連載
#23 小さく生まれた赤ちゃんたち
1300gで生まれた娘、旅立った350gの妹 母親が振り返る出産
およそ10人に1人が2500g未満で生まれる「低出生体重児」です
2022年に生まれた日本人の子どもは、約77万人。そのうち、約7万人が2500g未満で生まれる「低出生体重児(ていしゅっせいたいじゅうじ)」です。
早産、多胎児の増加、妊婦の体重制限、妊娠年齢の上昇などを背景に、小さく生まれる赤ちゃんの割合は50年で2倍近くになりました。早く小さく生まれるほど、命の危険や障害、病気などのリスクもあります。
思い描いていた妊娠、出産とは違う現実。6年前、妊娠29週で1300gと350gの双子を〝出産した〟母親は、自分を責めてしまったと振り返ります。11月17日は「世界早産児デー」です。
※世界早産児デーとは:早産の課題や負担に対する意識を高めるために、2008年にヨーロッパNICU家族会や提携する家族会によって制定されました。
「手のひら3個分で生まれたんだよ」
東京都に住む会社員の女性(38)は、小学1年の長女(6)が小さい頃からそう伝えてきました。
長女は2017年3月、妊娠29週のときに1300g、40.5cmで双子の一人として生まれました。予定日よりも2カ月半も早い出産でした。
おなかの中で一緒だった妹は350g、25.0cm。重度の発育不良で、出産より前に心拍が止まっていました。
二つの命は、不妊治療の末に授かりました。双子と分かったときは、うれしさと驚きから内診台の上で思わず「えー!?」と声が出たといいます。
一方で、医師からは多胎はリスクが高い妊娠とも説明され、不安に襲われました。
不妊治療の普及とともに、多胎児は増えています。しかし半数が早産となり、70%が2500g未満で小さく生まれています。
多くの赤ちゃんは妊娠37~41週(正期産)で生まれ、平均体重は約3000g、平均身長は49cmほどです。2500g未満で生まれる赤ちゃんは「低出生体重児」と呼ばれます。より早く小さく生まれるほど、命の危険や障害、病気のリスクが高くなり、医療的ケアが必要なこともあります。
女性は双子の妊娠が分かった後、NICU(新生児集中治療室)のある病院に転院しました。成長する過程で2人の体重に倍以上の差が出たため、妊娠16週で手術も受けました。
以降、仕事を休んで自宅で過ごしていたものの、妊娠22週で破水して入院。医師からは「1日でも長くおなかにいられるといい」と伝えられ、女性もそれを目標にしていました。
あとで知ったことですが、夫(41)には「いま生まれたら2人とも助かるか分からない」と厳しい内容が伝えられていたそうです。
女性は、「23、24、25、26週……と何が何でも持たせたいという緊張感や責任感がありました」と話します。入院中、1日を重ねるごとにカレンダーを塗りつぶし、モチベーションを保っていました。
しかし、妊娠27週、妹は血流が悪くなり、おなかの中で亡くなりました。
「体重差があっても助かった例があると聞いて、励みにしていたのですが……」と女性は振り返ります。病院の配慮で一時的に個室に通され、人目を気にすることなく涙を流したそうです。
その日の夜、エコー(超音波)検査で長女が口をパクパクし、瞬きをするような姿を見て「悲しいけど頑張らなきゃ」と感じたといいます。連日、面会に来てくれる夫や両親にも支えられました。
妊娠29週5日に大量出血し、陣痛がきて経膣分娩で長女と亡くなった妹を出産しました。
出産時、分娩台で「痛い」「出ちゃう」と叫ぶ女性に、助産師が「しーっ」と伝えました。
まもなく聞こえたのは、「ミャー、ミャー」という子猫のようにか細い泣き声。「声が聞けるとは思わなかったので、無事に泣いてくれたことがうれしかった」と女性は振り返ります。長女はすぐに保育器に入れられ、NICU(新生児集中治療室)へ運ばれました。
妹は、分娩台で休んでいるときに助産師が棺に入れて連れてきてくれました。夫と3人で写真を撮ったり、抱っこしたり、別れの時間を大切にしました。
