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お金と仕事

アスリートがエンジニア職に?魅力的だけど「一人前になるまで2年」

「SportsTech Lab」では現在3人のアスリートが在籍している=タイムカプセル提供
「SportsTech Lab」では現在3人のアスリートが在籍している=タイムカプセル提供

目次

時間と場所を選ばず働けるエンジニア。仕事と競技の両立が難しいアスリートにとっても、選択肢のひとつになりつつあります。とはいえ、一人前になるまでの道のりは簡単ではないようです。ゼロからプログラミングを学び、競技で活躍しながら働いてきた3人の女性アスリートに話を聞きました。(ライター・小野ヒデコ)

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友人の「エンジニアに向いてそう」思い出し…

コロナ禍で仕事が激減した2020年、「『本気でヤバい』と焦っていたときに、SNSで目にしたのが『アスリートのエンジニア化プロジェクト』というフレーズでした」

そう振り返るのは、WFリーグ(女子フットサルリーグ)のバルドラール浦安ラス・ボニータスでプレーする筏井(いかだい)りささん(35)です。バルドラール浦安ラス・ボニータスは今シーズンリーグ優勝を飾り、4連覇を達成しました。

元なでしこリーガーの筏井さんは、29歳でフットサル選手に転向。アマチュア選手としての契約で、現在はフリーランスとしてJFA(日本サッカー協会)の社会貢献活動やフットサルの指導などの仕事をしながら、競技に取り組んでいます。

フットサル日本代表としても活動する筏井さん(右)=本人提供
フットサル日本代表としても活動する筏井さん(右)=本人提供

エンジニア職に興味をもったのは、子どもの頃に人見知りだったことを知る旧友から「静かにコツコツ取り組むエンジニア職とか向いてそう」と言われたことを思い出したからといいます。

「もともと理系なので、自分でも向いているかもと思いました。何より自分のスキルになるのでは」と考え、SNSで「エンジニア×アスリート」という広告を出していたIT企業のタイムカプセルへ、すぐに連絡しました。

筏井さん(右端)は、女性アスリートを支援する「SUNNYS」の運営も担当。昨年秋、都内で女子サッカー、フットサル選手とファンが対面で交流するイベントを初開催した=筆者撮影
筏井さん(右端)は、女性アスリートを支援する「SUNNYS」の運営も担当。昨年秋、都内で女子サッカー、フットサル選手とファンが対面で交流するイベントを初開催した=筆者撮影

習得は簡単ではなかったといいますが、最終的には同社でIT関連の仕事を請け負うまでに至りました。

現在は競技や他の仕事が忙しくプログラミング関連の仕事は休職中ですが、「フットサル選手を引退後、コードを書けるレベルまでにいけたらいいなとは思っています」と希望を話します。

世界を旅しながら働く夢を実現

そんな筏井さんに声をかけられた、元U20女子サッカー日本代表の藤田のぞみさん(31)も、10カ国を旅しながらエンジニアとして働いています。

「どこまでも走れた」と体力に自信があった藤田さんでしたが、22歳の時、オーバートレーニング症候群で思うようにプレーができなくなりました。

当時勤めていた会社での仕事も日常生活もままならず、所属していた浦和レッズレディース(現・プロリーグ「.WEリーグ」所属)を退団。

会社を退職し、地元の島根県に戻りました。そのリハビリ中に、「旅をしながら働いてみたい」という夢が生まれたそうです。

滞在中のインドから取材に応じてくれた元サッカー日本代表選手の藤田のぞみさん=本人提供
滞在中のインドから取材に応じてくれた元サッカー日本代表選手の藤田のぞみさん=本人提供

コロナ禍をきっかけに、もともと興味があったブログやウェブサイトを作成するソフトや、画像・動画編集のソフトを独学で学び始め、その内容をSNSに投稿。

投稿を目にした筏井さんが、タイムカプセル社長の相澤謙一郎さんを紹介したといいます。2021年4月から、藤田さんはフルタイムのアルバイト契約で入社しました。

サッカー選手時代の藤田のぞみさん。オーストラリアに渡ってファームステイをした経験もあります=本人提供
サッカー選手時代の藤田のぞみさん。オーストラリアに渡ってファームステイをした経験もあります=本人提供

1カ月間の研修後、2カ月目から業務を担当し始めた藤田さんは、思い描いていた「旅をしながら働く」を、ウェブエンジニアとして実現しました。

「アスリートは集中力があるので、プログラミングの習得スピードも早いかもしれません。私の場合、朝から仕事に取り組んで気づいたら夜だったということもよくあります」と話します。

