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連載

#3 プラネタリウム100年

プラネタリウム100周年 笑いとともに届けたい、芸人解説員の思い

とらふぐ・田畑勇一さん

都内のプラネタリウムで解説員のアルバイトをしている田畑勇一さん。お笑いコンビ「とらふぐ」のひとりで、イベントなどにも参加して天体の解説をしています=本人提供
都内のプラネタリウムで解説員のアルバイトをしている田畑勇一さん。お笑いコンビ「とらふぐ」のひとりで、イベントなどにも参加して天体の解説をしています=本人提供

目次

2023年10月21日は、ドイツで近代プラネタリウムが誕生してから100周年目の日。全国のプラネタリウムで特別イベントが開催されています。都内のプラネタリウムでバイトをする、お笑いコンビ「とらふぐ」の田畑勇一さんに仕事内容を聞いてみると、芸人との意外な共通点が浮かんできました。(ライター・安倍季実子)

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田畑勇一:立命館大学卒業後に上京して、地元の同級生だった東京大学出身の藤本淳史さんとNSC東京校(13期)に入学。「田畑藤本」としてTHE MANZA認定漫才師、ABCお笑いグランプリで決勝進出、M-1グランプリで準々決勝進出するも、2020年の年末に解散。2022年に、同期の阿部直也さんと「とらふぐ」を結成し、現在は渋谷のヨシモト∞ホールでのライブを中心に活動中。個人では、YouTubeチャンネル「宇宙ふしぎ発見‼︎」を運営し、宇宙や天文学の時事ネタや都市伝説などを紹介している

東京にたくさんあるプラネタリウム

空気が澄んでくる秋は、月や星がきれいに見える時期です。

「気候的にも過ごすしやすい。春も過ごしやすいといえばそうですが、花粉や黄砂が飛んでるし、春の月を『おぼろ月』っていうように、空が霞んでよく見えないんです。それに、秋の月は低すぎず高すぎず、ちょうどいい高さを走るので、月を見上げていても首が痛くならないんですよ」

そんな天体豆知識を教えてくれたのは、お笑いコンビ「とらふぐ」の田畑さん。芸人のかたわら、都内のプラネタリウムで解説員のアルバイトをしています。

とらふぐ(左:阿部直也さん、右:田畑勇一さん)=吉本興業提供
とらふぐ(左:阿部直也さん、右:田畑勇一さん)=吉本興業提供

以前は、駅ナカのそば屋やカラオケボックスなどでバイトをしていましたが、ある時ふと、東京には子どもの頃から好きだったプラネタリウムがたくさんあることに気づきました。

「僕の田舎は京都の山奥の方にあって、星空がめちゃくちゃキレイなんです。子どもの頃から望遠鏡を持って見に行くくらい好きだったんで、せっかくならプラネタリウムで解説員をしたいと思ったんです」

「ただ、気になっていたプラネタリウムには空きがなかったんで、バイト募集をしていた他の館を紹介されました。そこでは3年近く、週1~2回、午前中だけ働いていました」と話します。

ひとまずプラネタリウムでバイトができることになったものの、接客や案内がメインで、上映中は映像作品を流すだけでした。

2020年末、当時組んでいたコンビを解散して時間に余裕ができると、改めて勉強をし直して、解説員をしたいと思うように。そんな時に、はじめに問い合わせをしたプラネタリウムから「バイトの枠ができた」と連絡が来たそうです。

「今はお笑いをメインに、プラネタリムのシフトを調整してもらっています」と田畑さん =筆者撮影
「今はお笑いをメインに、プラネタリムのシフトを調整してもらっています」と田畑さん =筆者撮影

「めちゃくちゃ嬉しかったですね! 当初はピンになったばかりだったんで時間があって、週に3~4日、ガッツリ8時間働いていました」

コンビを組み直した今は、週に2日ほど働いています。勤務時間もフレキシブルで、月10万円前後の収入があるといいます。

スリルとワクワクが同居する生解説

今のプラネタリウムには、田畑さんの他にも副業として働く人がいるため、シフトの相談がしやすいのも特徴です。

「芸人活動を重視してくれるので、柔軟に働ける」のだそう。そして、主な仕事内容は、念願の「解説員」です。

「解説員は、接客・施設の運営・番組作りなど、色々なことをします。その中でもメインになるのが、投影機でドームに映した星々について解説する仕事です。これを『投影』といいます。プラネタリウムでは、上映する映像作品を『番組』と呼ぶのですが、『番組』も含めてお客様の前で星の解説をすることを『投影』と呼びます」

「1番組は約40分。全編が生解説のものもあれば、生解説とナレーション入りの映像と半々くらいになっているものもあります。基本的に、番組内で紹介する内容は決まっているけど原稿はなく、どんなストーリー展開で何を話すのかは自由です」

