連載
#34 #就活しんどかったけど…
「えっ…気持ち悪い」就活の面接で〝プライベート〟聞かれ嫌悪感
その質問、学生視点では「アウト」かもしれません
就活面接では、志望動機や学生時代に頑張ったことなどがよく質問されます。一方で、私生活に関する質問をされたという人もいるようです。関西在住のある女性は「そんなことまで答えなきゃいけないの?」と疑問を持ちました。こうした質問をされた時、学生はどう受け止めればいいのか。また、面接官はどんなことに気をつけなければいけないかを考えます。(朝日新聞デジタル企画報道部・武田啓亮)
「志望度が高い企業でしたが、ある質問をされて、自分の中の熱が急に冷めていくのを感じました」
関西地方の大学4年生の女性(22)は、昨年5月、地元の銀行のオンライン面接を受けていました。
面接官は30代くらいの若い男性でした。
淡々と、和やかに進んでいた面接が終盤にさしかかった頃、「就活が終わったら、何をする予定ですか」と質問をされました。
女性は「資格の勉強をしたり、友達と遊んだりする予定です」と答えました。
すると面接官は「何して遊ぶつもりなの?普段はどんなことをして遊んでるの?」とさらに質問を重ねてきたそうです。
この問いかけに、女性は違和感を覚えました。
「ニヤニヤと笑っていたことと、急にため口になったこともあって、『どういう意図があって聞いているんだろう。気持ちが悪い』と感じてしまったんです」
私の考えすぎだろうか。これくらい我慢するのが普通なのか。たまたま変な面接官にあたっただけではないか――。
そんな思いがぐるぐると頭をめぐりました。
女性が面接を終えて、その銀行の志望者が集まるネットの掲示板をのぞいたところ、「男性の面接官にプライベートな質問をされて不快だった」という女性と見られる志望者からの書き込みが複数あったそうです。
「私だけじゃなかったんだ」
女性はもし面接を通過しても、選考を辞退しようと決めました。
結局、銀行側からは何の連絡もありませんでした。
「選考に通らなかった学生には特に連絡をしない、いわゆる、『サイレントお祈り』だったのだと思います」
最終的に、女性は別の金融機関への就職を決めました。
「元々、プライベートな質問をされた銀行の方が志望度は高かったんです。それだけに、残念だなという思いが残りました」
このような事例について、どう考えればいいのでしょうか?
甲南大学で30年以上にわたりカウンセラーとして、学生からの様々な相談を受けている高石恭子教授(臨床心理学)は「ある種のセクハラにもなりかねない質問です」と指摘します。
「学生と面接官という立場以前に、互いに自律した大人同士だということを忘れないでください。初対面の女性に対して、ちょっと軽率な質問だと思います」
また、コロナ禍で学生生活の大半を過ごしてきた学生は、それ以前と比べて他者との距離感も変わっていると話します。
「いやな質問を適当に受け流したり、答えたくない問いに対して抽象度の高い話をしてやり過ごすといったことが苦手な学生が多い印象です。真剣に受け止め、正確に回答しようとして答えに詰まったり、ストレスをため込んでしまったりする人が増えているのではないでしょうか」
投げかけた言葉を、相手がどう受け止めるかを想像する。
就活面接であっても、コミュニケーションの基本は変わらないと高石教授は話します。
「『私たちの頃はこれくらい普通だった』は通用しません。時代と共に『アウト』な質問のラインは変わっています。面接官も価値観をアップデートしなければいけません」
学生が不快に感じる質問や、高圧的な態度を取る「圧迫面接」など、就活面接でいやな思いをしたという話は未だになくなりません。
ネット上には「圧迫面接をされたから内定を辞退した」という学生の声がある一方で、理不尽な対応をされても、それに耐えて内定を得るための「対処法」をまとめたサイトも見受けられます。
高石教授は「不快に感じる質問や理不尽な対応をされた会社の選考を辞退するのは適切な判断だと思います。人事担当は会社の顔とも言われます。こうした質問を意図的に行っているにしろ、自覚無くしているにしろ、働きやすい職場ではない可能性が高いです」と話します。
気持ち悪い、ムッとした、思い出すとモヤモヤする――。
こうした反応は心の健康を守るために備わった自己防衛の仕組みだと、高石教授は話します。
「親が喜ぶから、有名な会社だからと自分の気持ちにフタをしてしまうと、結局、入社してから長続きしません。『いやだな』と感じた自分の気持ちは大切にして欲しいです」
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