お金と仕事
「やりがいだけでは…」 〝キャリア官僚〟試験を受けた大学生の本音
人気が落ちてきているという「キャリア官僚」への就職。2023年度から試験の一部で19歳以上が受けられるようになりました。どんな人が、どんな思いで国家公務員に挑戦しているのか。20歳の大学生ライターの筆者が、同世代の受験者に話を聞いてみました。(大学生ライター・高橋綾)
国家公務員総合職は「キャリア官僚」とも呼ばれ、国レベルのスケールの大きな仕事内容が魅力です。一方で、近年は残業が多く給与も少ないなどのイメージが強くなり、なり手不足が問題となっています。
そこで2023年度から、総合職の「教養区分」の受験資格が20歳から引き下げられ19歳以上なら試験を受けられるようになりました。合格すれば、大学4年時に省庁の採用面接を受けられます。
筆者自身は、民間ではできない仕事や社会のために働けるやりがいなどに魅力を感じつつ、年功序列制度が根強く残っているイメージがあり、官僚を就職先として考えるのは迷ってしまうのが本音です。
それでも試験を受けた理由を、同世代の学生に尋ねてみました。
はじめから官僚になることを目指している人にとっては、受験年齢が下がって機会が広がるのはチャンスと言えそうです。しかし受験者は第一志望の人ばかりではありません。
さらには「保険」「練習」と割り切る人も……。
官僚の人気が下がっているのは、それだけ民間企業での就職の選択肢が広がった裏返しでもあります。外資系を含め、民間企業も選択肢に入っている人にとって気になるのは、やはり給与などの待遇のようです。
官僚を第一志望にしている学生はどんなモチベーションなのでしょうか。
このような現状について、官民のキャリアに詳しい専門家はどのように考えているのでしょうか。
元厚生労働官僚で慶応大准教授の吉井弘和さんは「官僚の人材確保の課題は深刻です。官僚人気は過去のものと言われても仕方ない状況だと言えるでしょう」と警鐘を鳴らします。
その上で、学生たちから聞かれた「記念受験」「民間の保険」という本音については「必ずしも悪いことばかりではありません」と指摘します。
「たまたま合格していることが、後々、真剣に応募を考えてくれることにつながるかもしれません。『保険』だと思っていたけれど、後から『本命』になることもあります。悪い意味ではなく、大学生の『社会人としてやりたいこと』というのは、揺れ動くものです。社会人になったことがない人がほとんどなので、当たり前のことです」
官僚に関心を持っている学生に幅広く受験してもらうにはどうすればいいか。官民を越えたキャリア支援に取り組む「VOLVE」の代表取締役でもある吉井さんは、試験内容の改善が必要だと訴えます。
「受験するかどうかを決める心理的なハードルを下げるため、国家公務員に特化した試験の内容を減らしていくべきです。今の試験内容は、事務処理能力の高さやキャパシティーの広さを測るうえで有用ですが、そうした能力を測る別の方法もあるはず。採用試験における進化が期待されます」
同世代の学生たちの本音を聞く中で印象的だったのが「やりがいだけでは生きていけない」という言葉です。官僚の仕事内容に魅力を感じつつも、待遇に不安を感じる葛藤がにじんでいるように感じました。
試験内容を見直すべきだという吉井さんの提案は、試験問題について「『教養』と題して大学受験のような内容を出題する意味はあるのだろうか」と思っていた私としても、共感する部分が多くありました。
試験がより仕事に必要な能力を測るものとなれば、学生にとってもっと受験のハードルが下がるかもしれません。
民間企業の採用では、面接を終えた学生同士が情報交換をして、企業の「品定め」をしている時代です。なぜなら、その組織の特徴が最も出るのが、採用の場面だということをわかっているからです。
待遇改善とあわせて、試験内容を時代に合わせてアップデートすることは、キャリア官僚の志望者を増やす大事な一歩になるのかもしれません。
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