連載
#27 小さく生まれた赤ちゃんたち
小さく生まれた赤ちゃんの〝手帳〟 「標準」と比べない育児の大切さ
「リトルベビーハンドブック」が全国に広がっています
1500g未満と小さく生まれた赤ちゃんや家族へ向けた、母子手帳のサブブック「リトルベビーハンドブック」。2024年度中には全国47都道府県で作成される予定で、広がりをみせています。先駆けとなったのは静岡県のハンドブックです。〝標準〟と比べがちな、小さく生まれた赤ちゃんの成長。大切にした「ピアサポート」の視点と、制作の経緯を振り返ります。
多くの赤ちゃんは妊娠37〜41週(正期産)で生まれ、平均体重はおよそ3000g、平均身長は49cmほどです。
2500g未満と小さく生まれた赤ちゃんは「低出生体重児」と呼ばれ、さらに小さい1500g未満は「極低出生体重児」と呼ばれます。
リトルベビーハンドブックは、主に、この1500g未満で小さく生まれた赤ちゃんと家族へ向けた母子手帳のサブブックとして使われています。
2023年11月、静岡県で低出生体重児のセミナーが開かれ、全国の育児サークル関係者ら約100人が集いました。
セミナーでは、リトルベビーハンドブックの広がりや必要性が話し合われました。
リトルベビーハンドブックの普及を支援する国際母子手帳委員会の板東あけみ事務局長によると、2024年1月現在、40都道府県で運用されているといいます。
母子手帳は正期産で生まれた発達を基準につくられています。
例えば、発育曲線は出生時の身長が40cm以上、体重が1kg以上からしか記入できず、1000g未満で生まれた赤ちゃんは生後すぐの記録をつけられません。
小さく生まれた赤ちゃんの家族のなかには、「母子手帳に書けない」「母子手帳を開くことがつらい」と嘆く人もいます。
成長発達の項目には、生後1カ月ごろの場合「裸にすると手足をよく動かしますか」といった問いがあり、「はい」か「いいえ」を選択する形式ですが、小さく生まれた赤ちゃんは発達がゆっくりなため、「いいえ」に丸がつきがちです。
一方、リトルベビーハンドブックは身長20cm、体重0gから記録できるようになっています。成長発達は「はい」「いいえ」で記録するのではなく、「頭を一瞬持ち上げる」など何かができた日付を記入する形式です。
当事者家族と連携しながらリトルベビーハンドブックを作る動きは、全国に広がってきています。その先駆けとなったのは、2018年に静岡県が発行した「しずおかリトルベビーハンドブック」です。
県は静岡市の育児サークル「ポコアポコ」が2011年に作ったリトルベビーハンドブックを参考に作成しました。
セミナーでは、ポコアポコ代表の小林さとみさんたちメンバーが、リトルベビーハンドブックを作った経緯を振り返りました。
小林さん自身も、2002年に妊娠27週0日で927gと466gの双子の姉妹を出産しています。
熊本県で極低出生体重児の支援として「リトルエンジェル手帳」が作られているという新聞記事を見つけ、静岡県にはないのか問い合わせましたが、いい返事はもらえなかったそうです。
そこで、ポコアポコのメンバーで熊本県からリトルエンジェル手帳のコピーを取り寄せて研究していました。
2010年、静岡県の助成金事業に応募し、「家族目線のリトルベビーハンドブック」を作成したといいます。
小林さんは「ママの視点でママの気持ちに寄り添ったものを作ろうと決めました」と振り返ります。
医学的な内容は、当時静岡県立こども病院の新生児科長だった五十嵐健康医師らが協力しました。
五十嵐さんは、小林さんからリトルベビーハンドブック作成の相談を受けた日のことを覚えているといいます。
「小林さんから『小さく生まれた赤ちゃんたちの支援になる手帳を作りたい』と相談を受けたとき、すばらしいものができるのではないかという予感がありました」
五十嵐さんがほかの新生児科の医師や理学療法士、作業療法士にも原稿の執筆を依頼したところ、みんな二つ返事で協力してくれたそうです。
五十嵐さんは「正しい医学的知識を提供することも大事ですが、リトルベビーハンドブックでは『ひとりぼっちじゃない』というピアサポートの視点が一番大事」と話します。
手帳の各ページの下段には先輩ママのメッセージを記載し、ほかのページにパパやきょうだい、祖父母視点のメッセージを入れる提案をしたと明かしました。
より広く、必要な家族へ届けるには、子育てサークルでは限界があったため、行政へ相談して作成を託しました。
ポコアポコの取り組みに賛同した国際母子手帳委員会などの協力もあって、現在では全国に広がっています。
国際母子手帳委員会の板東さんによると、2024年度中には全国47都道府県で作成・運用される予定だそうです。
板東さんは、「リトルベビーハンドブックは小さく生まれたお子さんと家族のためのもの。親は『標準』と比べない子育ての視点を養え、子どもの状態を受け入れていくベースができあがる」と評価します。
「リトルベビーハンドブックは手段であって、一番の目的は行政と医療、地域保健がつながり、ともに寄り添って子どもを育てる地域社会作りをめざすことだと思います。ネットワークのベースになる取り組みなのではないでしょうか」と話す板東さん。
「子どもたちにとっても、自分の成長を振り返るきっかけになり、自分の命を守るためにどれほどたくさんの人が関わってくれたかを知る機会になるのでは」と期待しています。
リトルベビーハンドブックに書かれた出生時の記録や受診歴は、その後子どもが医療機関にかかる際にも参考になるといい、母子手帳と併せて使うことを呼びかけています。
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