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1席5万円のBBQ、待っていたのは…謎イベントで知った就活最前線
2023年夏、東京から移住したウェブメディアの編集長がつづります
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2023年夏、東京から移住したウェブメディアの編集長がつづります
「徳島の企業と学生の交流のためのBBQ(バーベキュー)を開くので、来ませんか」。東京から徳島に移住したウェブメディアの編集長・伊藤あかりさんは、ある日、大学生からそんな招待状を受け取りました。参加費は1企業5万円で、学生は0円。どんなイベントだったのか、伊藤さんが主催者に聞きました。
先日、徳島の大学生から面白い招待状が届いた。
「県内の企業と学生の交流のためのBBQを開くので、ぜひ来ませんか」とのことだ。
今はこういうカジュアルな就活があるんだな~と思い読み進めると、参加費用のところで驚いた。
1企業5万円、学生は無料。
しかも開催日時は日曜日の12~14時、参加者30人についても「県内の学生」としか書かれておらず、学年もわからない。
申し込んでいる5社は、徳島トヨタ自動車、電脳交通をはじめ徳島県内の有名企業ばかり。
何者かもわからない30人の学生と休日の昼間にBBQをすることに、5万円の価値を見出す企業があるのだ! この日私は出席できなかったのだが、後日主催者に話を聞いた。
イベントを主催したのは、コワーキングスペースやコミュニティを運営する大学生グループ「eureka(エウレカ)」だ。
主催者に話を聞くと、BBQを企画したきっかけは、企業から「コロナ禍の影響で学生と交流する機会がない」と相談を受けたことだという。
企業にとって、学生との交流は彼らのニーズを聞くことができるとともに、自社のPRができて採用に直結する大切な機会である。
BBQにしたのは「どうしたら学生を集められるかを考えたら、肉だろ!と思いいたった」とのこと。
「面白い大人とタダで肉を食べられるから、来たら?」との呼びかけに集まったのは、コミュニティの会員15人とその友人15人の計30人。就活生だけではなく、高等専門学校1年生も来たそうだ。
5万円の値付けについて主催した担当者は、「30人の集客は多くはないけど、確実に人を集められ、密な交流ができることを考えると、5万円は妥当な金額になるのかなと思います」と話す。
確かに、徳島で大学生を集めるのは至難の業だ。
文科省の学校基本調査(2023年度)によると、東京には77.5万人の大学生がいるのに対し、徳島の大学生は1.3万人。70万人の県の人口のわずか1.8%。ちなみに東京の大学生比率5.5%に比べると約3分の1だ。
さらに、卒業後は多くの大学生が県外に流出してしまう。県内で一番生徒数の多い徳島大学の数字をみても、2021年度は就職した人の約7割が県外へ。
「県外思考が強いので、そもそも県内の企業は選択肢にも入っていない。だからこそ大学生とつながりたいと思う県内企業は多いのだと思います。実際に県内企業の合同説明会にもほとんど人がいないという話もよく聞きます」と主催した担当者は言う。
当日は「就活どんな感じ?」「どういうところに興味もって就活してるの?」「SNSはどんな風に使ってるの?」など、ざっくばらんな話がされていたという。
SNSを開けば、Z世代の声を拾うことなんて容易だ。だけど、それは「見せたい自分」であって、本音ではないことももはや常識。となると、企業はリアルな本人たちに会いたいわけだが、Z世代の多くが「飲みニケーション(お酒を通してのコミュニケーション)」を好まない。
「じゃあどうすればええねん!!!! 」という問いへの一つの答えが、「企業によるBBQゴチの会」になるのかもしれない。
このイベントは参加企業からも好評だったようで「若者の声がきけてよかった!」「(参加する学生の属性を)次はもう少し対象をしぼってほしいな~」と次回開催を求める声もあったそうだ。
2024年卒は売り手市場で、有効求人倍率は1.71とコロナ前の水準に戻ってきている。今から40年前のバブル経済真っ盛りのころは、2~4泊の観光旅行や東京ディズニーランドに招待するなんてこともあった。
とはいえ、Z世代は会社の人との旅行、ましてや宿泊なんて絶対NGだろうなぁ。
Z世代の喜ぶ就活のあり方……肉以外でいうと何があるんだろう。役員と一緒にサウナに入るサウナ就活があるという記事を読んだことがあったなぁ。
他にも推しライブを見ながらの、推し就活とか? 高い寿司を食べながらの交流会とか? 企業のことを知ってもらうためには、プラスアルファが必要なのかもしれない。
主催した担当者は「今回のイベントは学生側のドタキャンもなく、学生側にも楽しんでもらえた。私服でOK、休日の昼間開催と学生の希望に最大限よりそった企画にしたのが良かったのかも。今後も企業と学生をつなぐイベントを開いていきたい」と話している。
地方はどこよりも早く少子高齢化による課題が見える場所。若者不足の地方では、採用難の問題は深刻だ。だからこそ、知恵をしぼった最先端の就活のあり方が、生み出されるのかもしれない。
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