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#22 #就活しんどかったけど…
「仕事が合わなかったらどうしよう…」テレビ局を就職先に選んだ理由
志望していた仕事が、もしも自分に合わなかったらどうしよう――。文章でニュースを伝える新聞記者を志し、メディア業界で就活をしていた女性は、最終的にはテレビ局に就職することを選びました。「やりたいことは、本当にそれだけなのか」と迷いが生まれたことがきっかけだったといいます。女性の就活体験を聞きました。(朝日新聞デジタル企画報道部・武田啓亮)
「あなたは記者に向いている」
国立大文系4年の女性は、2年生のころに、受講していたメディア論の講義で、元新聞記者の教授から声をかけられました。
「文章を書くのは好きだったのですが、メディアへの就職は考えたこともありませんでした」
女性は別のゼミに所属して卒業研究を行う予定でしたが、この教授のゼミにも興味を抱き、かけ持ちすることにしました。
メディアの歴史や役割などを学ぶだけでなく、現役の記者の話を聞いたり新聞記事を読んで議論したりする時間もありました。
毎週、論作文が課題として出るのも特徴だったそうです。新聞社や出版社、一部のテレビ局などの入社試験でも課され、筆記試験や面接と並んで重要視されています。
「決められたお題に沿った800字の小論文や作文を書き、先生に添削してもらいました。文章力を鍛えることができ、レポートや就活のES(エントリーシート)にもいかせました」
ゼミでの活動を通じて、女性は記者を志望する気持ちが大きくなっていったと振り返ります。
「読者・視聴者の代わりに様々な人や場所を取材し、情報を広く伝える。知らない人の人生に触れ、そこから得た知見を社会に還元する。そんな仕事への興味が強くなっていきました」
3年夏のインターンでは地方紙などを含め、新聞などの紙媒体を中心に10社ほどにエントリー。うち2社のインターンに参加しました。
この頃は、テレビなどの映像メディアよりも紙媒体への志望度が高かったそうです。
「映像が持つ情報量は具体的かつ圧倒的です。けれど、文章にはより抽象的な事柄を取り上げたり、注目してもらいたい本質の部分を強調できたりする強みもあると思ったんです」
「マスコミ一本足ではなく、色々な業界を受けてみなさい」
教授からのアドバイスを受け、女性は教育関連の会社や文具メーカーなどのインターンにも応募しました。
「一般企業と、試験が特殊なマスコミ業界の就職活動を並行するのは大変だった」と振り返ります。
テレビ局や新聞社の入社試験では、一般企業でも出される適性検査に加え、時事問題などの筆記試験や論作文が課され、対策が必要な項目が多くなります。
「これを長期間続けるのは辛い。できれば早期選考で早めに内々定をもらって就活を終え、卒業研究に集中したい」
ある会社の記者職のインターンで評価され、早期選考にも乗ることができたという女性。
ところが、役員面接まで進んだところで大きな試練が訪れました。
面接は一人ずつ行われ、女性の前に8人の役員が並んでいました。
最初は「仕事で嫌なことを言われたとき、どう対処する?」といった、ありがちな質問から始まりました。
面接も終わりにさしかかったころ、ESに何げなく書いた「考えることが好き」という文言に質問が集中します。
「どんなことを考えるの?」「どのくらい時間を使って?」
女性は「自分自身について、何時間も考えることもある」と答えました。
すると、すかさず更なる質問が飛んできました。
「その結果、自分はどんな人間だと思った?」
女性はここで答えに詰まってしまい、そのまま面接は終わってしまいました。
選考を突破することはできませんでした。
「ここで決めると意気込んでいたので、本当にショックでした。気持ちの切り替えにも時間がかかりました」
その後、女性は4年生の6月からの選考に臨み、最終的に地元の新聞社とテレビ局の2社から内々定を得ました。
新聞を選ぶつもりだった女性ですが、いざとなると迷いが生まれたそうです。
「記者になりたいという思いでここまで来たけれど、私のやりたいことは本当に『それだけ』なんだろうか」
新聞社でも近年は、ビジネス部門への異動など異なる職種への人事異動も増えていますが、キャリアの大半を記者として働くという人もまだまだ少なくありません。
一方、多くのテレビ局では、ジョブローテーションが取り入れられており、営業やイベント企画など、記者以外の仕事を経験するケースが多いといいます。
「もしも記者の仕事が自分に合わなかったらどうしよう、他にやりたい仕事が見つかることもあるのではないか……と考えたんです」
「プランB」を考えた末に、女性はジョブローテーションがあるという地元のテレビ局に就職することを決めました。
若者の「テレビ離れ」や「新聞離れ」が言われて久しく、女性の友人にも「ニュースはネットで十分」という人が多いそうです。
「斜陽産業」と呼ばれる業界に進むことに不安は無かったのでしょうか。
「無料で読めるネットのニュースも、実際に取材し配信しているのはテレビ局や新聞社です。媒体が変わっても、ニュースを届ける仕事そのものは無くならないと考えています」
家族からも反対はなく「不規則な生活にならないよう、体には気をつけなさい」と背中を押してくれました。
「誰でも情報を発信できる時代だからこそ、きちんと取材や分析を経た情報の価値を追求していきたい」と女性は語ります。
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