連載
#3 宇宙天文トリビア
生命の起源のヒントが?謎の小惑星フェートン、探査で解明したいこと
秒速36kmですれ違いざまに観測します
謎多き小惑星「フェートン」を知っていますか? 毎年12月の「ふたご座流星群」と関わりの深い、この小惑星に接近して観測しようという探査計画「DESTINY+(デスティニー・プラス)」が進んでいます。どんなことを解明しようとしているのでしょうか。千葉工業大学惑星探査研究センター所長の荒井朋子さん(52)に聞きました。(朝日新聞デジタル企画報道部・小川詩織)
――デスティニー・プラスはどういった計画なのでしょうか。
主な目的は、謎多き小惑星「フェートン」の解明です。探査機で500kmの距離まで近づき、秒速36kmという高速で、すれ違いざまに天体の表面を撮影します。そしてその場で、フェートンが放出しているちりの成分を分析し、データを地上へ送ります。
実は、このフェートンは地上や宇宙望遠鏡からは何度も観測されている天体です。細長い楕円形の軌道を持っていて、地球に近づくこともあります。
毎年12月のふたご座流星群は、フェートンが放出したちりの帯を地球が横切ることで起きています。
でも、フェートンの正確な形や表面の地形はよくわかっていません。小惑星なのに彗星(すいせい)のようにちりを出しているメカニズムを調べることはもちろん、写真を撮るだけでも面白いです。
――探査機はいつ打ち上げの予定ですか。
現状で2024年度後半の予定です。開発中の小型ロケット「イプシロンS」で打ち上げます。イプシロンSでは月よりも遠い宇宙を探査することも目的の一つです。
打ち上げ後の探査機は、小惑星探査機「はやぶさ2」と同じ技術のイオンエンジンを使ったり、月の重力を利用したりしながら、フェートンへと向かいます。予定通りだと、観測ができるのは2028年1月ごろになります。
――観測から、どのようなことを明らかにしたいと考えているのでしょうか。
ふたご座流星群の元になるちりは、他の流星群のちりに比べてナトリウムが乏しいと地上の観測からわかっています。なぜなのか、本当にそうなのか、実際に観測することでわかることもあると思います。
また、今回の観測では、天体から放出されたばかりのちりに含まれる鉱物や有機物の組成を調べることができます。
地球には年間約4万トンのちりが宇宙から降り注いでいます。「そのちりによって、地球に生命の元となる種が運ばれてきたのではないか」という生命起源の仮説の検証につながるかもしれません。
――期待する成果は。
まずは鮮明な画像を撮ることが大事です。もしかすると大きな割れ目や、ちりを出した後の穴があるかもしれません。
形も、はやぶさ2が訪れた小惑星「リュウグウ」のようなコマ型だと考えられていますが、実は全く違う形かもしれません。
撮影した天体の写真が科学誌のサイエンスやネイチャーの表紙を飾るのが夢ですね。私もどんな成果が得られるか、今からとても楽しみです。
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