MENU CLOSE

連載

#10 「AED持ってきて」~20年のいま~

AEDは人の命を救う「かっこいい機械」おもちゃを開発した理由は…

AEDのおもちゃとして開発した「トイこころ」=坂野さん提供
AEDのおもちゃとして開発した「トイこころ」=坂野さん提供

目次

お医者さんごっこのように、小さな頃から「AED」で遊んでいたら、もっと身近に感じてもらえるかも――。そんな思いから、子ども向けの「AEDおもちゃ」を作った会社があります。もともとはAEDのペーパークラフトを無料配布していた会社の社長に、開発の経緯を聞きました。(withnews編集部・水野梓)

【PR】指点字と手話で研究者をサポート 学術通訳の「やりがい」とは?

「身近に感じる年齢層をぐっと下げたい」

「『学ぶ』よりも、小さな頃から当たり前のように遊んで知ってほしい」――。

そんな思いで、AED(自動体外式除細動器)のおもちゃ「トイこころ」を開発したのは、北海道北見市の「坂野電機工業所」です。

代表取締役の坂野恭介さんは「AEDを身近に感じる年齢層をぐっと下げて、存在を知っていてもらったら、街で見かけたときに『あっ』と気づいたり、救命講習を身近に感じたりするのではないかと思いました。その一助になりたいと、おもちゃのかたちを追求しました」と語ります。
先行予約が始まった「トイこころ」。全国の幼稚園にプレゼントできるチケットも販売しています=坂野さん提供
先行予約が始まった「トイこころ」。全国の幼稚園にプレゼントできるチケットも販売しています=坂野さん提供 出典:先行予約のサイトはこちら

ペーパークラフト制作 無料でダウンロードOK

以前は臨床工学技士として働いていた坂野さんは、祖父の会社である「坂野電機工業所」を継ぐために戻ったときに、会社でAEDの販売・リースの事業を始めました。

「人の命を助ける医療機器ってすごい、とずっと思ってきました。会社を継いだ後も、それが生かせないかと思っていました」と振り返ります。

AED事業だけでなく、「大切だと分かっていながらも、なかなか学ぶ機会のないAEDについて、楽しみながら学ぶ機会をつくりたい」と、2021年から「AEDのペーパークラフト」を無料でダウンロード(https://sakano-denki.com/aed-contents.html)できるようにしました。

日本でAEDのシェアナンバーワンの日本光電に監修してもらい、ペーパークラフト作家に依頼して、制作しました。
坂野電機工業所のホームページで無料でダウンロードできるAEDのペーパークラフト
坂野電機工業所のホームページで無料でダウンロードできるAEDのペーパークラフト 出典:坂野電機工業所のホームページより

「プロの『ここにはこだわりがある』というところも含めて、ペーパークラフトとしては難易度は高いものでしたが、防災イベントなどで配布物として活用してくれる例もあって、役立ててもらってうれしかったです」と坂野さん。

子どもの防災イベントなどでも利用例が増えたため、ニーズに応じて「簡単バージョン」も作成し、ペーパークラフトのバリエーションは4種類になりました。

「お医者さんごっこ」に仲間入りしたい

しかし、すでにペーパークラフトがあるのに、わざわざ「おもちゃ」を作ろうと思ったのはなぜだったのでしょうか?

坂野さんは「AEDは全国で約69万台が設置されており、『モノ』自体は増えています。じゃあなぜ、実際に使われた例が少ないのだろうと考えました。大事なのは『身近さ』ではないかと思ったんです」と語ります。

【関連記事】AEDいざというとき使えますか? 市民解禁20年、8000人救う

「大人を意識改革するのはなかなか難しいので、子どもの頃から遊んでなじんでほしいな、と思っています。お医者さんごっこに『AEDのおもちゃ』が仲間入りしてもらえれば、一緒に遊んでいる親や幼稚園・保育所の先生も、AEDとの距離感が近くなってもらえると思うんです」
しかし、これまで子どものおもちゃを開発した経験もなく、計画がスタートした2023年1月からすべてが手探りでした。

