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スシロー「お茶用のお湯をミルク調乳に…」削除の理由 温度の重要性
回転ずし大手のスシローが、「お子さま連れのお出かけ」を支援する目的で「お茶用のお湯」が乳児用ミルクの調乳に使えるとしていた公式サイト上の記述を、3月28日までに削除し、謝罪しました。子育て当事者から称賛の声が多かった内容は、何が問題だったのでしょうか。(朝日新聞デジタル企画報道部・武田啓亮、朽木誠一郎)
スシローは、子ども連れの利用客に向けたプロジェクト「こどもスシロー」の特設ページにおいて、テーブルに備え付けのお茶用のお湯が乳児用ミルクの調乳に使えることをPRしていました。
子育て当事者を中心に、ユーザーの間で「赤ちゃん連れに優しい」「親も外食しやすくなる」と称賛されていましたが、一転、スシローは28日までにこの記述を削除。公式サイト上で謝罪しました。
このような記述を掲載した理由を「お子さまと一緒に、おいしく、うれしく、楽しい時間をお過ごしいただきたいとの思い」としましたが、お茶用のお湯については「店舗環境によりそのお湯が70℃を下回る温度になるなど、調乳におけるガイドラインの推奨に沿った対応が保証できない可能性があることが判明」したと説明します。
「3月22日に掲載の取り下げをいたしました」「ご迷惑をおかけしましたことを、心よりお詫び申し上げます」とした上で、「お客さまにおかれましては、ガイドラインの推奨している内容や商品のご使用方法を十分にご確認いただきますよう、よろしくお願い申し上げます」と呼びかけました。
乳児用の粉ミルクには、70度以上のお湯で作るように注意書きがあります。なぜ70度を下回ってはいけないのでしょうか。
2007年に世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)は共同で「乳児用調製粉乳(粉ミルク)の安全な調乳、保存及び取り扱いに関するガイドライン」を発表しました。
このガイドラインの制定にあたっては、特にクロノバクター・サカザキという細菌が意識されています。人や動物の腸管、自然環境中、家庭内や人の手などにも分布する細菌です。
赤ちゃんは免疫が未発達ですが、粉ミルクを製造工程で無菌にすることは困難で、開封後に微生物に汚染されるおそれもあります。
サカザキ菌は多くの人にとっては無害ですが、0~1歳未満の乳児、特に未熟児や低出生体重児、および高齢者は敗血症などを引き起こすことがあり、髄膜炎などの併発もあるとされます。
米国では2021年9月から22年1月にかけて、サカザキ菌によるとみられる乳児の食中毒が発生しています。メーカーは製品を自主的にリコールし、米国内では粉ミルクが不足する状況になりました。
日本でも、2023年5月31日に、内閣府食品安全委員会が「粉ミルクは無菌とは限りません!飲む直前に70℃以上のお湯で調乳し、速やかに消費しましょう」とする注意喚起を発表。サカザキ菌についても警戒を呼びかけています。
一連の対応を受け、SNSでは「問題が起こる前に撤回できたのはよかった」「これであきらめないで、またお客さんのための工夫をこらしてほしい」という声も上がりました。
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