連載
#5 水の事故を防ぐ
「中学生だけで海に行っていい?」子どもに言われたら、どう応える?
水難事故を研究する専門家の見解は…
「中学生だけで海に行くことをOKしていいの?」。タレントの辻希美さんがYouTubeチャンネルで、そう悩みを打ち明けました。中学2年の長男に友だちと海に行きたいと言われ、「ダメ」と伝えたものの迷いがあったようです。親としてはどう対応したらいいのでしょうか。水難事故を研究する専門家に話を聞きました。
「ママ! 俺海行ったらダメ? 海の家。安全なところ」。YouTube動画で、中学2年生の長男が辻さんに伝えました。
辻さんは間髪を入れず「ダメだよ。海はイヤだ」と反対しますが、「奥まで行かない」と長男も食い下がる事態に。
辻さんは「そういう問題じゃない!」「海は怖いって」と話し、ビーチのみで遊ぶことを提案します。長男は「海にも入りたい」と引き下がらず、辻さんがライフジャケットの着用を勧めるものの受け入れません。
その後、辻さんは「中学生で海に行くという話をOKしていいのか、どうなのか問題」について、「海とか川とか、私は怖くて『あぁいいよ』とは言えなくて、どうですか?」と視聴者へ投げかけました。
動画は80万回以上視聴され、1000件を超えるコメントが寄せられています。
多くの視聴者が辻さんと同じく「子どもだけでは行かせない」と書き込んでいた一方、行く前に救命講習などを受けさせていた、海の怖さやトラブル対処法が分かるならありかもという意見もありました。
消費者庁などは、水難事故を防ぐため「子どもだけで水に近づかない、近づけさせない工夫をしましょう」と呼びかけています。
日本財団などが立ち上げた「海のそなえプロジェクト」のまとめによると、屋外やプールでの溺水事故は7歳と14歳にピークがあり、7~8月に多いそうです。
水難学会理事で長岡技術科学大教授の斎藤秀俊さんも、「『子どもだけで行ってはダメ』と口を酸っぱくして何回も繰り返すしかない」と話します。
小学校高学年以降は友だちだけで遊ぶ機会が増え、リーダー格の子どもに誘われて海や川へ行くケースもあるといいます。
親や学校から「ダメ」と言われていても、逆に「冒険心があふれ、男女問わず『チャレンジ』したくなる子」がいるそうです。
水難事故を調査してきた斎藤さんは、誘った子どもは泳ぎが得意でも、誘われてついていく子どもは泳ぎが苦手なことも珍しくないと指摘します。
「子どもの社会では、『仲間外れになったらどうしよう』とついていってしまうこともあります」
無謀なチャレンジをする子どもに性別は関係なく、「海や川での事故を解析すると、男子は泳ぎながら、女子は歩いていて深みにはまるなどし、溺れるケースが多い」そうです。
海や川、水に興味があるか、釣りが好きか、小さいころから子どもの関心が分かっている場合、泳ぐトレーニングや浮き方の練習、ライフジャケットを買って慣らしておくといった対策も有効だと斎藤さんはアドバイスします。
子どもが水を好きかどうか簡単に調べる方法は、「お風呂で頭から水をかけてみること」だそうです。
「ニコニコ笑って喜んでいる子どもはとても水が好き。大泣きする子は苦手で、自分から水には近づかないでしょう。スイミングに通っている子でも、頭からシャワーを浴びられる子と、慣らしてやっと浴びられるようになる子がいて、性格が分かれます」
一方で、泳ぎが得意だからといっても事故に遭わないわけではなく、「子どもだけで行ってはいけない」と何度も忠告しておくことが大事です。
成人していても水の事故で犠牲になることはあり、「何歳になったから子ども同士で行って大丈夫」という基準はありません。
海や川では何があるか分からないため、例え親が知っている場所だとしても、危険はゼロではありません。
「万が一のときに救助を待てる能力があるのかも重要ですが、基本は子ども同士で行かせない、ひとりでも行かせないことです」と斎藤さんはくり返し注意を呼びかけます。
2013~22年に全国で起きた水の事故1万件のデータ(海上保安庁・河川財団提供)を、朝日新聞が分析すると、水難事故が集中しているエリアが明らかになりました。
海や川へ行く場合、事前に場所の事故の情報を収集しておくこと、天気や水位などをチェックしておくことも重要です。
消費者庁は事故を防止するポイントとして、家族で行く場合も大人が子どもから目を離さないこと、ライフジャケットを着用すること、ライフセーバーや監視員がいて安全管理がされている海水浴場の指定されたエリアで泳ぐことをなどを勧めています。
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