フィットネスクラブの倒産数が急速に増加し、過去最多になったというニュースがネットで話題となり、大きな注目を集めました。直接の要因にはコロナ禍がありますが、もともと業界としては利用者数などが“頭打ち”の状態。利用実態のない、いわゆる幽霊会員の割合も多く、構造的な問題がありました。今後、どんなジムが生き残るのか、データと取材から考えます。(朝日新聞withHealth)
話題になったのは、3月に東京商工リサーチ社の発表した調査結果です。日本産業分類の「フィットネスクラブ」の倒産を集計・分析したところ、その数が1998年の統計開始以来、過去最多まで急増していたのです。
ただし、その調査結果は2月までのもので、“過去最多”は更新中でした。あらためて同社を取材すると、2023年度としての倒産数は、3月にさらに1件増えて29件となっていました。これは最多だった22年度の16件を、大きく上回る状況です。
同社の分析によれば、コロナ禍の外出自粛などでダメージを受けたフィットネスクラブが多く、コロナ禍が落ち着いた後は、「駅近」「安価」「24時間年中無休」など、多様なサービスを提供して、さまざまな特色を打ち出すフィットネスクラブが乱立し、競争が激化しているのが現状。
一方で、光熱費増や物価高などによるコスト増や、トレーナーなどの人手不足と賃上げなどへの対応もあり、「業績不振が続くクラブの淘汰が急速に進んでいる」といいます。フィットネスクラブは、「健康ブーム」を背景に全国に広がりましたが、「無謀な先行投資が負担になった構図が浮かび上がる」とみます。
「現状も、安価なサービスのクラブと、設備や好立地、専門トレーナーもいる大手クラブとの競争は激しく、中小クラブは差別化が難しくなってきました。運営コストはなお増大しており、今後も淘汰は続いていくとみられます」
ただし、業界の苦境の原因は、コロナ禍だけではありません。経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によると、フィットネスジムの延べ利用者数(会員数×利用回数)のピークは18年の延べ2億5600万人でした。以降は伸び悩み、20年にコロナ禍の影響でさらに1億7100万人まで急減した、という流れです。
21年以降は回復傾向にあるものの、23年は2億1700万人と、それでもピークには届きません。もともと成長が頭打ちだった業界を、新型コロナの感染拡大が直撃したともいえるのです。
日本はそもそも、ほかの先進国よりもフィットネスクラブを利用するフィットネス人口が少ないというデータがあります。国際ヘルス・ラケット・スポーツクラブ協会(当時、現Health & Fitness association)の2018年の調査では、アメリカ20.3%、イギリス14.8%に対して、日本は3.3%という結果でした。
さらに、いわゆる“幽霊会員”、利用率の低い利用者の割合も高くなっています。独立行政法人中小企業基盤整備機構の17年の調査によれば、利用頻度について「年に1回以下」が51%ともっとも多い結果でした。コロナ禍を契機に、こうした利用者の解約が進んだとみられます。
一般社団法人日本フィットネス産業協会(FIA)理事の古屋武範さんは、フィットネス市場は「ゆっくりとですが、確実に回復してきています」とした上で、業界構造の変化について「企業別に格差が広がっている」と指摘します。
「まず、コナミやセントラルスポーツといった総合業態を中心に展開する大手の売り上げを、RIZAP(chocoZAPを含む)、カーブス、エニタイムフィットネス、LAVAなどの小規模でコンセプチュアルな店舗をチェーン展開している会社が上回るようになりました。
例えば、コロナ前のピーク期と2024年3月期の売り上げを比較した回復具合では、カーブス120%に対して、ルネサンス95%、セントラルスポーツ85%、コナミスポーツ75%といったところです。利益も低いところが気になりますが、でも、ここから少しずつまた広がっていくと思います」
今後については「日本は欧米と比べ、自分のことを初心者と思っている人が多いので、運動強度が低い、ヨガやピラティスなどの『調整型』や、24時間ジムのような『利便性型』の業態・サービスが多くなっていくでしょう」と分析。
「未顧客やライトユーザーを対象にマーケティングして、2、3のステップで継続利用へと導けるケイパビリティ(事業の包容力)を備えた事業者が生き残ります。加えて、子ども向け、自治体向け、(健康経営を志向する)企業向け、学校向けと、フィットネスクラブ事業者がサービス提供領域を広げていくようになるでしょう」