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大型書店に出没する男性…「何冊も本を確認」 理由は〝ルビ〟探し
「ルビ」の多い本で選書

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「ルビ」の多い本で選書
漢字の読みを伝える「ルビ」。そのルビが多く振られている本だけを集めた、珍しい書店のフェアが、開催中です。企画の始まりは、一人の男性からの「持ち込み」でした。
男性は、昨年4月から3カ月間にわたり、週の半分ほど、都心の大型書店として知られる丸善・丸の内本店(千代田区)に通い詰めていました。
男性が陣取るのは、決まって科学ジャンルの本棚の前。棚から手にとった本の数ページだけをぱらぱらめくって、本棚に戻すという行為を繰り返していました。
「ルビを確認するために、同じことを何回も続けていたので、書店員さんからは怪しまれていたと思います」
そう笑うのは、2023年に設立された「ルビ財団」代表理事の伊藤豊さんです。
ルビ財団は、「社会にルビを適切に増やすことであらゆる人が学びやすく、多文化が共生する社会づくりを目指す」という旗印のもと、ルビの普及を進めています。
伊藤さんは、活動の一貫として、ルビの多い本作りをしてもらえないかと、出版社にかけあったこともありました。
ただ、出版社からは「マーケットニーズに応じて編集者が判断している」との回答で、けんもほろろだったといいます。「途方に暮れていた」という伊藤さんが次に着手したのは、すでに出版されている本の中でもルビの多いものをピックアップするということでした。
書籍のデータベースを調べてはみたものの、ルビの量で調べることはできなかったといいます。そこで、「ないなら作ろう」と、伊藤さんは蔵書の多い書店で直接手にとって調べることを始めました。
調べるにあたって、最初に注目したジャンルは科学でした。
「科学のジャンルは専門的なものが多く、文学や人文系などに比べてルビがないものが多いと感じていた」という伊藤さん。
「一方で、科学ジャンルは、宇宙や生物に関心があるけど、子ども向けの本では足りず、背伸びしたい子どもにとって読みやすいものもあるのではないか」
そんな仮説を元に、科学ジャンルを集中的に調査。伊藤さんの目でおよそ80タイトルの「ルビフル本」(ルビ財団の造語で、ルビが多く振られた本)を見つけることができました。
そのデータベースを元に、ルビフル本のフェアを書店で開催できないかと、ツテを辿り、丸善・丸の内本店の店長にプレゼン。反応は上々でした。「『(ルビに着目することが)めちゃくちゃおもしろい』と言ってくれて、Newton別冊が総ルビであることも今回初めて知ったと驚いてくれました」
そして昨秋、科学と人文ジャンルの220タイトルのルビフル本だけを集めたフェアを、同店で1カ月半にわたり開催。すると、通常フェアの売上を大きく超える実績となったそう。現在、全国の丸善ジュンク堂書店90店舗で開催中の「ルビで広がる本の世界」(5月16日から6月19日)への足がかりをつくることができました。
設立から3年目となるルビ財団ですが、これまでに、東京大学総長の藤井輝夫さんや、千葉工業大学学長の伊藤穣一さんなどが審査員となった「ルビフル大賞」(グランプリは「サッカードリブル解剖図鑑」(三笘薫、エクスナレッジ)と「Newton別冊 精神科医が語る発達障害のすべて」(ニュートンプレス))を発表し、今年7月には多文化共生をテーマとしたシンポジウムも開催予定です。
伊藤さんは「ルビ財団の問題意識はまだ知られていないところもあります。今後は我々の活動を通じて、各業界がルビを増やすアクションにつなげたりすることができるよう、啓発活動を強化していきたい」と話します。
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「ルビで広がる本の世界」は、6月19日まで、全国の丸善ジュンク堂書店90店舗で開催中。
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