ネットの話題
リアルなカラスのぬいぐるみ、なぜ人気? 生物園の攻めたお土産
リアルなカラスのぬいぐるみに、ヘビの抜け殻……。足立区生物園のオンラインショップがSNSで話題になっています。一風変わったぬいぐるみをお土産にしたいと選ぶ子どもに、たじたじになる保護者もいるようです。ラインナップの狙いを聞きました。(朝日新聞デジタル企画報道部・武田啓亮)
東京都足立区の元渕江公園内にある、足立区生物園のX公式アカウントが、こんな投稿をしたのは、5月10日のことでした。
「きゅるっとした目が可愛い、しっかりした造りのぬいぐるみ。カラスは身近な野鳥ですが、中々リアルなぬいぐるみは少ない印象です。ぜひご覧ください」
#カラス のぬいぐるみを入荷しました!
— 足立区生物園 (@seibutuen_info) May 10, 2024
きゅるっとした目が可愛い、しっかりした造りのぬいぐるみ。
カラスは身近な野鳥ですが、中々リアルなぬいぐるみは少ない印象です。
ぜひご覧ください。https://t.co/hk7leOeLfN#生物園 #生物園オンラインショップ#愛鳥週間 pic.twitter.com/Qx6wI7M45y
ユーザーからは「確かにカラスがぬいぐるみになってる印象は少ないかも」「これは買わねば」といった反応が寄せられました。
そして、翌11日には「予想外の反響をいただき、生物園オンラインショップでは現在売り切れとなっております。再入荷時はこのアカウントでお知らせします」というお知らせがありました。
アカウントを見ると、その後も、再入荷と売り切れを繰り返しているようです。
生物園に取材を申し込むと、ミュージアムショップを担当している綱島歩美さん(28)が対応してくれました。
「大きな反響をいただき、驚きつつも嬉しく思っています。園側で大量の在庫を持つことは難しいため、売れ行きを見ながら、随時メーカーさんから取り寄せている状況です」
実はこのカラスのぬいぐるみが園のショップに並ぶのは、昨年4月以来、約1年ぶりだそうです。メーカーにも在庫が無い状態が続いていたため、長期間の「再入荷待ち」となっていたとのこと。
「今はまだメーカーさんに在庫があるため、比較的早く再入荷できているのですが、今後の売れ行きによってはまた長期間お待たせしてしまうこともあるかもしれません」
生物園がオンラインショップを始めたのは約3年前からだそうです。
「コロナ禍で断続的な休園があったため、その間にもなにかできることがないかと考えて始めたんです」
このオンラインショップが評判を呼び、昨年のミュージアムショップの売り上げはコロナ禍前の3倍にもなりました。
ただ、不思議なことに、売り上げの9割はオンラインショップではなく、園内にある実店舗での売り上げだそうです。
「『オンラインショップを見て園の存在を知り、足を運んだ』『グッズが面白そうだから遊びに来た』というお客さんが多いんです。オンラインでの売り上げ比率は少ないのですが、オンラインショップが園全体の宣伝になっているみたいです」と綱島さんは分析します。
ショップの人気の秘密は、グッズのユニークさにあります。
ぬいぐるみコーナーに並ぶのは、カラフルな羽根と笑い声が特徴的なワライカワセミや、世界最大の淡水魚ピラルクなど、一風変わった動物のぬいぐるみ。
「かわいいの、それ?ママ、ちょっと苦手だなあ……」
売り場の隅で、3歳の長男にぬいぐるみをねだられた女性(31)が、少し困ったような表情を浮かべています。
男の子が手に持っているのは、名前の通り、真っ赤な目が特徴的なアカメアマガエルのぬいぐるみ。
「かわいいよ、これ。よしよしして?」
男の子はぬいぐるみの魅力をアピールしますが、女性はたじたじという様子でした。
カエルやヘビなどの少し変わったラインナップは、店頭に並べるぬいぐるみを選ぶ際の、綱島さんのあるこだわりが理由です。
ピラルクやワライカワセミのように園内にいる生き物、またはカラスのように観察しやすい身近な生き物であること。
そして、かわいさがありながらも、その生き物の特徴をリアルに再現していること。
市販のぬいぐるみの中から、条件を満たしているものを厳選し、店頭に並べているそうです。
鱗の模様や足の形など、どれも本物が持つ特徴をよく表現しています。
ぬいぐるみコーナーの隣には、園内で脱皮したヘビの抜け殻や、羽化した後のチョウのサナギなどが透明な瓶に入った状態で売られています。
「これまで職員が集めていたのですが、もったいないな、何かに使えないかなと考えて、販売してみることにしました。園内での体験や気づきを、家に持ち帰ることができるようなお土産になればいいなと思ったんです」
ショップには、地元企業の協力を得て製作した園オリジナルのキーホルダーやTシャツなども並びます。
「ぬいぐるみも園オリジナルのものがあるといいんですが……」
ぬいぐるみの場合、少数ロットでの生産が難しいのと、園側でまとまった在庫を保管する場所が無いのが課題だそうです。
「でも、いつかは園オリジナルのぬいぐるみを作りたいと思っています」
園に就職する前は、大学院で海洋プランクトンの研究をしていたという綱島さん。
子どもや家族連れが多く訪れる生物園で、来園者に生き物の魅力や自然環境の貴重さを伝えていきたいと語ります。
「園にいるのはモルモットなどの身近な生き物から、オオサンショウウオなど絶滅のリスクがある珍しい生き物まで様々です。かわいいぬいぐるみや変わったお土産をきっかけに、彼らに興味を持ってもらえたらうれしいです」
1/16枚