連載
#33 親子でつくるミルクスタンド
水道管が破損、1日20トンを給水車で…牧場主「果てしない作業」
能登半島地震 埋め立て地だった内灘の被害
元日に発生した能登半島地震。石川県北部の珠洲・輪島・能登などを中心に、甚大な被害が発生しました。石川県のほかの地域でも局所的に大きな被害が発生し、県内の牛乳のおよそ半数を生産しているという内灘町の酪農団地では、水が確保できず、綱渡りの日々が続いています。(木村充慶)
もともと埋め立て地だったエリアが多いという内灘町。液状化で大きな被害が出ました。
車で大通りを走っていると、普段と変わらない様子に見えますが、埋め立てしたエリアでは道がでこぼこになっていたり、建物が大きく傾いていたりしています。
特に被害があったエリアでは、至るところに危険な建物を示す赤い色の紙(応急危険度判定で最も被害レベルが高く、建物に立ち入ってはいけないサイン)が貼られていました。
訪れた神社は参道が原型を留めないほど波打っており、鳥居をくぐれないような状況でした。
金沢市の北西に隣接する、日本海沿岸の内灘町は酪農が盛んです。
河北潟(かほくがた)を埋め立てた「干拓地酪農団地」には、400ヘクタールにも及ぶ広大な土地に、牧場が16戸あります。石川県内のおよそ半分の牛乳を生産しているそうです。
河北潟酪農組合の組合長・川上充紀さんによると、もともとは船などが行き交っていた場所ですが、戦後に干拓が始まり、1981年(昭和56年)から牧場ができはじめ、酪農団地として成長していったといいます。
現在、この地域全体で牛は1700頭近くいるそうです。そんな酪農エリアも地震で大きく揺れましたが、見た目ではそれほど大きな被害がありませんでした。
川上さんは「ヘドロなどが地下にたくさんあるので、地震などが起きたら大きな被害があるかと思っていたのですが、建物には大きな被害がありませんでした」と胸をなで下ろします。
しかし、大きな問題となっているのが、水道の破損です。
各牧場に水を分岐させる水道管の「本管」が破損してしまい、全ての牧場に水が行き渡っていない状況だといいます。
酪農において水はとても大切です。
乳牛は1頭あたり1日30リットルほど搾乳しますが、その3倍の90リットルほどの水を飲むといいます。
さらに、搾乳に使用する機器を洗浄するためにも大量の水を使います。
現在、各牧場のまわりには500リットルの水が入る巨大な容器がたくさん置かれ、そこに水を補充して使っています。
ふだん使っていたボイラーは水道管と直接つながっているため、臨時で貯めているタンクの水は温水にはできません。
そこで、子牛に飲ませる粉ミルク用の温水や、搾乳で使う機器の消毒用の熱湯は、鍋で少しずつわかして使っています。
何度も何度もわかす必要があり、かなりの時間が取られると話します。
組合長の川上さんは、ふたつの牧場を持って160頭ほどの牛を飼育していますが、1日になんと18~20トンの水が必要だと話します。
「普段からたくさん水を使っていると認識はしていましたが、まさか20トンも使っていたとは思いませんでした」
現状、大量の水は高台の消防署にある非常用の水から持ってきているそうです。各牧場が給水車などを手配し、自ら運んでいます。
消防署と牧場を、何台もの車が何往復もして大量の水を供給する、「果てしない作業」だと指摘します。
「農協の人たちが一部ボランティアで入ってくれています。もっとたくさんの人に手伝ってほしいですが、専門的な技術が必要なため人をたくさん集めることはできません」と声を落とします。
県内外から支援が集まってきているものの、牧場スタッフがその作業に時間をとられ、牧場運営がギリギリの状態だと話す川上さん。
「まわりの牧場主と話していても、目が血走っていたり、疲労困憊(こんぱい)だったり……みんな大変な状況です。このままでは続かないので、なんとかしないといけないと思っています」と危機感を募らせます。
私が内灘町の牧場を訪れた19日も、牧場主が集まって今後の対策を議論する緊急の会議をしていました。
町や県も水道管の復旧のために懸命に動いているそうですが、いまだにどこが破損したのか原因か分からず、先行きが見通せないと言います。
まずは現状を多くの人に知ってもらい、何かサポートできることはないか、考え続けていきたいと思います。
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