ネットの話題
「我ながらマニアック」 〝イカタコ〟が浮かび上がるクリアファイル
作者が込めた生物愛聞きました
暗闇に、ぼぅっと浮かび上がるタコとイカ。指先に乗るほど小さな生き物をモデルに作った、幻想的な「クリアファイル」が、SNSで話題になりました。制作者に話を聞きました。
黒っぽいクリアファイルの間に白紙を差し入れると、紙が透けて生き物が浮かび上がって見えるしかけです。まるで闇に光るように、片面には「マメダコ」、もう片面は「ヒメイカ」の輪郭が浮かび上がります。
《我ながらマニアックに仕上がりました》
この〝幻想的〟な投稿には、「きれいですね」「なんじゃこりゃ!欲しい」「一気に発光しだした」と驚く人が続出し、1.7万件のいいねがつきました。
紙を挟んでみると...
— でんか (@K_theHermit) April 22, 2024
我ながらマニアックに仕上がりました🐙🦑 pic.twitter.com/0NKQJ9G4dO
ヤドカリのアイコンで知られるXに4.9万人のフォロワーがいるでんかさん。生き物のユニークな生態を日々発信しています。
もともと東京海洋大学出身で、現在は海産生物の増養殖職として働いています。
職場は、海の目の前。自宅があるのも海辺の町。「1年に400回以上は海に行く」そうで、仕事以外でも〝趣味の延長〟として、採取してきた生き物を家で観察したり、SNSで発信したりして、「海の生物関連のことしかしない〝潮まみれの日々〟」を送っています。
話題になったクリアファイルが生まれたのは、そんな〝潮まみれの日々〟の中で、いつもと違った試みをしようとした時でした。
これまでは「生物の良さがそのまま伝わる」ものを大前提に、特別な加工は施さない画像を発信してきたでんかさん。今回はイカやタコを専門に扱う作家さんとのコラボ企画のため、あえて「今までやったことがないことを」と考えました。
いつものように白背景で、〝普通〟の状態の生物を撮影した後に、写真の色と輝度を反転させる「階調反転」を加えました。
明るい部分は暗くなるため、白背景の写真は黒背景に。「見た人が違和感を覚えるような、おどろおどろしさ」を狙いました。
「普通の生物の良さを見せる」というこれまでのコンセプトとは違う作品を作りながらも、でんかさんはこう思ったそうです。
「これまで〝普通〟だと思って発信してきた生物の姿は、人間の目で見た〝普通〟だったのかもしれない」
イカは、目がとても良いと言われています。この世界には、人間よりも視力の良い生物、人間には見えない波長まで見える生物、いろいろな生物がいる…。
「人間以外の生物からしたら、どんなふうにほかの生物は見えているんだろう」
もしかしたら、クリアファイルのこんな幻想的な風景が〝普通〟の生物がいるのかもしれません。
クリアファイルのモデルになった「マメダコ」は、本来は指の上に乗るぐらいの日本最小級のタコです。
「ヒメイカ」は、ペットボトルのふたの中で泳げてしまうほどの、世界最小のイカの仲間です。
でんかさんは以前作った、磯の小さな生物の写真集「海洋生物観測所1」で、タコ類の赤ちゃんと「誤同定(誤って定めてしまうこと)」してしまったことがくやしく、今回、クリアファイルのモデルに抜擢しました。
今月完成した続編「海洋生物観測所2 ~生物多様性にもほどがある」にも収録したそうです。
グッズやSNSで生物の姿を発信しながら、どんな思いを込めているのでしょうか。
でんかさんは「海には前提としてこんなにカラフルでおもしろい生物がいる。それを『かわいい』『おもしろい』と、見たままの思いでまず感じる事が大事だと思います」と話します。
その気持ちがあると活動を続けやすく、先にある新しい発見に繋がるかもしれない。子どもの頃にした釣りや海水浴で見た海の生物への興味が、学問・そしてライフワークへと派生していっているでんかさんはそう考えています。
「発信する写真や動画にはたくさんの情報が込められているのですが、いつか〝違和感〟に気づいて、指摘してもらえたらうれしい。ものを作る側としてはそう期待しています」
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