2023年12月に惜しまれつつ廃止された、上野動物園のモノレール(東京都懸垂電車上野懸垂線)。その後継となる乗り物の企画案の審査結果が3月に発表されましたが、その内容に伏字が多かったことで憶測を呼び、中には自ら「落選」を公表する企業もありました。選ばれたのはどんな案なのか、なぜ伏字だったのか、取材しました。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
3月29日、東京都交通局は上野動物園のモノレール(東京都懸垂電車上野懸垂線)の代替となる新しい乗り物の企画案の審査結果を発表しました。
もともとのモノレールは日本で初めて開業した交通手段としてのモノレールで、アトラクションではなく、東京都交通局が路面電車の代替として期待していた実験線でした。
その後継の新しい乗り物は役目を変え、あくまで園内の移動手段です。新しい乗り物は、都によれば「ジェットコースターと同様の構造を利用した脱輪の心配のない高い安全性の乗り物」(1)、「上り勾配ではモーター駆動で、下り勾配では条件により位置エネルギーを利用して走行する省エネシステム」(2)です。
企画案は、公募に参加した3社の企画案から、専門家らで構成される審査委員会が選定したもの。都は利用者の利便性や乗り物の安全性、環境への負荷などについて設けられた「『恩賜上野動物園新たな乗り物選定審査・決定基準』に基づき審査した」とします。
しかし、この審査結果が一部で憶測を呼びました。それは、採用された企画案が特定の企業の交通システムに似ていながら、その提案をした社名が「B社」として伏せられており、また、残りの2社も「A社」「C社」とされたためでした。
採用された企画案の(1)(2)の特徴は、みなとみらい21地区や葛西臨海公園の観覧車で有名な泉陽興業株式会社(大阪市)の交通システム「エコライド」に似ています。同社に話を聞くと、広報担当者は同審査において「企画案が東京都に採用されたのは事実」と認めた上で「詳細はコメントできない」としました。
なぜ、社名が伏せられていたのでしょうか。東京都建設局を取材すると、担当者が企画案が採用されたB社は泉陽興業株式会社であることを明かしました。隠しているわけではなく、「問い合わせがあれば回答している」ということでした。
資料では社名が伏せられていることについては「企画案を選定したのであり、会社を選定したわけではないため」(同担当者)と回答がありました。
一方で、この伏字はより一部で憶測を呼びました。残り2社のうち1社を嘉穂製作所(福岡県飯塚市)と推測するメディアがありましたが、同社は取材に、提案への参加を否定しました。
また、自走式ロープウェー「Zippar」の開発を手掛けるZip Infrastructure(神奈川県秦野市)の須知高匡さんが、自身のnoteで同社が審査に落選したことを発表、話題になりました。須知さんは取材にも、提案に参加し落選したと回答しました。
このように、審査結果の資料が伏字になっていたことで、憶測を呼び、波紋が広がっていた上野動物園のモノレールの後継の乗り物。運用開始は2026年度末ということで、どのような乗り物になるか、引き続き注目されます。