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連載

#18 大河ドラマ「光る君へ」たらればさんに聞く

源氏物語にも登場の「不義の子」大河ドラマ、驚きの展開にファンは…

滋賀県大津市の石山寺にある「源氏の間」。大河ドラマ「光る君へ」では、石山寺でまひろと道長が再会し……
滋賀県大津市の石山寺にある「源氏の間」。大河ドラマ「光る君へ」では、石山寺でまひろと道長が再会し…… 出典: 水野梓撮影

目次

紫式部を主人公とした大河ドラマ「光る君へ」。後の紫式部のまひろが出産した子どもの父親が藤原道長という展開に、多くのファンが驚きました。紫式部の夫・藤原宣孝の寝ている描写に「睡眠時無呼吸症候群では?」という投稿が相次ぎ、Xでトレンド入りも。編集者・たらればさんと、ドラマの描かれ方や「源氏物語」での不義の子の表現を語り合いました。(withnews編集部・水野梓)

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紫式部のファンにとっては…

withnews編集長・水野梓:後の紫式部のまひろ(吉高由里子さん)が産んだ子どもが、道長との不義の子……という展開になりましたね。

たらればさん:もうちょっとこう…「もしかしたら道長の子…かも…?」というふうにぼかすのかな、と思ったら、完全に視聴者にも、宣孝にも分かるかたちになりましたね。たまげました。

紫式部の子どもは、史実では賢子(けんし/かたこ/かたいこ)と名づけられて、成長した後は彰子さまに仕え、のちに大弐三位(だいにのさんみ)として歴史に名前を遺します。和歌史・文学史にとっても重要な人物ですよ。

水野:予告で夫・宣孝に向かって「私がひとりで育てます」と言っていたので、心の準備はしていましたが、宣孝が「そなたの産む子は誰の子でもわしの子じゃ」と受け止めていて……この展開にはびっくりしました。

たらればさん:紫式部ファンの中には衝撃を受けた方が多いだろうし、悲しむ方もいらっしゃるだろうなと思います。

たとえばわたくしの大好きな清少納言、その息子・橘則長が「実は藤原行成との間の子だった」というドラマ設定があったとしたら、衝撃的だし悲しい気分になると思うので。
水野:研究などで、宣孝の子どもではない…と言われていることなどあるんでしょうか。

たらればさん:いやあ……どこかにはあるかもしれませんが、少なくともわたしは「賢子の父親は、宣孝ではなかった」という説は見たことがありません。

そもそもの話として、『光る君へ』では、まひろ(紫式部)はまだ『源氏物語』を一文字も書いていない段階です。紫式部と道長が『源氏物語』執筆以前に会っていた、という記録はないんですよね。

株の上がったまひろの夫・藤原宣孝だけれど…

たらればさん:『光る君へ』の中での宣孝のまひろへの思いって、愛情というより保護欲みたいなものなのかな、とは思いました。

別れたらまたまひろは再び貧乏な生活に戻ってしまうわけですから(父・為時は就職しているとはいえ)、自分の愛するまひろだけでなく、まひろが産んだ子も窮地に追いやられるわけですし。

水野:そうですよね。毎回毎回、お土産を持ってくるところをみても、愛する女性のつらいところは見たくない、という気持ちは強そうです。

たらればさん:今回の脚本では、佐々木蔵之介さんが演じる宣孝を、こういうキャラクター設定で描きたかったんでしょうね。

宣孝はおおらかで、政治的な実力もあって洒落人で。妻も4人いて子どもが7人いて、まひろと同世代の息子がいるぐらいですから。「ひとりぐらい父親が違っていても…」ってことなのかもしれません(笑)。
水野:不実な者どうし、というところで全てを受け止めた…という流れでしたが、宣孝の株が今回で上がったんじゃないでしょうか。

たらればさん:「不実」ということでいえば、これはネタバレになってしまうんですけども、まひろに対して本当に誠実に生きていくのであれば、あと10年も20年も生きて一緒に子どもを育ててくれよ……、って思いますよね。

水野:あぁ……確かに……!史実では、紫式部と結婚してすぐに宣孝は亡くなってしまうんですよね…。

今回のドラマの中で、まひろが「殿のくせ」とほほ笑みながら記していましたけど、「お酒を飲んで寝ると、時々息が止まる」って紹介していて、SNSのトレンドに「睡眠時無呼吸症候群」が出てくるぐらいでしたからね。

たらればさん:「それもうやばいやつじゃん…」、っていう。

水野:そんな風に、宣孝の「死」が暗示されているのがつらいです。

「源氏物語」 解像度の高い不義の子

水野:リスナーさんからは、源氏物語に不義の子が出てくるので、ドラマでも出てくると思っていました、というコメントがありました。

たらればさん:いい「読み」ですね。不明を恥じますが、わたくしは思い至りませんでした(笑)。「賢子が…? そんなばかな!」と素直に思ってました(笑)。

いっぽうで、澤田瞳子さんの『のち更に咲く』(https://www.shinchosha.co.jp/book/352832/)という時代小説があるんですけど、この中にも道長界隈に不義の子がいた…のではないか、という疑惑が物語の鍵になっています。

