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かつては雑誌広告…「日ペン美子ちゃん」のいま ネタの探し方に変化
「初代さんも結構やってますね」
「日ペンは●●年の歴史があって先生方も超一流!」。そんなセリフで知られる広告マンガの「日ペンの美子ちゃん」ですが、作者を変えながら50年以上にわたり活躍を続け、今は6代目のキャラクターなのだそうです。SNSを中心に活動し、社会問題もさばく〝尖り気味〟のキャラが生まれたわけは?「日ペン」を運営する老舗の通信教育会社の担当者に話を聞きました。
ある日、記者の周辺の同僚たちが「日ペンの美子ちゃん」で盛り上がっていました。
きっかけは、会社に届いた達筆な宛名の封書。「習字始めようかな」という同僚に、「ペン習字は?『日ペン美子ちゃん』ってありましたよね。妹が読んでいた漫画雑誌にも載っていましたけど」と応じる同僚も。「でも美子ちゃんは、分かる世代と分からない世代がいそう」という声もありました。
その会話を聞いていた30代後半の私自身も、「日ペン美子ちゃん」(以下、美子ちゃん)には聞き覚えがありました。
サッと調べてみると、1970年代から、作者を変えながら長く活躍を続けているキャラクターのようです。
時代ごとの美子ちゃんの変遷、ペン習字の需要の変化について、今年創業100年の通信教育の老舗「学文社」に話を聞きました。
美子ちゃんが初めて雑誌広告に登場したきっかけは、ある広告代理店の提案だったといいます。
浅川さんによると、1970年代ごろから「ペンできれいな字を書ける人材」が重宝されるようになり、社会的にペン習字をたしなむことへの需要が高まったといいます。
浅川さんによると、当時は1冊の雑誌の中でも、ペン習字にまつわる広告が10社ほど掲載されたこともあったそうです。
そんな、「ペン習字戦国時代」を、広告の側面からも勝ち抜こうと、広告代理店から提案されたのが「4コマ漫画」での広告戦略でした。当時の競合他社の広告は基本的には文面のみ。浅川さんは「漫画で見せることで、他の広告との差別化をはかろうと目論んだのでは」と推察します。
そして生まれたのが「日ペン美子ちゃん」でした。
これまでに6人の漫画家やアニメーターに描かれてきた美子ちゃんですが、実は、歴代で少しずつ性格や絵柄が異なるそうで、コマ数も当初は4コマだったものが徐々に増え、現在の9コマが定着していったそう。
浅川さんによると、「初代の特徴は、一言で言うと『モテキャラ』。十数人のボーイフレンドが出てきて、『誰々君にデートのお誘いのお手紙を…』という文脈でペン習字のうたい文句が出てくる回もありました」。
「2代目は打って変わって『おっとりキャラ』でした」
「1、2代目は少女漫画の雰囲気が強く、目はキラキラ、髪は艶々でクルクルだったのに対し、3代目は三頭身キャラ。いわゆるデフォルメキャラでした。漫画で描かれる場面は、運動会など学校を舞台にしたものが増えました」
その後、4代目からはまた、少女漫画風の見た目に戻り、現在に至ります。
現在6代目の美子ちゃんは、作者の服部さんが以前から美子ちゃんのパロディ作品を同人誌などで発表してきたこともあり、作風はちょっと〝尖り気味〟。社会問題なども風刺的に扱っています。
直近の投稿では、話題になっている「退職代行サービス」を美子ちゃんが担う設定で、「なんてきれいな字の退職届なんだ…!これは受け入れるしか…」とうろたえる企業側に、美子ちゃんが「これが90年の歴史があって先生方も超一流の日ペンの退職よ!」と決めぜりふで締める流れです。
ただ、浅川さんからすると「初代の方が毒舌がすごいよねっていうところも……」。
現在では使わない方がいいとされるような言葉を使ったり、あまりきれいとは言えない文字を「何このヘビののたくったような字」と表現したり――。
浅川さんによると、6代目を担当する服部さんが初代を見たときには、「僕、色々やっちゃってると思っていましたが、初代さんも結構やってますね」と笑っていたといいます。
6代目になってからは、広告戦略も大きく変わりました。それまでメインの舞台としていた雑誌広告にはほとんど出稿せず、基本的にはXで毎週投稿する形になりました。
雑誌掲載とSNS投稿では、「ネタの探し方も変わってくる」と浅川さん。
雑誌では原稿を完成させてから発売日まで数週間から1ヶ月程度時間差があり、発売日になっても記憶に残るであろうテーマを扱う事が多いのに対して、Xでは毎週のタイムリーなネタに反応しながら漫画を制作することもあるため、「政治や社会問題を扱うことも増えた結果、キャラが強めになった」と話します。
反応が伸びたのは、数年前にタピオカの容器統一について政治家が発言した際に、それをネタとして取り上げたもの。
「服部さんはブラックジョークが得意な作家さん。一方で、命や性別、思想などを『ネタ』にはしないという点を意識しています」
そんな美子ちゃんがPRするペン習字ですが、習い事としての需要は1990年代くらいまでは上り調子。その後、パソコンなど電子デバイスの普及により手書き文化が薄れ、下火になりました。
一番の「底」は2012年だったといいますが、「美文字ブーム」の影響を強く受け、2017年にかけて少しずつ回復していったといいます。
それをさらに後押ししたのが、6代目美子ちゃん。
現在、受講者は、2012年の倍以上に回復。社会問題に切り込む、Xでの毒舌美子ちゃんのファンと思しき30~40代の男性の割合も増えているといいます。
作者を変えながらも、長く愛され続けている美子ちゃん。
多くの世代に「あの美子ちゃんね」と知られているような存在になっていることについて、浅川さんは「昔からのファンの思いを感じつつ、これからも大事にしていくものと、変えていくものとのバランスを考えながらやっていきたい」と話します。
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