夏を控え、ダイエットを志す人も多いことでしょう。しかし、「運動はキライでなかなか続かない」という声もよく聞かれます。一方で、最近のフィットネスクラブには、そんな人でも楽しめるイベントを開催するなど、工夫を凝らしているところも。今年4月に幕張メッセで開催され、1万人が沸いた「音楽×エクササイズ」の大規模フェスの事例から、運動の初心者だったり、運動が好きではなかったりする人でも、ライフスタイルに運動を自然に取り入れるコツを考えます。(朝日新聞withHealth)
「まだまだ行けるか?」“Are you ready?”
強いビートのEDMが爆音で鳴り響き、レーザービームが縦横無尽に飛び交う幕張メッセ内の会場。アーティストライブ並みの大型スクリーンに映し出されるのは、フィットネスのインストラクター。そして相対するのは、約1000台のフィットネスバイクにまたがる、同数の参加者たち。まさに壮観です。
「行くぞ…」“Ruuuuuuuuuun!!!”
「全速力で漕げ」を意味する「ラン」の指示に、会場の熱量が一気に膨れ上がります。音楽を楽しみながらバイクを漕ぐ80分の公演の終盤、参加者たちは滝のように汗をかきながら、笑顔で最後の力を振り絞り、足を回していました。音楽とエクササイズが融合した大規模フェス、「LUSTER(ラスター)」の様子です。
開催するのは暗闇バイクフィットネス「FEELCYCLE(フィールサイクル)」を運営するFEEL CONNECTION社。東京・銀座の1号店開店から11年、現在、全国に約40店舗のスタジオを構えます。同社によれば、会員数は2024年5月時点で都度利用を含め約18万人に上るといいます。
2020年からコロナ禍を経て8万人が増えています。2022年6月には東京・京橋に、2023年4月には京都・河原町に、それぞれ大型スクリーンを設置し映像に合わせてエクササイズをする新店舗を出店するなど、フィットネスの苦境が叫ばれる中でも、規模を拡大しています。
FEELCYCLEでは、屋内のクラブのような空間で流れる音楽に合わせて、インストラクターの指示で行うコリオと呼ばれる振り付けの動作をしながら、フィットネスバイクを漕ぎます。コリオには腕立て伏せや腹筋などの要素も含まれ、有酸素運動と筋トレ両方が可能なエクササイズです。
1レッスンは45分間、FEELCYCLEを運営するFEEL CONNECTION社は消費カロリー800kcalをうたい、運動効率の良さをアピールしています。
これまで6回開催されたLUSTERの公演は、通常のレッスンと異なり、60~80分間、複数のインストラクターたちにより行われました。
全11公演で、1公演につき700~900人が参加。つまり、フィットネスのイベントが、約1万人を集客したことになります。この規模感になると、すべての人がジムで体を鍛えることに慣れているとは考えにくく、たくさんの運動初心者や、運動ギライも取り込んでいるとみられます。
その理由の一つが、音楽の魅力です。もともとジャスティン・ビーバー、ビヨンセなど海外ビックアーティストとのコラボも多く、ライブのようなイベントとの親和性は高いと言えるでしょう。その音楽に合わせて体を動かすことで、一体感を持たせ、フィットネスの要素と両立させています。
イベントやレッスンで使用されるのは、洋楽のヒット曲を中心にしたセットリストや、ヒップホップやレゲエ、ハウスミュージック中心のセットリスト、そして“DEEP系”と呼ばれる音楽に深く集中できる楽曲をセレクトしたセットリストなど。すべてのセットリストはApple Musicで公開され、レッスン外でも楽しめます。
もう一つが、FEELCYCLEに所属する約300人のインストラクターたちです。レッスンの参加者を、コリオの指示や投げかけるポジティブなメッセージ、歌、ダンスなどで励まし、盛り上げるインストラクターは、舞台に立つアーティストやモデルのような存在です。
従来のジムは幽霊会員、つまり利用頻度の低い会員が多いことが指摘されます。独立行政法人中小企業基盤整備機構の17年の調査によれば、利用頻度について「年に1回以下」が51%ともっとも多い結果でした。一方、FEELCYCLEの利用率は「8割以上の会員が月に1〜2回は利用する」(広報担当者)と高くなっています。
FEELCYCLEにおいては、インストラクターを中心としたファンダム(ファンによる文化)が形成され、インストラクターを応援するために、普段のレッスンの来訪率が上がり、1公演1万円以上するLUSTERのチケット1万枚が売れ、アパレルなどの物販による買い支えでコロナ禍を乗り切ったとも言えるのです。
今年のLUSTERの会場には、音楽フェスさながらに、物販やフォトブース、キッチンカーが並びました。公演の合間の休息には、チルエリアのハンモックが盛況でした。
もともとは、2010年代にアメリカで人気だった暗闇バイクフィットネスを、FEEL CONNECTION社長の橋本英治さんが日本に持ち込み、FEELCYCLEとしてスタジオの照明や演出などを発展させていく中で、独自に進化していったのがLUSTERという大規模イベントです。
橋本さんは「この(1万人)規模のイベントを単独のブランドで開催しているのはおそらくLUSTERだけ」「世界でも珍しい事例」だと言います。今後、国内でLUSTERをツアー化することや、海外のブランドとのコラボレーションなども、アイデアとしてあるということでした。
子どもを親に預けて、夫や友人とLUSTERに参加したという30代の参加者の女性は「音楽を浴びてバイクを漕いでスッキリした」と清々しい表情を見せました。そんな女性は「産後、ダイエットがなかなか続かず、体形が戻らなかった」と明かします。
「運動をしようと意識していたというよりは、仕事や育児のストレス発散を目的に通っていたら、自然とやせていきました」と笑う女性。その言葉には、運動の初心者や運動が好きではない人がダイエットや運動習慣を続けるヒントが隠れています。それは、「運動をしよう」と意識しないこと。
フィットネスだけが目的でなく、音楽やインストラクターなどの魅力を楽しみに置くことで、「運動をしよう」と肩肘を張ることなく、運動を自然とライフスタイルに取り入れられる。その結果として、運動自体が好きになることも、十分にあり得るのだと感じた取材でした。