田畑さんの場合は、その時季にあった暦や星の豆知識、個人的に好きな宇宙論などを織り交ぜて解説することが多いそう。そのため、毎回、全く同じというわけではありません。

「1日に受け持つ番組数は、少ないとひとつ、多いと三つ担当することもあります」 =本人提供
「1日に受け持つ番組数は、少ないとひとつ、多いと三つ担当することもあります」 =本人提供

原稿のない生解説は、緊張感もあって大変な気がしますが、田畑さんは「めちゃくちゃラクだし、楽しい」といいます。

「生解説って、実はお笑いライブでエピソードトークを話すのと似てるんです。自分が興味を持った豆知識や時事ネタ、紹介している星を見た時の感想とか、その時に思いついたことを話すんで、マジで楽しいです」と熱を込めます。

単独でMCとしても活躍中。色々なライブに出演している =筆者撮影
単独でMCとしても活躍中。色々なライブに出演している =筆者撮影

そうは言っても、誰でも簡単に解説員デビューができるわけではありません。

「まずは、勧められた『星空のはなし-天文学への招待-』という本を読むところから勉強を始めました。先輩方にも色々と教わりながら、ある程度経ったら、指導員をお客さんに見立てて解説の試験をして、合格したらデビューです」

田畑さんがバイトをするプラネタリウムでは、1年ほど練習してから試験を受けてデビューする方が多いそうですが、芸人で話し慣れている田畑さんは、バイトを始めて2~3ヵ月で解説員になれたそう。

「さすがに一発では受かりませんでしたけどね。最初はどうしたらいいのか分からなかったので、とりあえず原稿を書いて読んだら『面白くないです』と言われて(苦笑)。2回目の試験では原稿は作らず、自分が面白いと思ったことや興味を持ったことを挟みながら話したら合格できました」

ミスった回が好評 その理由は「人(ニン)」

投影はお笑いライブと同じで、毎回一発勝負です。不思議なことに、上手く話せなかった回の方が、上手く話せた回よりも、お客さんの反応がいいのだそう。

「たぶん、理由は人(ニン)だと思います。人(ニン)とは、芸人界隈で独自の個性や持ち味などを指す言葉なんですが、これがあると同じ言葉でもウケ方が違ったりするんです」

「ミスった回の方が、お見送りの時に『楽しかった!』と声をかけていただくことが多いんです」と話す =筆者撮影
「ミスった回の方が、お見送りの時に『楽しかった!』と声をかけていただくことが多いんです」と話す =筆者撮影

「投影でも、話し方や口調から人(ニン)がこぼれ落ちてるんだと思います。機械みたいにスラスラと上手に説明するよりも、下手くそでも『今、火星がめちゃくちゃ赤く見えるんです!』と一生懸命話した方が、より伝わるでしょうし、親しみやすさも感じるのかもしれません」

解説員デビュー後は、2023年春に投影が始まった番組作りも任されました。

「声をかけていただいて、とてもありがたかったのですが、『テーマは自由』と言われて焦りました(苦笑)。ちょうどその頃、天文学者の人生にも興味を持っていたので、近代天文学の父と呼ばれるヨハネス・ケプラーを題材に選びました」

「シナリオや絵コンテを書いたり、BGMを決めたりと初めてのことだらけでワケがわからなかったですね。でも、先輩方に協力していただいて、シナリオ作りでも『まわりの人にケプラーについて話す感じで作ればいいんじゃない?』とアドバイスをもらい、漫才のネタを作る要領でなんとか完成させました」

イベントに集まった、たくさんの星好きのお客さんに月トークを披露。終了後、大きな拍手が沸き起こったそう=本人提供
イベントに集まった、たくさんの星好きのお客さんに月トークを披露。終了後、大きな拍手が沸き起こったそう=本人提供

最近は活動の場所がさらに広がり、9月に行われた「ムーンアートナイト下北沢 2023」では、星空解説員としてイベントに出演しました。投影もイベントも、「直接反応をもらえるのは純粋にうれしく、やり甲斐もある」と笑います。

解説員として、ますますの活躍が期待できる田畑さんですが、本業は芸人です。ほぼ毎日、東京都渋谷区のヨシモト∞ホールに立ち、月に30~40のライブに出演しています。

「やっぱり賞レースで結果を出すことが一番の夢です。ルミネtheよしもとやなんばグランド花月の舞台に立ちたいですし、全国ツアーもしたいです。『田畑藤本』の時から変わらない夢で、これを叶えたくて『とらふぐ』を組んだので」

「あとは、テレビやお芝居とかもやりたいですね。お笑い以外のことも、どんどんやっちゃう方が芸人っぽいと思うんで。きっと、その活動はコンビにも返ってくるでしょう」

いずれは、「芸人・田畑勇一」として、お笑いの要素を取り入れた解説ができないか――とも夢見ています。

「皆さんに魅力を感じてもらえるような『自分の言葉で話せる解説員』になりたいですね。知識力を高め、トーク力も磨いて、日本中で星の面白さや月の美しさ、宇宙の不思議などを笑いとともに伝えていきたいです」

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