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街のおもちゃ屋さんが「寂しかったクリスマス」熱狂の裏で抱えた思い
今年もクリスマスがやってきました。「子どもたちへのプレゼントは何にしよう」と悩む大人も多く、創業65年の商店街のおもちゃ屋さんは、贈り物を選ぶ子どもたちでにぎわっていました。そんな街のおもちゃ屋さんの店主が振り返る、印象に残っているクリスマスとは――。
(朝日新聞デジタル企画報道部・武田啓亮)
クリスマスが近づいた12月中旬の午後、東京都世田谷区の豪徳寺商店街にある「おもちゃのとばり」の店内では、子どもや孫を連れてクリスマスプレゼントを買い求める人の姿がありました。
近くに住む女性(63)は、6歳と4歳の孫を連れて来店しました。決して広くはない店内ですが、子どもたちはかれこれ20分ほど、おもちゃを眺めるのに夢中です。
「サンタさんへのお願いはお手紙に書こうね。ばあばからのプレゼントはどれにする?」
女性からの問いかけに、女の子(6)がしばらく悩んだ後、人形が入った樽に剣を刺していくおもちゃ「黒ひげ危機一発」を手に取りました。
「マリオのじゃなくて、黒ひげでいいの?」
「うん。みんなで剣ブスってする方がいい」
おもちゃの箱を抱えた女の子は満足そうでした。
その後も、プレゼントを買いにお客さんがやってきます。
「ゼンカイジャーのおもちゃってまだあったりします?」
「リカちゃんのお洋服だけ欲しいんですけど」
お客さんからの質問に、2代目店主の戸張良子さん(68)が対応していました。
戸張さんの母・時子さんが店をこの場所に店を構えたのは1958年。
第一次ベビーブームを経て、街には子どもたちがあふれていた時代です。
孫のプレゼントにリカちゃん人形の服を購入した女性(74)は「私が子どもの頃からお世話になっているお店です。ずっと続けて欲しいから、プレゼントはいつもここで買っていくんです」
創業当初は羽子板やカルタなど、昔ながらのおもちゃが並んでいた店内も、日本が豊かになるにつれ、流行のキャラクター商品などで占められるようになっていきました。
「昔と違って子どもたちが欲しがるものが多様化しているように感じます。仕入れる私たちも、プレゼントを選ぶ親御さんたちも大変です」と戸張さんは笑います。
かつては、ボードゲームやミニカー、ぬいぐるみといった定番商品の他に、その年に放送されているアニメや特撮番組の商品を抑えておけば「需要はカバーできた」そうですが、最近はその法則も崩れつつあるそうです。
「動画配信サイトなどで数年前のアニメや特撮を見て、そのおもちゃを欲しがる子がいるんです」
また、大型店にはすでに置いていない「掘り出し物」を探しに、街のおもちゃ屋さんを訪ねる人が年々増えているそうです。
創業65年を迎えたお店の歴史の中で、印象に残っているクリスマスはありますか――?
そんな質問をすると、戸張さんは少し考えた後、こう語りました。
「やっぱり、1997年のクリスマスですね。おもちゃ業界はものすごい盛り上がりでしたけど、私には申し訳なさの方が強くって……」
この年のクリスマスシーズンは、前年11月に発売されたバンダイの電子ゲーム「たまごっち」のブームに火が付き、年末商戦とも合わさって、異様な盛り上がりを見せていた時期でした。
品薄が続いてなかなか入手できず、高額で転売される事例もあったそうです。
また、当時は類似品も多く出回っていたそうですが、クリスマスの時期にはそれすらも品切れになっていました。
「楽しみにしているお客さんに『ありません』としか言えないのは本当につらい。ちょっと切ない思い出ですね」
うってかわって、今ではおもちゃをネット通販で買い求める人も多くなりました。
「うちみたいな小さな店は、価格競争では太刀打ちできない。本当に大変な時代になった」と戸張さんは話します。
店に並ぶほとんどのおもちゃは買い切りで仕入れているため、売れ残ればそのまま店の損失になってしまいます。
「今の子どもたちが欲しいものはなんだろうと、常にアンテナを張っています」と戸張さん。アニメや特撮番組のチェックは欠かせません。
今、一番の売れ筋はトレーディングカードだと言います。ちょうどこの日、新しいカードのパックが2種類入荷しました。
「このパックの方が優秀なカードが収録されているから、多めに仕入れているんですよ。2対1くらいですね」
新しいカードの強さや人気も頭に入っています。
記者が戸張さんの知識量に圧倒されていると、学校帰りの子どもたちが続々と店にやってきました。
お目当てはやはり、入荷したばかりのカードでした。
「こっちを四つ、これは二つください」
ほぼ戸張さんの読み通り、カードが売れていきました。
買ったばかりのパックを店前で開封し、中のカードに一喜一憂する子どもたち。
何を買うでもなく店内を見て回る子や、店の前で待ち合わせをしてどこかへでかけていく子もいます。
「子どもたちにとって、楽しい思い出を作るきっかけになるような場所であり続けたい」
そんな思いで、戸張さんは今年もクリスマスを迎えます。
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