連載
#6 withnews10周年
悩みや弱み、打ち明けにくい男性たち 「素人」だから応えられること
プレッシャーからの解放される大切さ
大学時代に遊びから始めた「恋バナ(恋愛にまつわる話)」収集が、今では将来の不安や労働、ジェンダーなど社会構造にからむ相談も受けるようにーー。ポッドキャストなどで発信しているユニット「桃山商事」代表の清田隆之さんは、これまで多くの人の悩みに耳を傾けてきました。しかし、あくまでも立場は「素人」。専門家ではないからこそ悩みに答えられることもあると話します。
これまで1200人以上の悩みやモヤモヤを聞いてきたという清田さん。相談を受ける際は、「悩んでいる人が一番その悩みに詳しいという前提で答えるようにしている」と話します。
「相談をする側は、こちらが思いつくようなアドバイスや解決方法はとっくに浮かんでいると思います。たくさんの時間を費やして考えているはずなので、軽はずみにジャッジはしません」
「相手の話を聞き切らないと分からないことはたくさんある」と考え、対面で悩みを聞く際は質問を重ねて相手のモヤモヤの源流をたどり、相談文しか手掛かりがない場合はしっかり読み込むそうです。
現在、清田さんは朝日新聞の人生相談「悩みのるつぼ」でも回答者を務めています。
回答する上での基本的なスタンスは、相談者の心にひっかかっているものは何か、どのような状況にあるのかを「現在地」と整理すること。
「『現在地』という考え方は僕独自のやり方というより、『桃山商事』として相談に乗るときからそうしてきたこと。自然とみんなで作り上げてきたスタイルかもしれません」
人の気持ちは、分かりやすいものばかりではありません。たとえば恋愛相談では、相手が嫌いな気持ちと別れたくない気持ちのアンビバレントな思いが共存することも。
「割り切れない思いにハッキリ答えを出すのではなくて、矛盾していても、分かりづらくても、なんでもいいので、いったんテーブルの上にバラバラに出して考えてみる。そうすると見えてくるものがあると思います」と話します。
相談は多く寄せられますが、清田さん自身は心理や医学の専門家ではありません。
「素人だということは忘れてはいけない。専門家でない分、決して踏み込んではならない部分がある」と意識しています。
一方で、「素人」というカジュアルさがあるからこそ、話せることもあるのでは、と考えているそうです。
「病院に行くほどではない風邪とでも表現したらいいでしょうか。あったかいものを飲んでよく寝たら治るかな、という、そんなときってありますよね。苦しさやしんどさを感じたとき、まずは誰かに話してみる。そういうことで気持ちが楽になるときもあると思うので」
素人だからこそ、「相手を知識や理論に当てはめるのではなく、とにかく話を聞いて、相手の目線に立って、相手の中にある言葉で悩みやモヤモヤをどうほぐしていけるかが大事になってくると思います」と語ります。
最近は男性同士のおしゃべり会にも力を入れており、2024年4月からは高円寺の本屋とともにイベントを定期開催しています。
背景には、「多くの男性は、悩みや弱みを語りづらい」という思いがあります。
「立場や肩書きを外し、男らしさの鎧(よろい)も脱ぎ捨てた一個人として集まり、互いの話に耳を傾けながら身の上話を語り合っていく〝お茶会〟こそ、いま男性たちに最も必要なものではないか」と考えたそうです。
「多くの男性は、コミュニケーションの上で構えてしゃべってしまう」と清田さん。
「何かおもしろいことを言わなきゃ、テンポよくしゃべらなきゃ、役立つことを言わなきゃといったプレッシャーを感じていると思います。プライベートでも、仕事ではないのに自分の役割をはみ出してはいけないと考えてしまいがちです」
「『それこそがコミュニケーションだ』と思い込まされているので、そもそも『自分が友達にモヤモヤを話せなかった』という自覚すらないと思います」
イベントでは、初対面の参加者が3人のグループに分かれ、1人7分間、フリーテーマで話します。2人はとにかく耳を傾けるだけ。清田さんたちが何かをレクチャーすることはありません。
「何をしゃべったらいいのか、初めはみんな戸惑う」といいますが、徐々に自身が抱えているものやモヤモヤについて話が広がるそうです。
「新鮮な時間だった、想像より気持ちよかったと言ってくださる方が多い」と清田さんは話します。
「思いついたまま、何でもしゃべっていい時間の心地よさを感じてくれたということは、逆に言えばそのような経験が日頃からないのだと思います」
改まって誰かに相談する場ではないからこそ、対等に話をでき、自然と参加者同士の癒やしの時間につながります。
清田さんは、「僕らはその場を用意しているだけ。モヤモヤはもっと素直にもらしていいと思うんです」と話しています。
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