「350gはすごく小さい、軽い印象がありましたが、抱いたらずっしりと重さを感じました。頑張ってここまで大きくなってくれたんだと思います」と女性は話します。
一方で、長女の体重は1300g。人工呼吸器のチューブなどがつながれていました。生きて生まれてこられても、成長が未熟であることに変わりありません。医師からは「最初の72時間は何が起きるか分からない」と伝えられ、祈るように過ごしました。
長女は当初、口に通したチューブから搾乳した母乳を飲んでいました。直接母乳を飲めるようになったのは生後2カ月が経った頃。未熟な赤ちゃんが鼻呼吸をしながら、口から母乳を飲むことは大変な作業で、練習を重ねてきました。
初めての抱っこは、生後1カ月半以上が経ってから。体重は2000g近くになっていました。
長女の成長を喜ぶ一方で、亡くなった妹のことがよぎって突然涙が出たり、精神的に不安定になったりすることもあったそうです。
「動き過ぎたから破水しちゃったんじゃないか、破水しなければもっとおなかの中で育てられたんじゃないか……。自分を責めてしまうことや後悔もありましたが、病院の臨床心理士さんにはき出すことで気持ちの整理ができました」
NPO法人「新生児臨床研究ネットワーク(NRNJ)」理事長の楠田聡医師は、赤ちゃんが小さく生まれる理由について「早産や、双子などの多胎児の増加、妊婦への体重制限、妊娠年齢の上昇、病気などが関係している」と説明します。
早産になると、自分を責めてしまう母親も少なくありません。しかし、楠田医師は「早産は防ぐことができず、一定の割合で発生します。母親が何かをしたから早産になるということではありません」と話します。
周産期医療の発展により、日本では早く小さく生まれても助かる赤ちゃんが増えてきました。人口動態統計によると、新生児(生後28日未満)の死亡率(出生1000人あたり)は、1975年の6.8人から、2022年には0.8人まで下がっており、世界的にも最高水準です。
1500g未満で生まれた赤ちゃんが回復して退院する割合は、89%(2003年)から94%(2019年)になったという報告もあります。
「一方で、昔は亡くなっていた子が助かるようになった結果、医療的ケアが必要な子も増えています」と楠田医師は指摘します。
早く小さく生まれると、脳性まひや視力・聴力障害、発達の遅れがみられることもあります。NRNJのデータベースによると、2010~2019年に生まれた赤ちゃんを対象にした調査で、3歳で発達の遅れが見られる子どもは、妊娠22週では44%、妊娠31週で9.4%でした。
楠田医師は「医療の進歩によって低出生体重児が増えたことを社会全体でしっかり受け止め、退院後も長期にわたってサポートできるように努力していく必要がある」と指摘します。
女性の長女は、誕生から3カ月半が経った頃に退院しました。「生きているだけでありがたいと思っていた」と女性は話します。やっと自宅で家族とともに過ごせ、育児を楽しんでいたそうです。
同じ学年の子どもたちに比べ発達がゆっくりだったため、保育園は年少になるまでの2年間、一つ下のクラスで過ごしました。その間に発達は追いついてきたといいます。
小学1年生になった長女は、昨年生まれた弟をかわいがり、元気に学校に通っています。
長女が成長する姿を見て、いまでも妹の姿を想像してしまうという女性。「双子のママなのに、双子のママじゃない」と思ったこともあるそうです。
一方で長女には、「妹のことをタブー視してほしくない」と、双子だったことを小さい頃から伝えてきました。長女も、「お空に妹がいる」と理解しているといいます。
「長女は、現代の医療技術や、たくさんの方のおかげで助かった命です。のびのび成長できるような環境を用意してあげたいし、自分のわくわくすることを思う存分楽しんでほしいなと思います」
※この記事はwithnewsとYahoo!ニュースによる共同連携企画です。
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