ネットの話題
実は新種だった「ガイコツパンダホヤ」 SNSが発見のきっかけに
顔はパンダ、体はガイコツのような模様のホヤがいる――。SNSで話題になり、テレビなどにも取り上げられた、通称「ガイコツパンダホヤ」。北海道大学大学院の院生が調べたところ、実は新種だったことが分かりました。ホヤの仲間は世界に約3000種いるとされていますが、まだまだ未発見の種がいる可能性があるそうです。(朝日新聞デジタル企画報道部・武田啓亮)
「ゆるキャラみたいでかわいい」「ちょっと不気味」
2017年ごろから、透明な体に走る白黒の模様がパンダの顔やガイコツのように見えるホヤの写真がSNSで話題になっていました。
沖縄県久米島周辺の海で目撃されたこのホヤはSNS上で「ガイコツパンダホヤ」と呼ばれるようになり、テレビなどのメディアにも取り上げられました。
今年の2月1日、北海道大学はこのホヤが実は新種だったことが分かったと発表しました。
ホヤを採集し、新種だと特定したのは同大大学院理学院博士後期課程3年の長谷川尚弘さん(28)です。
長谷川さんがガイコツパンダホヤの存在を知ったのは2018年の秋ごろでした。
「ホヤの研究をしていた私に、友人が『こんなのがいるよ』とSNSで話題になっていた画像を見せてくれたんです。あんな見た目のホヤは見たことがありませんでした。おそらく新種だと直感しました」
クラウドファンディングで研究資金を募り、自らホヤの採集のためにダイビングの免許も取得したという長谷川さん。
ガイコツパンダホヤが、久米島周辺にある「トンバラ」と呼ばれる巨大な岩の周辺で目撃されていることを知り、直接潜って採集する計画を立てました。
2021年に実施した採集活動は「驚くほどスムーズだった」と振り返ります。
「ホヤの仲間は岩の陰や隙間に隠れていることも多いのですが、ガイコツパンダホヤは岩の表面、とても見つけやすい場所にいたんです」
採集したホヤを解剖・解析した結果、長谷川さんの予想通り、新種のホヤだと判明。
成果は学会誌にも掲載されました。
長谷川さんはこのホヤに、ラテン語で「骨の」と「パンダの」を意味する言葉を入れた「クラベリナ・オシパンダエ」という学名をつけました。
「ガイコツパンダホヤという呼び名でみんなに親しまれていたので、学名もそれに準じた分かりやすい、呼びやすいものが良いと考えました」
元々、海の生き物が好きだったという長谷川さん。
その中でもホヤに興味を持ったきっかけは、子どもの頃、家族と買い物で訪れたスーパーの鮮魚コーナーだったと言います。
「最初は、魚とも貝類とも違う独特の姿に興味を持ったんです」
岩に張り付いて動かず、流れてくるプランクトンを食べて生きる生態も魅力だそうです。
「進化の中で、どういう理由でこうした生態になったのか。生き残る上でどんな利点があるのかなどを考えると、とても面白い生き物なんです」
ホヤと聞くと、どうしてもお酒の肴というイメージが浮かびます。
「私も、ホヤの刺身を肴にビールを飲むのが大好きです」と長谷川さん。
ただ、私たちが食用にしているホヤは、ホヤの仲間のごく一部でしかないそうです。
「日本で食用にされているのはマボヤとアカボヤの2種類ですが、世界には約3000種類のホヤがいるんです。ホヤを専門にしている研究者が少ないこともあり、沖縄周辺など、日本の近海にもまだまだ未発見の種が多くいるのではないか」と長谷川さんは考えています。
「今後、ホヤの研究者としてキャリアを重ねていきたい。将来の夢は、ホヤの図鑑を作ること」と語る長谷川さん。
今回のガイコツパンダホヤの研究を通して、SNSの投稿が新種発見の役に立つのではないかと手応えを感じているそうです。
「日本近海に限っても、広い海を研究者1人の目と足だけで探すのは限界があります。ダイバーの人たちなどによるSNSへの投稿が、新種発見のきっかけになる可能性があると思いました」
長谷川さんは自身のX(旧ツイッター)のアカウント(@hoyahoy11532152)で研究成果を報告したり、ホヤに関する情報を集めたりしているそうです。
「変わったホヤを見つけたら、写真と一緒に、見つけた場所を教えてくれると嬉しいです」と呼びかけています。
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