「デザインや基盤、本体の制作、おもちゃとしての楽しさ、安全性など、いろんな方が協力してくれて、できあがりました」と振り返ります。

11月1日から先行予約(https://toycocoro.com/shop_lp)を始めた、AEDのおもちゃ「トイこころ」。

お医者さんごっこで遊び出す3歳以上を想定し、AEDを「知る」ことが目的のおもちゃで、流れる音声やライトの光り方なども「遊ぶ楽しさ」を重要視しています。

課題感は、ペーパークラフトを制作した時から変わっていないといいます。

「AEDって、人の命を助けるすごい機械ですが、どんな風に動くのか開けるまで分からないしイメージできません。『あそこに設置されているのは知っているけど…』とブラックボックス化しているのではないか、開けるのに勇気がいるのではないかなと思いました。その背中を少し押せたらいいなと思ったんです」

さまざまな種類のAEDがあります
さまざまな種類のAEDがあります

どんなボタンがあるのか、どんな仕組みで動くのか、知っているだけでも「使う」というハードルは下がりそうです。

坂野さんは「そもそも『電気ショック』という言葉ってちょっと怖いですよね。でも実はちゃんと安全機能があって、操作も簡単です。ペーパークラフトもAEDのおもちゃも、身近に感じてほしいという思いからつくっています」と語ります。

「まじめに真剣に学ぶことはもちろん大事ですが、自分の性格上、それが苦手なんですよね(笑)。楽しく学んで、それが誰かの命を助けることにつながったらいいなと思ったんです」

ペーパークラフト、数千のダウンロード

ペーパークラフトは、何度かSNSでバズり、これまで数千のダウンロードがありました。

無料で配布しているため、会社に収入があるわけではありませんが、坂野さんは「もちろん費用はかかっていますが、AEDの認知活動として『これがいい!』と思ってしまったのでしょうがないです」と笑います。

学校関係者などダウンロードした人から「子どもたちに知るきっかけを作ることができました」といったうれしい感想も届いているそうです。

AEDに興味はなかったものの、クラフトが好きな人から「作ってみたら、AEDのつくりについて深く知ることができました」といった声も寄せられました。

都内で開かれた心臓マッサージ(胸骨圧迫)やAEDの使い方の講習。親子で体験する姿もありました
都内で開かれた心臓マッサージ(胸骨圧迫)やAEDの使い方の講習。親子で体験する姿もありました 出典: 水野梓撮影

心肺蘇生講習への「架け橋」のような存在に

坂野さんは「トイこころ」で遊ぶことについて、おもちゃの振動や音・ライトが楽しいという「入り口」から、いつか心肺蘇生の講習の受講につなげていきたい――と夢見ています。

「実際に人を助けるとなった時には、AEDだけではなく心臓マッサージのやり方・人工呼吸のやり方を知っておくこともとても大事です。トイこころが全国各地で実施されている心肺蘇生講習に参加したいという、きっかけになる架け橋的な存在になればと思っています」と語ります。

出典: Getty Images ※画像はイメージです

また、AEDのおもちゃは世界的にも類似商品がないそうで、「医療関係者からは『買って診療室などに飾りたいです』という声ももらいました」と話します。

ペーパークラフトに加えて、おもちゃの開発まで。坂野さんは「人の命を救えて、かつ一般の人も使えるなんて、AEDは見た目も立ち位置もかっこいいなぁと思うんです。そもそもAED自体が好きで、そうじゃないとここまでできません」と笑います。

「ふだんからAEDという言葉を見聞きしていたら、街中でも自然と目に入ってくるようになると思います。自分の好きな機械を、もっと多くの人に知ってもらいたいと思っています」

連載 「AED持ってきて」~20年のいま~

その他の連載コンテンツ その他の連載コンテンツ

全連載一覧から探す。 全連載一覧から探す。

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます