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学童は「大人の評価ではなく、子どもがいたい世界に」 10年の変化
子どもたちが秘密基地を作りそこでお菓子を食べる――。
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子どもたちが秘密基地を作りそこでお菓子を食べる――。
「いまの子どもたちは放課後も『教育』が続き、大人に『評価』されている」。民間の学童保育施設を10年にわたり運営するNPO法人「Chance For All」の代表・中山勇魚さんは、放課後の子どもたちの状況に懸念を示します。「大人が評価する世界ではなく、子どもがいたい世界にいることが大切」と話す中山さんに、この10年で感じた変化や放課後の課題について聞きました。
中山さんが2013年に設立したChance For All(CFA)は、東京都足立区と墨田区で8箇所の民間学童を展開しています。
放課後児童クラブ(学童保育)の状況をまとめた、厚生労働省の「放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況」によると、2022年5月時点で、CFAのある墨田区と足立区の待機児童数はそれぞれ280人と244人で、東京23区内の上位です。
全国的にみても、共働き世帯が増える中、学童保育は不足している状況が続いています。こども家庭庁の速報値によると、今年5月時点で全国の学童の利用者は約145万人と、前年同月より約5万人増加しています。一方、希望しても利用できない「待機児童」は1万6825人と、前年より1645人増えています。
働く親の視点でいえば、放課後の子どもの居場所が、学童という大人の目の届く場所で過ごせることは助かります。そのためそこが利用できない「待機児童」の解消は急がれるべきです。一方で、居場所の確保だけを優先すると、必ずしもそこが子どもが求める居場所とは一致しない可能性もあります。
「学童に通う子どもたちが増える中で、学童が大規模化してしまっているケースがある」と指摘する中山さんは、「学童のスタッフが子どもと十分にコミュニケーションをとることができず『管理』ひいては『評価』してしまっているのではないでしょうか」と話します。
――子どもたちが学童で過ごす時間をどう見ていますか。
学童で過ごす時間というのはつまり放課後です。
学校生活では、勉強ができるか、スポーツができるか、などの評価軸の中で過ごすことが多くあります。一方、放課後にはまったく別の基準があります。
ゲームが上手い子、漫画を描くのが得意な子、とっても虫に詳しい子……。もしかすると学校生活ではなかなか評価されないかもしれない得意分野を持つ子たちが「ヒーロー」になれるのが放課後です。
いまは学童を必要とする子どもたちが多く、施設も足りていない状況を考えると、子どもたち同士や、子どもと学童のスタッフが十分なコミュニケーションをとれない環境になっているように感じます。
――十分なコミュニケーションといいますと。
学童は子ども40人に対し、放課後児童支援員(保育士や社会福祉士の資格を持っているスタッフ)2人を配置するよう定められています。その配置基準を守っていても、学童が大規模化すると、1対1のコミュニケーションがとりにくくなります。4対80のような関係性になり、「けがないように帰す」ことが最優先になってしまうように感じます。外部の方々と研究会などを開いているのですが、公立の学童を経験した人からもそのような悩みを聞くことがあります。
一方、私たちの学童では、「1対1×35」という表現をしています。スタッフが大人数を「管理」するのではなく、「1対1」を大切にしようということです。
――学童以外にも放課後の過ごし方はありますよね。ただ先日、「放課後NPOアフタースクール」(代表理事:平岩国泰)が、76.2%の小学生が「放課後にもっと友達と遊びたい」と回答したのに対して、友達と遊ぶのは「週1回以下」が70.9%になるという調査結果を発表しています。
放課後にある意味値段がついてしまっていると感じています。
習い事や、もしかしたら学童もそうかもしれませんが、親からすると、「(月謝などの形で)お金を払うのだから成長させてほしい」という欲求があるでしょう。そうすると子どもたちは放課後も「評価」されているのではと感じます。
私たちは子どもを自由にしたいのですが、いまの流れは「放課後も教育」。学童のプログラムの中にプログラミングなどの習い事を展開するような事業もありますよね。
「学校の後にまた学校がある」という流れが強まっているのが、私が事業を立ち上げた10年前と比較したときの一つの大きな変化に感じます。
――一方、本人がやりたいのであれば、放課後に習い事が入ることもいいのかなと思ったりもします。
そうですね。うちでも、プログラミングが好きな学生ボランティアが、子どもたちにプログラムを提供したりしていますが、それはあくまでやりたい子だけ。「興味ある人いる?」と募って、その子たちが学生と時間を過ごしています。
――働く親の立場で難しさを感じるのは、学校が終わり、親が帰宅するまでの間に子どもが安全に過ごせる場所と、子どもの自由を両立させることです。もし子どもが「学童に行きたくない。公園で遊んで待つ」と言ったとしても、親が帰宅するまでの数時間、それをさせることはできません。
CFAでは「子ども自身が過ごし方を選ぶ場所」を確保する取り組みを展開しています。
2021年には、CFAに来てくれている学生ボランティアが主体となり、CFA亀田校の近くの建物で駄菓子屋「irodori」を始めました。irodoriはCFAの学童に来る子どもたちだけでなく、地域に開放された場所です。
駄菓子屋スペースの奥にはフリースペースもあり、お菓子を食べながら学生スタッフと話したり、卓上でできるゲームなどをして過ごす子どもたちもいます。
開店時間は地域の子どもたちの放課後時間に合わせていて、長い日で午後1時から。閉店は午後6時もしくは午後7時です。
他にも週1回、大学生ボランティアが公園に「いるだけ」の日を設けています。
社会的にはやっぱり子どもだけで過ごしていることは「危ない」とされているし、怖い目にあっている子どももいます。子どもだけで遊んでいると近所から「うるさい」と怒られてしまうようなことも……。そういう社会環境の中でも、見守り役として大学生がいることで「公園に行けば誰かいる」という感じを作りたいと思っています。
――まさに、「安全な居場所」と「子どもの自由」が同居する空間のように思います。自分の子どもの頃を思い出すと、公民館や図書館に入り浸ったり、公園でお菓子を食べてダラダラしたり、だいぶ勝手気ままにやってました。
例えば子どもたちが秘密基地を作りそこでお菓子を食べるというのは、大人からみたときとは違う価値を子どもたちは感じています。子どもがやりたいからやることは、大人がやらせたいことではまったくないですよね。
大人が評価する世界でしか子どもが生きられないのはよくない。そうじゃなくて、子どもがやりたいことをやれる世界、自分がいたい世界で生きていくのが大事だと思っています。
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