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連載

#4 知っておきたい相続のこと

遺産が少ないほど「相続争い」が起きる!? 親を介護しても…

相続問題に詳しい税理士に、相続ポータルサイト「相続会議」の編集長が聞きました

「遺産相続争い」、自分には関係のないことと思っていませんか?(画像はイメージです)
「遺産相続争い」、自分には関係のないことと思っていませんか?(画像はイメージです) 出典: Getty Images

目次

遺産相続争い、と聞くとどのようなイメージがあるでしょうか?

「お金持ちの話でしょ?」「実家には財産もないし、きょうだい仲も良いから関係ない」と、他人事に考えている人も多いでしょう。しかし、実は遺産が少なくなくても、いえ、少ないからこそ遺産相続争いが起きてしまうことがあります。

数多くの相続案件を扱う古尾谷(ふるおや)裕昭税理士に、相続ポータルサイト「相続会議」の岩井建樹編集長が聞きました。

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古尾谷裕昭(写真右)
ベンチャーサポート相続税理士法人(相続サポートセンター)代表税理士。年間1800件以上の相続税申告を行う。相続に関するYouTubeチャンネルを運営をしている。

岩井建樹(写真左)
相続会議編集長。お金について学ぶことで、お金の悩みを和らげられると考えている。相続でもめるくらいなら、相続放棄したいと思っている。

お金がない家ほど、相続で危ない

ーー岩井編集長:「遺産争い」と聞くと、お金持ち特有の問題というイメージです。

古尾谷税理士:逆です。お金がない家ほど、「もめやすい」とさえ言えます。

実際、遺産の分け方を巡る争い(調停・審判)のうち、遺産額1000万円以下が30%超、1000万~5000万円以下が40%超を占めているという裁判所のデータもあります。


ーー理由は?

お金がないと、遺産を分割しづらいんですよ。結果、きょうだいで争いになります。

ーーどういうことでしょうか?

例えば親が亡くなって、実家の不動産(時価4500万円)と、現金1000万円が財産として残されたとします。相続人の子ども3人が、この遺産を分けようとしたとき、どうやって分けますか?

長男一家は、親と同居していたので、実家を相続して暮らすつもりでいるとします。

ーーあっ、不動産はお金と違って、物理的に分けられないですね。

そうなんです。長男が「おれは不動産を相続するから、妹と弟で現金500万円ずつ相続すればいいよ」なんて提案したら、2人はとても納得できないでしょう。

一方で、もし実家がより裕福で遺産が現金9000万円あるのであれば、長男が不動産を相続する代わりに、妹と弟がその不動産と同価値の4500万円ずつ相続すれば数字上、公平に分けることができます(※話を単純化するため相続税の計算までは加味していません)。

ようするに、お金持ちのほうが遺産を公平に分けやすいんです。これが、遺産が少ない方がもめやすいと言える理由です。
 
ベンチャーサポート相続税理士法人(相続サポートセンター)の古尾谷裕昭税理士
ベンチャーサポート相続税理士法人(相続サポートセンター)の古尾谷裕昭税理士
ーーこの3きょうだいの場合、どうすればいいのでしょうか?

長男が不動産を相続する代わりに、妹と弟にお金を払うことで公平に分けることが可能になります。これを専門用語で「代償金」と言います。

不動産は4500万円の価値があるので、代償金として、長男が2人に1500万円ずつ支払うことになります。こうすれば、不動産を金銭上1500万円ずつ分けたことになりますので、公平です。

ーー計3000万円!そんな大金、長男が準備できない場合は?

不動産を3人で共有(相続人みんなで持ち合っている状態)することもできますが、将来のトラブルの元なのでお勧めしません。一人が「売りたい」となったとき、ほかの相続人の同意がないと売れないなど、不動産の処分が自由にできなくなりますので。

ーー代償金も払えない、共有も避けたい場合、もう打つ手がないですね。

最終的には相続した不動産を売却し、お金に変えて、3人で分けるしかないです。

実家で暮らしていた長男一家は、住居を失うことになりますので、相続したお金も活用して新居を購入するか、賃貸物件で暮らすかの選択を迫られます。

ーーお金で分ければ確かに数字上は公平ですけど、長男の立場からしたら、つらい結論ですね。こうなると、きょうだい仲に禍根を残しませんか?

はい、相続をきっかけに、きょうだいの縁がなくなってしまうことはよくある話です。
相続ポータルサイト「相続会議」の岩井建樹編集長
相続ポータルサイト「相続会議」の岩井建樹編集長

親を介護したか、していないかももめる原因に

ーーほかに相続でもめる要因は?