「とはいえ、プログラミング言語やソフトはどんどん更新されるので、常に新しい情報に敏感になりつつ、自主学習をしたり、周りに助けてもらったりしながら、日々アップデートしています」

一人前になるまで2年半を費やした

ビーチバレー・スノーバレー選手の新井晴夏さん(26)も、タイムカプセルに所属しているアスリートエンジニアのひとりです。

大学卒業後、「海外を拠点にしながら働けるシステムエンジニア(SE)になりたい」と正社員として入社。プロ選手として競技と両立しながらスキルを習得するのは、とても厳しい道のりだったと振り返ります。

「平日は午前中に練習、午後から仕事、夜はプログラミングの勉強をして、休日は試合という日々を2年半続けました。プライベートの自由時間はほとんどなかったです」と苦笑します。

カナダを拠点に、プロビーチバレーボール選手として活動をしていた新井晴夏さん(左)。研修当時、黒い画面でのコードの羅列に抵抗があったため、「まずは自作したソースコード(文字列)の画面をスクショし、それをスマホに転送し、通勤の電車の中でひたすら眺めて慣れるところから始めました」と笑います=本人提供
カナダを拠点に、プロビーチバレーボール選手として活動をしていた新井晴夏さん(左)。研修当時、黒い画面でのコードの羅列に抵抗があったため、「まずは自作したソースコード(文字列)の画面をスクショし、それをスマホに転送し、通勤の電車の中でひたすら眺めて慣れるところから始めました」と笑います=本人提供

一人前のエンジニアとして働けるようになった2022年、バンクーバーに渡り、昨夏に帰国するまでの1年半、現地で競技に集中しながらもリモートワークを続けました。

エンジニア職に興味があるアスリートや大学生から「どうしたらプログラミングができるようになりますか?」という質問を40回以上受けてきましたが、その答えは決まって「一人前になるには、それなりの時間を費やす必要がある」だといいます。

「海外にいながら働けることが魅力的だと思われますが、それはスキルがあり、時差があっても仕事に貢献できることが前提です。そして、プログラミングは日々更新されるので、学び続ける必要があります。私のような働き方があるという提案はできますが、結局は『自分次第』とお伝えしたいですね」と話します。

プログラミング、アスリートのキャリア形成でも注目

アマチュア選手や、第一線を退いたアスリートたちの多くが課題に感じているのは「どのように生計を立てるか」です。

現役時代は大会出場や海外遠征があるため、仕事を長期的に休まざるを得ないことも珍しくありません。そのため、たとえ固定給のある会社員として働いていても、「自分にしかできない仕事」を任されることは少なく、長期的なキャリアアップを見込めない可能性も高いです。

その点、プログラミングは時間と場所を選ばずに仕事をすることができます。

習得するまでに時間と労力がかかり、さらに、最新情報を取り入れていく必要がありますが、引退後もそのスキルを元に収入を得るだけではなく、キャリアアップをしていくことも可能です。

社会全体で働き方が多様化し、副業を認める企業も増え、プログラミングの存在感は益々高まってきています。アスリートのキャリア形成においても、希望になるのではないでしょうか。

 

筏井りさ(いかだい・りさ)
1988年、神奈川県生まれ。筑波大学人間総合科学学術院人間総合科学研究群に進学後の2011年、ジェフユナイテッド市原・千葉レディース(現・プロリーグ「.WEリーグ」所属)に入団。16年に浦和レッズレディースに移籍。18年にフットサル選手に転向。埼玉SAICOLOを経て、21年からバルドラール浦安ラスボニータスに在籍。日本代表としても活動中。タイムカプセルには20年に所属。
 

 

藤田のぞみ(ふじた・のぞみ)
1992年、島根県生まれ。日ノ本学園高等学校卒業後、2010年に浦和レッズレディース(現・プロリーグ「.WEリーグ」所属)に入団。2012年のFIFAU-20女子W杯ではキャプテンを務めた。2018年、競技に一区切りをつけ、渡豪。2021年4月にタイムカプセルに入社し、現在は世界各国を旅しながらウェブエンジニアとして仕事をしている。YouTuberとしても活動中。
 

 

新井晴夏(あらい・はるか)
1997年、神奈川県生まれ。湘南台高校卒業後、産業能率大学に進学。2020年に卒業後、タイムカプセルに正社員として入社し、プロのビーチバレー・スノーバレー選手としても活動。2021年、カナダ・バンクーバーに拠点を移し、カナダ人選手とペアを組んでプレーしながら、エンジニアとしてリモートワークを続けた。2023年9月に競技生活に一区切りをつけて帰国し、現在は国内で講演活動をしながら業務に従事している。
 

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