平安時代と現代では倫理観や社会環境が違いますし、「母子ともに健康」は全出産のうち約50%という大変な環境でした。なので、貴族のあいだでは「ちゃんと生まれたら大事に育てましょう」というは気持ちがあったんだろうなと思います。

水野:たしかに、今とはきっと受け止め方も違いますよね。
紫式部の邸宅跡とされる京都市の廬山寺。『源氏物語』の「若紫」の巻の絵をあしらった特別な御朱印もありました=水野梓撮影
紫式部の邸宅跡とされる京都市の廬山寺。『源氏物語』の「若紫」の巻の絵をあしらった特別な御朱印もありました=水野梓撮影
たらればさん:『源氏物語』には、ふたりの「不義の子」が中心人物として登場します。つまり「不義の子として生きていく」というキャラクター造形の解像度がすごく高い作品である、というのはよくわかるんですよね。

ひとりは光源氏が藤壺と密通して生まれた冷泉帝。

もうひとりは、光源氏の妻・女三の宮と(頭中将の息子である)柏木が密通して生まれた薫ですね。

水野:こちらも大胆すぎる展開でしたよね。

たらればさん:はい。『光る君へ』で「賢子は宣孝の子ではなかった」というのも確かにスキャンダラスでショッキングでしたが、それをいったら紫式部が『源氏物語』で描いた「不義」の衝撃は、こんなもんじゃなかったんだろうな…とも思います。怒った読者とかたくさんいただろうなあと。

水野:そう考えたらそうですね…!

マンガ「あさきゆめみし」での意味は

たらればさん:当時の読者が、どれだけ「不義の子とともに生きる」という切実さを感じていたかは分かりませんが……光源氏自身は藤壺と不義の子をつくって、それを周囲に隠し、おじさんになってから同じことを柏木にやられるわけです。

国宝『源氏物語絵巻』の「柏木」巻に、光源氏が幼い薫を抱いているシーンがあります。『源氏物語』では、光源氏が「汝の父に(似るなよ)」と赤ん坊へつぶやく場面ですね。
たらればさん:一般的に、これは光源氏が「おまえ(薫)は柏木に似るなよ」と言った、と解釈されています。

柏木のようなばかなこと(密通)はするなよ、という意味と、「若くして死ぬなよ(我が子の成長を見守れるくらいは長生きしろよ)」という二つの意味がある、と解釈されています。ダブルミーニングだと。

そのうえで、大和和紀先生は名著『あさきゆめみし』では、この「汝の父に(似るなよ)」という場面を、トリプルミーニングとして描いているんです。先日読み返して「大和先生すげー!」と叫びました。
【関連記事】「あさきゆめみし」で描かれた母の愛 源氏物語との違いの楽しみ方は
たらればさん:不義の子への複雑な感情を抱きながら、光源氏は赤子である薫を抱いて、血がつながっていなくても育てる決意、これが自分にとっての贖罪である、と『あさきゆめみし』では描写されています。藤壺との間に不義の子をなしたという自分の罪を、この子を育てることであがなうんだと……。

きょう「光る君へ」を見て、道長がどこかで賢子を抱いて「自分の子かもしれない」と思うシーンがあるんじゃないかな、それで「自分がこれまでやってきたことの贖罪になるかもしれない」と言い出すのではないかと思って、鼻息荒く見ていました。

大弐三位宛てに書かれた「紫式部日記」

水野:史実では大弐三位はどんな人物なのでしょうか?

たらればさん:もともとの身分が低いわりに「三位」がもらえたという、めちゃくちゃ出世した人ということも注目です。

出仕したあと、1025年ごろには親仁親王(のちの後冷泉天皇<ごれいぜいてんのう>)の乳母(めのと)を務めました。一説には『源氏物語』の第3部、宇治十帖の作者は大弐三位ではないか、と言われていたりもします。

水野:めっちゃ重要人物ですね…!

たらればさん:はい。女房の現場でも優秀で、有名になった源氏物語の原稿などを貸し出し管理していたと言われていたり、和歌もたくさん残しています。

「紫式部日記」についてはいろんな執筆契機があったり、執筆動機について語られたりするんですけど、「自分の娘に女房務めをちゃんと果たしてもらいたい」ということで書かれたのでは、という説があります。

水野:なるほど。

たらればさん:「紫式部日記」の宛先が「道長の娘」だったことにしちゃうと、なかなか大胆な妄想が広がりますよね……。

なので、今回の大河ドラマを10年後とかに振り返って、史実との大きな違いはなんだろうと思い返すとき、第1回にあった、まひろのお母さんが藤原道兼に殺されることと、まひろの子どもの父親は道長とした、という二つが大きなトピックスとして記憶されるだろうなあ……、と思います。
◆これまでのたらればさんの「光る君へ」スペース採録記事は、こちら(https://withnews.jp/articles/keyword/10926)から。
次回のたらればさんとのスペースは、8月18日21時~に開催します。

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