水野:ちょっと読み通すには、「長い」とためらうところもありますよね。
たらればさん:はい。すべて読み通すことが難しい、というのは昔からよく言われてきたことで、途中で挫折している人もたくさんいます。
「資本論」(カール・マルクス)とか「失われた時を求めて」(マルセル・プルースト)とかと似ていますよね(笑)。
一生のうちにいつか読みたい、と考えている人は、まずあらすじを理解してみるといいんじゃないかなと思います。
漫画「あさきゆめみし」でもいいですし、「平安人の心で『源氏物語』を読む」という研究者の書いたあらすじ本もありますので、あらかじめ「どんなストーリーか」を知っておくと、読みやすくなると思います。
▼「あさきゆめみし」雑誌黄金時代だから描けた光源氏の〝罪〟
https://withnews.jp/article/f0220210002qq000000000000000W02c11001qq000024266A
あさきゆめみし(講談社/大和和紀著)
平安人の心で「源氏物語」を読む(朝日選書/山本淳子著)
たらればさん:それでも最初から最後まで一気に読もうとすると結構大変なんです。
源氏物語は一般的に54のパート(巻/帖)に分かれていて、普及してゆくなかで、多くの読者は各巻が歯抜けになっていたり、バラバラな状態で手にしていました。
昔は新刊書店はなかったので、全54巻の長大な作品が、古本屋さんで歯抜けで並んでいる…というような状況に近かったと言われています。
初読時は「その通しナンバーの順番通りに読まなきゃいけない」って思うかもしれませんが、近代以前はあまりそういう読まれ方はしていなくて、手元にあるもの、読めるところから読んでいただろうと言われています。
水野:時系列にこだわらず、好きな順番で読んでいいんですね。
たらればさん:人間関係が進むパートもあれば、そうじゃないパートもあって、どこかの巻を読んだらそれなりに満足できるように書かれていると思います。
源氏物語は、光源氏の成長を描きながら、作中時間が進むごとにお相手が変わり、それぞれの登場人物の環境が変わり、政治状況が変わってゆくのが当時としては画期的な組み立てでした。
だからこそ「源氏物語は近代小説の要素がある」と言われるゆえんでもあるんですが、それでも気になる巻や好きな登場人物が活躍するシーン、たとえば「夕顔」だけとか「蛍」だけとか選んで読み進めてゆくのもいいと思います。
僕は朧月夜と光源氏が出会うパート「花宴」が大好きで、ここだけ何回も読み返しています。非常に短くて読みやすいですよ。