話題
「この人と生きている気がしない」 産後離婚を考えた妻からの提案は
周囲が「引く」ほど仲がよかった夫婦だったのに、子どもが生まれて溝ができてしまい……。主に子育てを担った妻は、「この人と生きている気がしない」と孤独感が募ったそうです。「産後クライシス」が話題になって10年経ったものの、ひとり親女性の産後数年での離婚率は変わっていません。「子はかすがい」とも言われるのに、なぜ夫婦間のすれ違いが起きるのか――。ある夫婦の経験を聞きました。(朝日新聞くらし報道部・松本千聖)
厚生労働省の調査によると、ひとり親になった女性の4割は子どもが0~2歳のときに離婚しており、5歳までを合わせると6割にのぼります。
2011年にベネッセコーポレーションが発表した調査では、子どもが0~2歳児期の家事は圧倒的に妻が担うことが多く、妻から夫への愛情は、出産後に急激に減り続けることが明らかになっています。
「産後クライシス」として注目され、産後は夫婦の関係性にとって重要な時期だという認識は広がりましたが、この時期に離婚する割合は変わっていません。
長廣百合子さん(40)は20代のころ、仕事が何より楽しく、生きがいだったといいます。
「超」がつくほどのワーカホリックで、結婚や出産はキャリアの足かせになると思っていたそうです。
しかし、遥(よう)さん(47)の粘り強いアプローチを受け、11回目のプロポーズで結婚を決めました。
「周囲が引くくらい」の仲の良さでしたが、2014年に長女が生まれてからは、不穏な空気が漂い始めました。
百合子さんは小さな命に対する責任感に加え、睡眠不足もあり、常にカリカリして体が休まりませんでした。
一日中パジャマ姿で過ごし、娘が泣いていても体が動かない。児童虐待のニュースを見ては、「私もこうなるんじゃないか」と追い詰められたといいます。
会社員の遥さんは仕事が忙しく、出張続きでした。たまに帰宅しても、いつも午前0時過ぎ。
「一緒に頑張りたかったのに、この人と生きている気がしない」
遥さんへの不信感が深まり、百合子さんの孤独感は募っていったといいます。
ふさぎ込む百合子さんの様子を見て「週に2回は午後7時に帰宅して育児を担う」と約束したものの、遥さんは守れないことも多かったそうです。
百合子さんの頭には「離婚」の文字がよぎるようになりました。
実は夫の遥さんも、仕事と家庭の板挟みにあい追い詰められていました。重圧からか、仕事で大きなミスをして、大クレームを受けていました。
家族のために自分が稼がなければ、と頑張ってきたつもりだった。でも、このままでは家族が崩壊するかもしれない――。
あるとき、遥さんは泣きながら「家庭も仕事も大切にしたいのにできない。収入がなくなるから仕事はやめられない」と思いを打ち明けました。
初めて見る夫の涙。改めて思いを知ったことで、百合子さんは「私はこの人と育児をしたいんだった」と思い直したといいます。
その後、働き方を変えられないかと話し合いを重ねたふたり。遥さんは仕事を辞め、夫婦で起業する道を選びました。
子育て支援の会社を立ち上げ、夫婦のための対話メソッド「夫婦会議」を考案し広めています。
男性の育休取得が推奨され、育休を取る父親は増えつつあります。一方で夫婦関係の問題は外では口にしづらく、支援も乏しいのが現状です。
でも、夫婦が円満でなければ、いい家庭もいい仕事も生まれない――。
百合子さんは「対話できる関係があれば、どんな危機も乗り越えられる」と考えています。いま、夫婦の関係で困っていることは「何もない」と話しています。
1/189枚