連載
#20 #就活しんどかったけど…
やりたい仕事が見つからない たどり着いた「逆オファー」という選択
就職活動では、自己分析や企業研究を重ねて説得力のある志望動機を語れるかが大事だとされています。ところが、「特にやりたい仕事が見つからない」という悩みを抱える就活生も少なくないようです。とある国立大文系の4年生は、働きたい企業を探すのではなく、企業に自分を「探してもらう」という方法を選びました。報酬をたくさんもらうことやネームバリューのある会社で働くことよりも、私生活の充実を重視するなど、就活生側の意識も多様化しているようです。(朝日新聞デジタル企画報道部・武田啓亮)
関東の地方国立大で文系学部に通う4年生の男性は、3年生の5月にオンラインの合同説明会に参加しました。夏のインターンに応募するためです。
業種は特に絞らず、メーカーや金融など幅広い業界にエントリーしようとしましたが、壁につきあたります。
「これといってやりたい仕事があるわけではない。志望動機になにを書けばいいのだろうか」
男性の身近にいる学生は、公務員や地元の銀行などを志望する人が多かったものの、どれもぴんと来なかったと振り返ります。
そこで、ネットで紹介されていたES(エントリーシート)の書き方を参考にしつつ、応募する会社ごとに志望動機を考えました。
「御社の理念に共感した」「自分の○○な経験がこの事業に生かせると思う」
ふと、どこかで聞いたような表現が並んでいることに気づきました。
「心にも思っていないことばかり書きました。自分でも、白々しいというか、噓八百だったなと思います」
結局、実際に夏のインターン選考でESを提出できたのは6社ほど。それも全敗でした。
「当時のESを今振り返って見ると、いかにも志望動機が噓っぽい。落ちるのも当たり前でした」
男性はその後、ゼミの研究が忙しくなったこともあり、11月ごろまで就活からは離れていました。
男性の周囲ではあまり多くありませんでしたが、東京などの大都市圏で就活をする学生は、すでに冬のインターンに向けた準備を進めている時期です。
「そろそろ再始動しないとやばいな」
目をつけたのが、自身の経歴や長所などを書いたプロフィールを登録し、それを見た企業側が気になる学生個人に連絡を取る「逆オファー型」と呼ばれる就活サイトです。
企業にとっては、自社にマッチしそうな人材に狙いを絞って採用活動が行えるという利点があります。学生にとっても、自力では探すのが難しい企業と出会える、自分のどこが企業側に評価されているのかを知ることができるといった利点があるといわれています。
一般的に、こうしたサイトを利用するのはITやベンチャー企業が多いとされていますが、近年はメーカーや商社、官公庁の一部などでも採用活動に取り入れる動きがあります。
ネット上では「5千社以上の企業が利用」「就活生の5人に1人が登録」といったうたい文句も目にします。
「継続的に努力ができる」「物事を客観的に観察し、議論の矛盾を指摘できる」
男性は中高生時代の部活動での経験やゼミでの活動を元に、自身の長所を書き出しました。
すると、19社からインターンのオファーが届きました。
業種はITや専門商社、映像製作や食品メーカーなど多種多様で、自分がそれまで意識していなかった業界も多かったそうです。
男性はその中から、2社のインターンに参加しました。
冬のインターンをきっかけに都内のIT企業の早期選考ルートに乗ることができ、志望度も高まっていきました。
「IT業界は早いスパンで知識や技能をアップデートし続ける必要があります。大学での学業についてのアピールが、その企業の求める人物像とかみ合ったのだろうと思います」
4月には内々定をもらい、男性はこの会社に就職することを決めました。
一方で、
「社会人になってどんな生活を送るか、まだ実感できないんです」と男性は話します。
仕事そのものに生きがいを求めるのか、仕事は収入を得る手段と割り切ってプライベートを充実させるのか……。
「実際に2年、3年と働いてみないと分からないし、自分の気持ちが変わることだってあります。自分の働き方を、働きながら決められる会社がいいなと思って就活を進めました。決め手は『仕事についての裁量の大きさ』でした」
自分に興味を持ってくれた企業の中から、条件に合いそうな会社を選ぶ「逆オファー型」の就活は、男性にとって効率がよかったと話します。
「『大会で賞を取った』といった派手な成功体験がなくとも、物の見方や考え方などの内面を評価してもらえたという実感がありました。変にエピソードを盛ったり背伸びしたりすることなく、自分の実力に合った仕事を選べたという点でも、良い選択だったと思います」
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