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#8 withnews10周年

「ニュースをTikTokで観る」動画隆盛時代の〝テキストの役割〟

テレビ局で番組制作に取り組みながらデジタルでのテキストコンテンツの発信にも注力してきた足立義則さん=2024年10月17日、朽木誠一郎撮影
テレビ局で番組制作に取り組みながらデジタルでのテキストコンテンツの発信にも注力してきた足立義則さん=2024年10月17日、朽木誠一郎撮影 出典: 朝日新聞社

目次

動画隆盛の時代、若年層を中心に、いわゆるショート動画でニュースをチェックする人も増えています。テレビ局で番組制作に取り組みながら、デジタルでのテキストコンテンツの発信にも注力してきた足立義則さんは、変化する現状を「この10年の知見を次に生かせるか、メディア業界にとって最後のタイミング」と語ります。今のメディア環境において、テキストメディアが果たす役割をたずねました。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)

<プロフィール>足立義則(あだち よしのり)
1968年生まれ。慶應義塾大学出身。1992年のNHK入局から社会部や科学文化部などでIT取材のほか事件事故、災害、文化福祉など幅広く取材と番組制作にあたる。2012年から報道のデジタル発信を担当し、ウェブコンテンツ制作やSNSの報道活用、偽誤情報対策も。現在はNHKのデジタル戦略検討や生成AI活用にもあたる。
 
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他メディアでしていない、役立つことを

――足立さんはNHKの中で長らくデジタル発信に携わっています。これまでどんな取り組みをしてきましたか?

デジタル発信に関わり始めたのは2012年、NHKもネット発信に力を入れようと、当時ネット報道部というものができて、それからですね。

最近では2022年から、さまざまな障害のある人たちが選挙の情報にアクセスしやすくする、選挙のユニバーサル化を目的にした「みんなの選挙」というキャンペーンを立ち上げ、サイト制作を担当しています。

他にも最高裁判所国民審査のサイトを制作したり、ARやVRといった技術で「報道の立体化」に取り組んだり、現在は別のサイトで続けていますが、noteで取材の内幕を伝える「NHK取材ノート」を立ち上げたり。古くは風疹の社会的問題を伝えるために2013年から今も続けている「ストップ風疹」キャンペーンなどを手がけてきました。

他のメディアがあまり取り組まないもので、世の中の役に立つと思ったテーマを中心に、メインとなる放送だけではできないようなデジタルを活用した発信に取り組んで今に至ります。

――足立さんはネット上の話題やコンテンツをどのようにチェックしているのでしょうか。

どうしても興味関心の軸が報道にあるので、ニュースサイトやアカウントはチェックしています。最近だとタイトルの付け方が上手なビジネス系のニュースサイトをよくタイムラインで見るので、自分たちの参考にもしていますね。

Togetterやはてブ(はてなブックマーク)といった、ネットの話題をまとめるサービスを利用しつつ、Xでは気になるアカウントをリストにまとめて投稿をチェックしたりしています。このあたりは、ウェブメディアで仕事をされている方と変わらないでしょうね。

――この10年のウェブメディア業界を振り返って、どんな出来事が印象に残っていますか?

やっぱり、2010年代前半にBuzzFeedやThe Huffington Post(現HuffPost)という、世界的なメディアが国内に、黒船のようにやって来た、というのが印象的でしたね。一方で、あれだけ先進的な取り組みをしていたBuzzFeedがニュース部門を閉鎖し、国内でHuffPostと統合したというのは、時代の節目と感じました。

日本だけじゃなく海外でも「ニュースで稼ぐ、メディアを存続させていく」というのはなかなか難しい、ならどうすればいいのか――という議論の方向性を決定づけた出来事だと思います。

ネット活用で「記者の覚醒」が起きた

――この10年は、ウェブメディア業界が盛り上がり、ある意味で落ち着いてしまった10年とも言えます。この変化をどう受け止めていますか?

マスメディアと呼ばれる媒体の中で「記者の覚醒」というのも起きたと思います。多くの記者がネットに触れるようになり、テレビなら放送の枠、新聞なら紙面の枠に限りがある状態から、他にもさまざまなアウトプットができるネットがあるということを、遅ればせながら知ったのだと思います。

先ほどご紹介した「ストップ風疹」は、ある記者から「風疹の問題を深く、繰り返し伝えたくても放送では時間も内容も制限がある」という相談を受けて特設サイトが立ち上がり、異業種も巻き込んだキャンペーンにつながりました。

いわゆる“本店”のトーンやマナーではできないこと、そぐわないとされることが、“新店”ではできるぞ、と。そういう拡張というか、覚醒のようなことができて、発信が面白くなっていったのが2010年代だったと感じます。

