に2~3個というペースでお面を作りつつ、今はその楽しさを伝えようと、年数回のワークショップも行っています。お面をつくって被り、人と共有するという一連の行為を「ダンボル」と呼んでいます。
ダンボールという身近な素材であることが〝創作〟へのハードルを低くしていると言います。
「素材がダンボールだともったいない、とか余計な感情がわかないんです。はがして、つけなおせて、『失敗』がないのが良さです」
親子で作るときは相談しあって思いも寄らないものができることも。デスクワークが多い大人の参加者からは「こんなに自分の手を動かすことは最近なかった」という感想が聞かれたこともあるそうです。
井上さんは「〝タイパ〟や〝コスパ〟といったことが話される時代に、めちゃくちゃ無駄なことをやっているんですけど、それを親子で楽しめる時間が、とても贅沢になっている世の中なんだなと感じています」と話しました。
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