介護です。

例えば、両親が亡くなり、姉弟2人が相続人になったとします。主に、実家近くに暮らしている姉が両親の介護をしてきたとします。

弟が姉に「両親の介護をしてくれたから、遺産を多めに相続してくれてもいいよ」と気を遣ってくれれば、問題は生じません。でも、弟が「介護と遺産相続は別の話。公平に半分に分けよう」と言ったら、姉はどう思うでしょうか?


ーー「ひどい!」と、思うでしょうね。

はい。でも、弟は「法定相続分通りに分けよう」との主張なので、法的にはおかしなことを言っているわけではありません。
【相続メモ】
法定相続分とは、民法で定められており、遺産の分け方の目安となっている。相続人ごとに、もらえる遺産の割合が示されている。

例えば、父が亡くなれば「遺産は母が2分の1、子どもが2分の1(子どもが複数いるときは2分の1を均等割り)を相続」が目安となる。

母親もその後に亡くなれば、法定相続分は「遺産は子どもの人数で均等割り」となる。ただし、遺産の分け方の話し合いの中で相続人全員の合意があれば、ほかの割合で分けることもできる。
従って、いくら姉が「親の介護をしたのは、私よ。あなたは何もしなかったじゃない。当然、遺産は私が多くする権利がある」と訴えたところで、弟が認めてくれない限り、姉の主張が通ることは実務上、ほとんどありません。
 
ーー介護の苦労に報いるような法制度はないのでしょうか?

亡くなった人の介護を担い、その人の財産の維持や増加に貢献した相続人が多めに相続できる「寄与分」と呼ばれる制度があります。

ーーでは姉が寄与分を弟に主張すればよいのでは?

弟に寄与分を否定されたり、金額で折り合いがつかなかったりするかもしれません。その場合は、調停や審判に進みます。

しかし、審判で裁判所から寄与分が認められるハードルは極めて高いのが実情です。「介護に専念するために仕事をやめた」くらいのことが求められます。仮に寄与分が認められたとしても少額しか認められないことが多いようです。

親の介護を巡っては感情も絡んでくるので、一度お互いの主張が食い違うと、落としどころが非常に難しくなります。そうなる前に、お互い譲り合いの気持ちになって、話し合うことが大切です。

さきほどの姉弟の事例で言えば、弟は姉に感謝を示すべきですし、姉も寄与分を求めるなら、弟が介護をしなかったことを責めるような言い方はせず、「介護は大変だったし、その分、働くこともセーブせざるえなかった。その分だけでいいから、相続の取り分を増やしてもらえないかな」といった言い方をしたほうがよいでしょう。

交渉ごとですので、相手の感情を逆なでするのは得策ではありません。
 

「公平」は難しい

ーー遺産相続では欲張らず、公平に分ければもめることはないと思っていました。でも、この「公平」が難しいんですね。

難しいですね。

例えば、兄は私立大学の学費だったり結婚費用だったりと、親にいろいろ工面してもらっていたとします。一方で妹は国立大学を卒業し、その後も自活してやってきた、といった場合に遺産の分け方でもめがちです。

いくら兄が「公平に半分に分けよう」と言っても、妹からすればそれは「公平」とは言えませんから。

中には、親からお金を贈与してもらっていたことを隠す人もいます。それがほかの相続人にばれたら、さらにもめます。

ーー相続争いを防ぐには、どうすればよいですか?

財産を残す側が、生前のうちに、遺言書を作成し、遺産の分け方を決めておくことです。遺言書があれば、基本的に遺言通りに遺産を分けることになりますので、もめることはなくなります。

例えば「介護をしてくれた姉には遺産の7割を、弟には3割を相続させる」といった内容の遺言があれば、姉は報われますし弟も従わざるえません。

ーー親が遺言書を作成してくれないときは? 「遺言書を準備して」と子どもからは言いづらいですよね。「死んだ後の話をするな」「そんなにお金がほしいのか」と怒り出す人もいそう。

子どもからはっきりと言うことは難しいことだと思いますので、まずは一緒に相続セミナーに参加したり、相続関連の本をプレゼントしたりといった働きかけをしつつ、親に徐々に関心を持ってもらうのが大切と考えています。
 
古尾谷裕昭税理士の著書
古尾谷裕昭税理士の著書
ーー遺産相続を巡るサスペンス事件を家族でみながら、「私たち、こんな風になりたくないから、準備しておいてもらえたら助かる」とさりげなく言うのはどうですか?

それ、いい案ですね(笑)。

親が事前準備をしてくれそうもないのであれば、きょうだい同士だけでも、遺産の分け方について親が生前のうちに話し合っておくといいと思います。ことが起きる前なので冷静に話せると思いますし、互いに心構えだけでもできていると違いますので。

ーー僕も正月に実家に帰ったときに、姉と話してみようと思います。

ぜひ、そうしてください。
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