ただし、率直に言って、同じような問題提起や議論が定期的に繰り返され、「何周も回っているな」という感じはしています。

たとえば、いわゆる「PV(ページビュー;閲覧数)追求」や「CV(コンバージョン;会員獲得数)偏重」といった問題提起もその一つです。

またウェブメディアの作法や文法に、マスメディアがどれくらい乗っかるべきなのか、それが本当に求められていることなのか、ということも考えなければならないと、自戒を込めて思います。

見られていない、生き残れないという焦りから、「攻める」ことを意識しすぎたテーマやタイトル、サムネイル、SNS投稿になり、結果として信頼を損ねてしまったケースもいろいろなメディアでありました。

刻々と変わる数字があれば追ってしまうのは担当者として当たり前で、その上にどんな目標や存在意義を置き、どう意識づけるか。組織には人事異動があり、各社ともメディア関連の部署の整理統合もある中で、それができず同じ問題が繰り返されているとも感じます。

一方で、最近NHKでも、SNSのショート動画のテンポの良さというエッセンスを、自分たちの番組制作に活かして、よく見られているケースもあります。

いったん立ち止まって、「それぞれの立場で取り組むべきコンテンツというものが何かを考えよう」という最後の時期、タイミングなのではないでしょうか。

「隣の芝は青い」から次に進むために

――「ニュースをTikTokで観る」人も増えるなど、動画コンテンツが隆盛を極めています。足立さんはテレビ局の記者、制作者としてそこに大きな強みを持ちながら、テキストコンテンツも作り続けています。なぜですか?

そこはやっぱり、SNSでのシェアと検索を重視しているからです。

この10年は、SNSによるメッセージや情報のシェアが社会を動かす革命がいくつも起きました。一方で異なる意見同士の対立や断絶も深刻化していますが、「検索」という行為には、いわゆる「フィルターバブル」を超えて情報を届けられる可能性があると、これはSEOの専門家からの受け売りです。

情報を広く届けるために、シェアや検索を考えると、動画だけでなくテキストも発信する必要があります。番組動画のクオリティは高いですが、ネットでシェアしやすく作り直す手数はかかります。テキストのほうが手軽に発信できますが、一方で動画はやはり感情に訴える力がある。報道番組などは動画のショート版をSNSで流し、並行してテキスト記事を配信するなどしています。

でも、テキストに10年あまり取り組み続けてきて感じることですが、テキストコンテンツって映像より大変だなとも感じるんですね。

――新聞記者からすると、まったく逆の印象です。動画コンテンツに取り組むと、かなりコストがかかってしまうので。

「大変」というのはいくつかあって、まず新聞や雑誌などと比べて放送局には長文の書き手も校正者もかなり少ないということ。

私たちは短いニュース原稿や、映像に合わせる台本を書いてきたので、長文で読ませる文章のトレーニングは不足しており、自己流も目立ちます。

一例ですが、ネットのテキストに体言止めが多いのも特徴で、一段落に3カ所あったこともありました。放送番組はながらで流れていくメディアなので、台本にあえて体言止めを使うことがよくあるのですが、能動的に読むテキストだと、使いすぎは読者のストレスになってしまいます。

そして、放送局なので当たり前ですが、番組など映像に携わる人員のほうが圧倒的に多く、優れた制作者もたくさんいます。制作者や取材者にとっては放送番組のほうが達成感や得られるリターン(反響や課題解決事例など)は大きいのではと思います。

とはいえテキストは必要なので、結局、動画もテキストもどちらかではなく、どちらもする。ただし、最も良い結果を出すために注力するところを考えましょうと、その取り組み方は放送局系のメディアと新聞雑誌系のメディアで異なると思います。

ウェブメディアの業界は「XXはすごい」と、「隣の芝は青い」状態になりがちです。

朝日新聞のウェブメディアwithnewsの前編集長をしていた奥山さんには以前、「NHKはライバルではない」と言われました。つまりライバルはスマホの画面を占める動画サイトやSNS、ゲームなどであって、従来のメディアの業界の中だけで競ってもしかたがないということです。

垣根が低くなっている時代だからこそ、他業種も含めて相互に学び合うことを、さらに進めたほうがよいのではないでしょうか。
 
【イベント開催します!】

足立義則さんも登壇する、withnewsの10周年イベント「【withnews10周年記念】ウェブメディア激動の10年 令和の温故知新フェス!」を、10月19日にオンラインで開催します。参加無料。

イベントページ

3部構成で、足立さんがnoteプロデューサーの徳力基彦さんと「ウェブメディア総論」について語る第1部は、14時からの開催を予定しています。

足立さんたち出演者への質問も受け付けています。

【申し込み・詳細はこちら】https://withnews10th.peatix.com/

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